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見逃しを少なくする胃カメラ
内視鏡検診という新しい枠組みで表題のテーマを考えてみようと思った。検診とは、自分一人の観察、診断では解決できない領域である。他人の眼に他人の評価に耐えうる写真が必要であり、周囲の人もそれを見極める力が必要となる。
一般に我々が対話する時には共通の言語や共通のルールが必要になる。そうしないと誤解が生まれるからである。検診の世界も当然で共通の認識が必要であり、その認識に共通の画像が必要となる。
では、「何を検診するか」から始めなければならない。胃内視鏡検診は胃癌発見を目的としていることは明らかである。ならば、どんな胃癌を発見したいのかと言えば、胃に限らず肺でも子宮でも検診では救命可能な状態で発見する事に尽きる訳で、深達度別の生存率から考えると、胃癌の場合sm癌までであろう。可能であれば凹凸の変化がほとんどないm癌の発見が最も目指すところである。
何故なら、現在は内視鏡的胃癌治療がかなり普及しており、様々な施設で積極的に治療されているからである。胃をできるだけ温存することは、人生において食の不自由がなくなるからである。癌が発生しても、治療後また通常の生活が送れる事は大きな意味がある。例え手術で胃切除になっても生きているという意味では非常に有意義である。
そのために検診の場において見落としのない検査診断が必要となる。
ただ、現実はおおまかに言って日本の胃内視鏡検査での胃癌偽陰性率が約20%あり、意外と見落としが多いのである。それも検診ではない今までのデータであるため今後の内視鏡検診でどういう結果になるかは2-3年後にはわかると思う。精度が高い検査が必要なことは誰も反対する人はいない。
しかし多数を検査する検診では当然、画像写真をどう撮るのか、何枚撮るのかという話になる。通常、マニュアルなどで使われる基本撮影写真は比較的、撮影条件の良い胃形の人である。そこでは、胃全体を網羅したような写真が出される。しかも病変がない症例がモデルになる。
しかし、実際の胃はX線診断をふまえて言えば、釣状胃、牛角胃、瀑状胃、下垂胃など形状の異なる胃であり、他にもひだの多い胃、ひだの少ない胃、屈曲のある胃、屈曲の少ない胃、食道裂孔ヘルニアの強い胃と、そうでない胃など様々な形状がある。一般に内視鏡写真は一見広く写っているように見えても、光の到達領域内でも部位が適切に診断可能かどうかは分からない。その部位を正面でとらえているか、斜めでみているかで長さはかなり異なる。もともと魚眼レンズを使っている時点ですでに内視鏡には問題があり、医者は内視鏡検査には短所があることを知らなければならない。患者さんに挿入する前の体外の画像は通常の肉眼で見える状態とは異なりゆがんでいると知っているはずなのだが内視鏡で胃を観察しているときは私自身も通常の世界を見ているように感じてしまう。わかってはいても錯覚してしまうのである。そのことを検査医や読影医が十分に心に留めておく必要がある。
先程の4つの胃形による問題点を大雑把に言うと、しばしば見落としにつながる部位は、牛角胃や瀑状胃の観察では逆視で胃体下部前壁後壁の観察は比較的容易であるが、順視いわゆる見下ろし観察では体中部、体下部は寸詰まり状態となり広い視野での観察は難しい、特に小彎から前壁の体下部は非常に見えづらくなる。胃下垂や通常の釣状胃でも逆視では体下部から胃角前後壁が観察不十分になる。見下ろしでも、送気不十分であれば大彎伸展不良により見落としがある。ひだが多い人でも十分な送気による大彎撮影が必要であり、その反対にひだが少ない人では、前後壁小彎大彎の位置関係がわかりづらい。食道裂孔ヘルニアでの胃の位置関係にも苦慮する事もある。つまり可能な限りの最高の写真画像を撮っているつもりでも、胃の形や状態によっては盲点や読影不能の場合もある。
胃X線診断と違い、検診の歴史が浅い内視鏡写真では、本当に見逃しを防ぐ事が可能かどうか不安がある。
私は現在内視鏡検査をした時には静止画撮影と同時に動画撮影を行っている。検査終了後に疑問が残る時は静止画を見ても新しい発見は出てこないが、動画では経時的に空気量が変化するため順視、逆視によっての変化が確認可能で連続性も認識できるので静止画より病変を認識しやすい。多数の症例を多人数の医者が動画で確認する事は時間的に無理であるが、2-3人の医者が診断に苦慮したときに動画で確認できれば理想である。対策型の集団検診を考える場合、一定の成果が上げるためには、技量の均一化が求められ検査手順や画像数の基本形が必要となる。さらに医者の選定となれば専門医にと考えることも理解できる。つまり内視鏡専門医のみならず消化器病専門医さらに胃癌大腸癌検診部会参加の方が検査医として認められているが二重読影は内視鏡専門医に限られている。となると気心がしれたグループで診断するときに不都合が出てくる。胃癌に興味のある医師が二人以上のグループで診断し合うなら精度は上がるのだが内視鏡専門医が非専門医に相談することが二重読影にならない欠点がある。今後胃癌大腸癌検診部会参加の方なら同等とみなしてはどうだろうか。互いの技量を知っている者たちが、見落としを防ぐ最低枚数以上の写真、ないしは動画を見せ合って診断すれば良い。厳しく枚数を決めてしまって、盲点や読影不可能な写真を見ながら苦しむよりは成果が上がるような気がする。
次に実施方法として日本消化器がん検診学会が作成した胃内視鏡検診マニュアルは参考になる。佐賀市が参考としているのも同マニュアルであり、撮影枚数も40コマで適時調整して良いとなっている。胃のみの写真でホワイトライトのみで最低限必要な枚数である。検診マニュアルにある最低限必要の基本20コマでは少し足りないと考えられるので40コマで良い。
ただ検査手順にはマニュアルに記載しているように胃内に挿入後、観察せず十二指腸に到達してから胃に戻り、前庭部から体部の観察を逆視と見下ろしで行う方法 と空気量が少ない状態で胃内を観察しながら体部、角部、前庭部に進み、十二指腸を観察した後に胃に戻り体部を逆視と見下ろしで観察する方法の二通りがあるとしている。被検者の反射が強く仕方なく先に十二指腸に入った後で胃を観察する場合はあるが、私は後者の手順が好ましいと思う。
というのは、胃体部後壁病変の中には空気量が少ない時でないと見落としてしまうものがあるからだ。後者の方法でもマニュアルでは十二指腸を観察してからとなっているが、私はPリングまで観察したら十二指腸に行かず胃の観察を優先する。十二指腸に入ろうとすると、しばしばPリングが超えにくくプッシュしてしまい体部大彎粘膜にこすれ痕を残すことがある。さらに十二指腸球部や下降脚に入るときにレンズに粘膜付着によるボケができることがある。それらは胃検査という目的では不適切である。同様に胃内にスコープが入ったすぐは前処置のプロナーゼ液や胃液が体部大彎に溜まっているが、あえて吸引しないことで吸引スポットを作らないのもよい。しかし、せっかく弱伸展状態の大弯も見れるので吸引力を弱くして吸引スポットを作らないように撮影している。
私の考える枚数の一案を提示してみる。あえて食道、十二指腸を無視して写真構成を考えてみる。食道胃接合部より胃に入ると、胃形によって多少異なるが通常前面の体上部から体中部大彎に前処置の胃内容液が溜まっている。吸引スポットを作らぬ程度の吸引で少しずつ送気しながら体上中後壁ないし前壁を観察する。胃内容液がない体下部はほぼ全周が撮影可能となる。
従って、胃内挿入直後の第一段階では可能な限りの撮影として体上部後壁、前壁、体中部後壁、前壁、体下部前壁、後壁の順に6コマの写真を撮る。送気少量であるため、大彎は観察不十分だが胃の伸展が弱い分、前壁、後壁撮影でも小彎まで含まれるので挿入位置によって2コマずつ撮影で可能である。さらに見下ろしでの胃角小弯前後壁の正面撮影は無理だが胃角大弯はほぼ正面で撮影できる。胃角大弯と幽門前庭部大弯の区別は難しいのでわずかにスコープを進めてさらに1コマ撮影する。つまり胃角大弯、幽門前庭大弯として2コマ撮影する。第一段階は合計8コマである。
第二段階は幽門前庭部から幽門輪前部である。空気量は少量でも重力的には左側臥位でこの部位は体部より上方に位置するため、伸展は十分であり観察可能である。理屈では幽門前庭部を前壁、後壁、小彎、大彎の4コマ幽門輪前部の前壁、後壁、小彎、大彎の4コマになるのだが、狭い空間であるため最低枚数で幽門前庭部の後壁よりと前壁よりの2コマでも大弯小弯まで網羅できる。幽門輪前部は収縮輪が認めなければ1コマを合わせて3コマあればよい。収縮輪に湾入が強ければ2-3コマ増えるので第二段階で3-6コマになる。またあまりに収縮輪が強ければ最後の十二指腸観察後の撮影が良い。
第三段階はややJターン逆視で胃角領域の前壁、後壁、小彎の3コマ、さらに逆視を強くして体下部の前壁、後壁、小彎の3コマ、体中部同領域3コマ、体上部領域3コマを撮影するが、その間に体上部から穹隆部大彎にある胃内容液をタイミング良くぬく必要がある。この第三段階で合わせて12コマが必要となる。
第四段階は噴門~穹隆部の撮影である。この部位は見逃すと深部浸潤しやすいので注意深く観察する。逆視による前壁、後壁、小彎、大彎の4コマは必ず撮影する。その後、逆視のまま幽門部までスコープを下ろしていくのだが、胃体部は見逃しやすいのでJターンだけでなくUターンでの観察も必要である。特に体中部後壁のUターン写真撮影を2コマ程度撮影することも好ましい。 第四段階は合わせて6コマである。
第五段階は逆視後で胃が十分に伸展しているので順視で大弯中心に体下部 体中部 体上部の大彎中心に4コマずつ 体上部から穹隆部までの大彎中心に4コマ 合計12コマを撮影する。
これらすべてを合わせると41-44コマ撮影となる。しかし、胃体部はしばしば見逃しが起こることから逆視で穹窿部観察から十二指腸にいく行程で不十分と思う時には2-3コマの追加撮影は許して欲しい。そうなると、胃検査では基本撮影でも50コマ前後が必要になる。
これまで咽頭 喉頭 食道と十二指腸を無視してきたが撮影しないわけにはいかないので状態にもよるが合わせて10コマは必要になる。実際の撮影ではwhite lightだけでも60コマはいると思う。
内視鏡検査という今まで胃の精密検査的な位置にあった検査を検診という場に持ってくるにあたって私の感覚では矛盾した気持ちになる。今までは内視鏡検査をする時、後がない精密検査という意味合いがあった。その感覚は今でも変わらない。それゆえに心構えとして今回の内視鏡検査を一次検診として位置付けていいのか、最後の検診と思わねばならないのか今でも分からない。もともと内視鏡が検診に適しているのかも分からない。このような疑問は持ちながらも内視鏡検診になぜ手を挙げたのかと問われれば、答えは「それしか方法がない」と思ったからである。X線診断に命をかけて頑張っている医師や技師が現在もいる。しかし近年、胃X線集団検診であれ精密胃X線であれ医学教育の場で胃X線診断を指導する人間が居なくなったのである。将来の胃癌診断を正しく繋いでいくためにどうすればいいのか。現実に内視鏡中心となるなら、その弱点を知った上での診断を検診にお願いしたいと思ったのである。
内視鏡検診に合わせて撮影手順や枚数を自分勝手に考察してみた。常に撮影しやすい方ばかりではないときにどのように型にはめこむのか、現在NBIやBLIやLCIなどの特殊撮影はどういれられるのか、病変が存在した時にはどこまで写真を撮っていくか、もっと原則論でいえば胃癌発見目的であれば十二指腸や食道や喉頭、咽頭の撮影は無視していいのか、その外にもまだまだ問題はある。ちなみに胃X線検診での基準撮影法Ⅰ(8枚)では食道撮影はないが基準撮影法Ⅱ(12枚)では食道と圧迫がある。さらに病変を疑った時には追加撮影もされるようになった、何年も苦しんで撮影枚数を決めてきたのである。しかし、質の高いX線診断ができなくなってきた現状では 困難であっても内視鏡検診を進化させていく必要があると考えた。
2020年10月1日 以上
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