発生情報研究室
佐藤ラボ

Laboratory of Cell Signaling and Development

since 2007
ご挨拶

・発生情報研究室について
 がん遺伝子Src(サーク)は正常細胞でどのような生理機能を担っているのか、そしてそもそも、Srcはどのようにしてがん細胞の発生と悪性化に関わるのか、ということを長年の研究テーマとして取り組んでいます。前者についてより具体的にいうと、卵細胞と精子とが出会い、一つの細胞になって発生を開始する受精というイベントにおけるSrcの機能はどのようなものか、後者については受精卵においてSrcとつながりもつ分子群ががん細胞ではどのような働きをもつのか、というリサーチクエスチョンを立てています。発生情報研究室は、このような問いにチャレンジし、研究成果を求めつつ、大学のなかで運営しているラボとして教育やその他の活動にも従事しているラボです。

・本ホームページの目的とゴール
 わたしたちのさまざまな活動の内容やエッセンスを発信することを目的としています。その結果、大学内外のいろいろな人の好奇心を刺激することができれば〜たとえば、このホームページのコンテンツに触れたことで研究の面白さに気がつくきっかけが生まれるようなことがあれば、とても嬉しいです。

・お問い合わせ先
 本ホームページの内容についてのお問い合わせは、下記のメールアドレスまでお願いいたします。
 kksato(アットマーク)cc.kyoto-su.ac.jp
 
 佐藤 賢一
(さとう けんいち、Sato Ken-ichi)
 京都産業大学生命科学部
 産業生命科学科 発生情報研究室
教育および研究
以下、長文です・・。

 私たちは、正常細胞性のチロシンキナーゼSrcが関与する細胞機能を解析対象として、研究を行っています。Srcはその正常細胞性バージョン(c-Src)が発見されて間もない1980年前後頃から、免疫細胞や神経細胞などにおける働きが示されていました。その後、Srcファミリーと総称されるSrcによく似た遺伝子ファミリー(Yes、Fyn、Lckなどを含む)の存在が明らかにされ、個々のSrcファミリー遺伝子の組織特異的な発現状況がわかるようになった中で、Src自体はユビキタスな発現を示す存在であることが示されました。このような状況下で、私たちは1990年代の初め頃から生殖細胞である卵細胞に焦点をあてたSrcの機能解析を行うようになりました。

卵母細胞のバイオロジー
 私たちはモデル実験系としてアフリカツメガエルXenopus laevisの卵細胞を用いることにしました。そしてまず、卵細胞内のSrcタンパク質(当初はエックスワイケーXykと呼んでいたが、現在はエックスサークxSrcと呼んでいる)を生化学的に同定・精製するとともに、受精に伴いそのチロシンキナーゼ活性が上昇することを明らかにしました。当時は受精に伴うチロシンキナーゼの活性化はウニ卵を用いた研究で報告があるものの、脊椎動物でははじめての例であるとともに、その分子実体を明らかにした点では生物種を越えた世界初の報告でした。その後、受精によって活性化されたSrcの生理機能の解明に重点をおいた実験を行ったところ、Srcは体細胞システムにおける基質としても知られているホスホリパーゼCγ(PLCγ)をリン酸化し活性化することで、受精時における種を越えた普遍的な現象である卵細胞内カルシウム濃度の一過的な上昇(Ca2+ transient)と、それによって誘導される卵活性化(egg activation)と呼ばれる生化学的および細胞生物学的な諸反応を誘導する働きを持つことが明らかとなりました。上の2つの写真は左側が産卵直後の未受精卵を、右側に媒精後5分を経過した受精卵を、それぞれ示しています。直径が約1.2〜1.3 mmもあるアフリカツメガエル卵細胞は、受精後数分以内でこのような肉眼でもわかる程のダイナミックな形態変化(表層収縮反応:動物極と呼ばれる色調の濃い半球面が収縮する現象)を起こします。この現象も卵活性化反応の一つです。このように、受精に伴うSrcの活性化は卵細胞に精子が接着・融合してから卵活性化に至るまでのごく短い時間帯で起こる、重要な現象であることが示されました。卵細胞Src-PLCγ経路が受精において重要であることを示す実験結果は、マウスのような哺乳類では得られていない半面、ゼブラフィッシュ(魚類)やホヤ(原索類)、ウニ・ヒトデ(棘皮類)などで幾つかの報告があります。このことをもとにして有性生殖システムの進化を考察すると、陸生動物と水生動物、あるいは体内受精と体外受精の分岐において大がかりなシグナル伝達ネットワークの再編成が起こったのではないか?と考えたくなります。 
 この数年来、研究室で重点的に取り組んでいるのは、Srcがいかにして受精により活性化されるのか、そして精子と卵はどのように接着し融合しているのか、という問題です。体細胞システム(正常細胞性)のSrcは、細胞外からの成長因子や環境ストレスなどのシグナルを感知するしくみ(細胞膜受容体やストレスセンサー)を介して活性化することが知られています。一方で、受精卵に伴うSrcの活性化には卵細胞のパートナーである精子が引き金として働いていることは明確である一方で、その具体的な実行因子や卵細胞側の受容体(受容システム)の分子実体は全くわかっていません。マウスでは遺伝子ノックアウトの解析から卵側でCD9と呼ばれる4回膜貫通型タンパク質が、精子側ではIzumo1と呼ばれる1回膜貫通型タンパク質がそれぞれ配偶子間膜融合に必須であることが示されています。そのため、アフリカツメガエルでも同じまたは似た分子が存在し、受精時に機能している可能性があります。私たちはこれまでに、卵細胞膜マイクロドメインに存在するウロプラキンIIIという1回膜貫通型タンパク質が精子との相互作用や、その後のSrc活性化に重要な働きをしていることを見いだすことに成功しています。今後も引き続きこのウロプラキンIIIの構造と機能を手がかりにした研究を行うことで、受精成立の分子メカニズムの全貌解明に少しでも近づきたいと考えています。

がん細胞のバイオロジー
 一般にSrcをはじめとするチロシンキナーゼの活性が細胞内で過剰に働いた場合、細胞は異常な増殖性を示すようになり、がん化する場合があると考えられています。Srcはニワトリに肉腫の生成を引き起こすラウス肉腫ウイルスの発がん遺伝子(ウイルス性Src)として発見され,次に正常なニワトリが持つ正常細胞性Srcが発見されたこととあわせて、がん遺伝子の定義・概念として重要な「機能獲得(gain-of-function)型変異により細胞をがん化する能力を持つ」という考え方の確立に貢献してきた「がん遺伝子研究のスター」です。では変異を起こしていない正常細胞性Srcは細胞内で何をしているのか?これは先に述べた卵細胞でのSrcの機能探索でも取り上げた課題ですが、私たちはヒトのがん細胞を使って別の角度からこの問題に取り組んでいます。もう少し具体的に言うと「正常細胞性Srcが、細胞のがん化やがん化した細胞の悪性化に関与する場合がある」という問題を扱っています。ヒトのがんが詳しく分子・細胞レベルで研究されるようになり、複数の遺伝子変異の蓄積ががん化の主要原因であることがわかってきました。例えば、がん抑制遺伝子として知られているp53は、がん細胞内でとても高い確率で変異を起こしている遺伝子の1つであることが知られています。このような状況下で、Srcはそれ自体に変異を起こしていない半面、がん細胞が持つ様々な特性に関与している事がわかってきているのです。
 私たちはヒト膀胱がん細胞株を用いた解析から、Srcがこの細胞が示す「血清飢餓環境下での増殖性」という機能に重要な働きをしていることを見いだしました。正常細胞はもちろんのこと、ある種のがん細胞においても、それらを継代培養するときには培地中に血清成分があることが重要です。しかしながら、私たちが実験モデル細胞として使っている株(5637という)は血清がない状態でも血清がある状態とほぼ同程度の速度で増殖をすることができます。上左側の写真は、血清を含まない培地でこの細胞が培養皿いっぱいに増殖した様子を示しています。一方、上右側の写真では、血清を含まない培地中にSrc特異的阻害剤であるPP2を添加したときの細胞の様子を示しています。左の写真と同じ時間が経過しているにもかかわらず、培養皿には細胞のない隙間が多く、またよく見ると細胞の形態が異常になっています。これは細胞がアポトーシスによって死滅しつつある様子を示しているのです。このように、このがん細胞はSrcの活性に依存した「 血清飢餓環境下での増殖性」メカニズムを持っていることが示されました。
 そこで現在私たちは、このがん細胞がSrcを中心としてどのような分子ネットワークによって血清飢餓環境下でのアポトーシスを回避しているのか、という点を詳細に調べようと考えて実験に取り組んでいます。そして、ここでもウロプラキンIII分子をはじめとする細胞膜マイクロドメイン局在性のタンパク質が重要な鍵を握っているらしいことが次第に明らかになってきています。血清飢餓によって作動するSrcチロシンキナーゼのシグナル伝達機構はひょっとするとアフリカツメガエル卵細胞が受精時に起こすシグナル伝達機構と似ているのかもしれない、というイメージを持ちながら実験しています。


ハテナソンのデザインと実践
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ラボの歴史と
研究室メンバー

・2020年度 メンバー(ポジション)

 佐藤 賢一(主宰者、教授)
 トクマコフ アレクサンデル(研究員)
 人見 真矢(特別研究生)
 松田 拓真(特別研究生) 

・ラボの歴史(ふたたび、長文です)
 ヒトを含む多くの生物種の遺伝情報、すなわち全ゲノム構造が次々と明らかにされ、生物学は大きな転換期を迎えています。生物が生まれ育ち、そしてやがては死を迎えるまでの間に遭遇する様々な出来事(生命現象)がどのようなしくみで成り立っているのか?このことを理解しようとする時に、その生物が持つ固有のゲノムDNAの構造と機能を理解することは大きな前提となってきているのです。最近では、特にヒトのような高等な多細胞生物種において、ゲノム構造に占める遺伝子領域(主にタンパク質をコードする領域)は遺伝子ではない領域に比べて圧倒的に小さいことや、遺伝子ではない領域にも重要な生物学的機能があることがわかってきており、ますますゲノムをめぐる生物学の研究は複雑さを増してきています。しかしながら、ゲノムの構造と機能が個々の生物種にとっての生命現象の基盤であることに変わりはなく、その包括的な理解の重要性もまた増すばかりです。
 わたしが研究する上で念願としていることは、生物はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか?ということを明らかにすることです。ただ、この問いは生物学よりも哲学のような他の研究分野にふさわしいかも知れませんし、実験科学的に取り組むにはあまりにも難しすぎるようにも思えます。そこで、わたしはこの問いを「生物はどのように生まれ、どのように死ぬのか?」と問い直して研究に取り組むことにしています。言い方をかえると、生物が生まれるメカニズム、および死ぬメカニズムを明らかにするための研究を行っているということです。このように書くと、ものすごく壮大な、つかみどころのないテーマを扱っているように思われるかもしれません。そこで次にもう少し具体的な研究テーマの話をします。
 わたしは2006年度までの23年間、学生時代を含めて在籍していた神戸大学で研究活動を開始しました。その当初から一貫して取り組んできているのが、がん遺伝子産物Src(サーク)の構造と機能に関する研究です。このテーマに取り組むようになったのは、わたしが大学の卒業研究のために恩師の深見泰夫博士・現 神戸大学教授が主宰する研究室に所属したのがきっかけです。Srcは発がんウイルス(ラウス肉腫ウイルス)が持つ発がん遺伝子の最初の例として最も古い研究の歴史がある「がん遺伝子研究のスター」であるとともに、チロシン特異的リン酸化酵素(チロシンキナーゼ)活性を持つタンパク質としても最初の例として発見された「タンパク質リン酸化研究のスター」でもあります。わたしが研究を開始した1980年代後半は、Srcをめぐる研究動向が「新しいがん遺伝子の発見」や「Srcのリン酸化基質の発見」から「Srcの活性制御機構」や「Srcを中心とするシグナル伝達機構」へとシフトしつつあった時期でした。特に、Srcには発がんウイルスがもつバージョン(v-Src)に加えて、生物の正常細胞のゲノム上にあるバージョン(c-Src)もあることをふまえた「がん細胞と正常細胞におけるSrcの生理機能」が大きく取り上げられるようになってきていました。
 このような状況下で、わたしはウイルス性Srcのタンパク質精製や酵素化学的解析を主とする研究を経て、正常細胞性Srcの生理機能の解析を主なテーマとするようになったのです。現在取り組んでいるテーマは、受精の成立における卵細胞膜近傍のシグナル伝達機構とがん細胞の悪性形質発現(特にアポトーシス抵抗性)にかかわるシグナル伝達機構です。前者ではアフリカツメガエル卵を、後者ではヒト培養細胞をそれぞれモデル実験系として利用しています。ここまでとても長い前置きになりましたが、生物がどのようにして生まれ、どのように死ぬのか?という課題に取り組むにあたり、わたしは受精(生物発生の起点となる現象)とがん(細胞レベルの死を克服した存在であり、かつ個体を死に至らしめる存在)の2つの生命現象を扱っているということです。
 最後に冒頭にお話しした「ゲノム」と私の研究テーマの関係はどのようになっているのかについてお話しします。先に記した「シグナル伝達」がキーワードとなります。ゲノム・遺伝情報はあらゆる生命現象の基盤である一方で、細胞が持つ生物学的機能の実行役はゲノム・遺伝情報をもとにして作られるRNAやタンパク質、そして糖類・脂質類をはじめとする生体分子群が担っています。この生体分子群が生物個体を構成するすべての細胞内外で複雑な情報網をつくることで、生命現象は成り立っています。シグナル伝達は、このゲノムを基盤とする細胞内外の情報網の構造と機能の全貌をとらえた概念であり、またその実体であるといえます。わたしは卵細胞とがん細胞それぞれが示す細胞機能におけるシグナル伝達機構を、Srcタンパク質やその周辺分子群の働きをとっかかりとして詳しく明らかにしていくことで、その全体像の解明に貢献していきたいと考えています。

・過年度 メンバー(現ポジション)

 研究助教

 井尻 貴之(摂南大学講師・京都産業大学生命科学部客員研究員)
 マブブハサンAKM(ダッカ大学教授)

 卒業生・修了生

 作成中
研究成果

・学術論文の発表
医学・生物学関係
高等教育関係

・その他の出版物や発信
発生生物学(培風館、分担執筆)
スター生物学(東京科学同人、分担翻訳)
動植物の受精学(化学同人、分担執筆)
顕微鏡活用なるほどQ&A(羊土社、分担執筆)
Embryogenesis(InTechOpen、編集)
はじめてのファシリテーション(昭和堂、分担執筆)

・活動記録
作成中

・研究資金等の取得状況 
KAKEN(文部科学省、 JSPS)
JST(科学技術振興機構)
ひょうご科学技術協会

研究成果

・学術論文の発表
医学・生物学関係
高等教育関係

・その他の出版物や発信
発生生物学(培風館、分担執筆)
スター生物学(東京科学同人、分担翻訳)
動植物の受精学(化学同人、分担執筆)
顕微鏡活用なるほどQ&A(羊土社、分担執筆)
Embryogenesis(InTechOpen、編集)
はじめてのファシリテーション(昭和堂、分担執筆)

・活動記録
作成中

・研究資金等の取得状況 
KAKEN(文部科学省、 JSPS)
JST(科学技術振興機構)
ひょうご科学技術協会

卵細胞膜マイクロドメインと受精成立シグナル伝達
作成中。
卵母細胞の排卵と成熟の試験管内再構成
作成中。
未受精卵の死:アポトーシスとオーヴァーアクチベーション
作成中。
最近の話題
作成中!
発生情報ラボのホームページをご覧くださり、誠にありがとうございます。
発生情報研究室
佐藤 賢一
撮影日:2020年8月某日
To be announced.
発生情報研究室
トクマコフ アレクサンデル
To be announced.
発生情報研究室
トクマコフ アレクサンデル

メディア掲載など(作成中)