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書評
話は、主人公の「私」は、担当医から難病に罹っていることを伝えられる場面から始まる。それも、おそらく治る見込みのない病気。事実上の「死の宣告」だ。法医学者として数々の人間を切り開いてきた自分が切り開かれる側に回る皮肉に身悶えする帰り道、小さな喫茶店に立ち寄る。BGM、コーヒーの香り、天窓から差し込む光……運命を感じた彼女は、この店を終の棲家にしようと決める。
本作は、迫りくる死に思いを巡らす一人の女性と、彼女と言葉を交わした人々の物語だ。
喫茶店には、50代半ばと思しきマスターや、痴話喧嘩を繰り広げるカップルがいた。死臭とは程遠い生きた空間。夢にまで見た情景そのもの。しかし、注文したスクランブルエッグを見て「人の脂肪みたい」と言ってしまったり、喧嘩に負けてめそめそとすすり泣く男にひどく苛立ったりと、動揺を抑えきれない。
それでも彼女は喫茶店通いをやめなかった。マスターやめそめそ男とも次第に打ち解け、決して派手ではない、穏やかな交流が始まる。やがて視点はこの面白みのない優男のケイとマスターに移り、彼女が終の棲家で得たものは、読者の想像に委ねられていく。
当然のごとく、生の終着点は死である。誰しも死の運命から逃げることはできない。近年は、死と向き合い、自分の人生を総括する「終活」という言葉も流行り、死の準備への世間の高い関心を裏付けている。主に高齢者が取り組む活動だが、早いうちから死に備えて、エンディングノートをつけたり自分を振り返ってみたりしている若者もいるようである。
どのような死を迎えるか。まだまだ当分先だという人もいれば、本作の主人公のように突如として突き付けられる人もいる。だが、猶予があるのであれば、出来うる限り理想的な死に方をしたいというのは誰しも思うところだろう。愛する喫茶店で内心の苦悶を押し隠しつつ振る舞い続けた彼女の姿が余韻となって消えない。
書評家・西野智紀
ブログ:「活字耽溺者の書評集」
http://nashino13188.hateblo.jp/
ツイッター:https://twitter.com/TmkNshn13188
NovelJamとは?
「NovelJam」とは、「著者」と「編集者」と「デザイナー」がリアルに集まってチームを作り、ゼロから小説を書き上げ編集・校正して表紙を付け「本」にして販売までを行う『短期集中型の作品制作・販売企画』です。ジャムセッション(即興演奏)のように、参加者が互いに刺激を得ながらその場で作品を創り上げていきます。
2017年2月に開催した「NovelJam 2017」では「著者」・「編集者」計29人が参加、計17作品が電子書店で販売されるに至りました。作品の準備から完成、販売までの一連の経験を通し、面白く革新的な作品を生み出し続ける「著者」・「編集者」・「デザイナー」がこのイベントから多数生まれます。
今回は、より密度の高い創作環境を提供することを目指し、初の合宿形式での開催となります。また著名・実力派のプロ作家を中心とした審査員をお招きし、出版界からも注目を寄せられるイベントとなります。
◆ノベルジャムについて
Q.3日間の激闘お疲れさまでした。
そもそも何をきっかけに参加しようと思ったのでしょうか?
A.昨年参加されていたふくだりょうこさんの告知を見てです。
『低体温症ガール』は拝読してすぐに暑苦しい感想メールをお送りしたのですが、その時から「短期間でこんなクオリティの高い作品出してくるNovelJamって何なんだ……」と気になっていました。
◆『グッバイ、スプリング』について教えてください
Q.どうしてこの物語を書こうと思ったのですか?
A.昨年のNovelJam作品で一番多くの人に読まれたのが『低体温症ガール』だったと聞いていたので、今年はアワードもあることだしその手の作品がいいのかなとぼんやりと考えていました。ネタも何もほぼ持たずに会場へ向かったものの、ファンタジーやSFではなくリアルな世界観で、あと日頃私の関わった仕事のものを読んでくださっている方に向けてだと恋愛要素も必要だと。蓋を開けてみたら思いのほかそういった作品が少なかったので、気にするべき点がズレていたんだなと反省点となりました。
Q.「死」をテーマにする理由はありましたか
A.単純に「書いてみたかった」に尽きます。
Q.彼女と、ケイとマスターが登場しますね。すれ違いがとても切なく、物語の面白さでもあったように感じます。視点の切り替えにする意図があれば教えてほしいです。
A.相手側の事情が見えていない状態での出会いは、互いに解釈のズレが発生しているので、読み手に二度楽しんでもらえたらな……という意図がありました。
Q.『グッバイ、スプリング』創作中に印象残っているエピソードがあれば
A.メンターで仲俣暁生先生とお話させていただいたことです。
(※メンター……面談サポートサービス)
「同じ喫茶店に何度も同じ顔ぶれが集まる」ことについての必然性を持たせるためには、「喫茶店のある場所はある程度田舎じゃないと成立しない」ということに気づき、「ストーリー上で監察医制度が機能しているからには都内だし、NovelJam会場付近のイメージでいいのでは」と筋が一本通った瞬間がありました。
……が、後々よく考えてみたら八王子じゃ駄目だったことに気づきまして。 最終的に多摩あたりのどこかというイメージで完成しました。詳しい話をすると日本の死因究明の現状についてから語らねばならず長くなるので割愛しますが、「彼女」が現代日本に生きていたという点は自分の中で少しこだわった部分です。
◆創作について
Q.普段はシナリオライターをされていらっしゃるんですよね。
A.女性向け恋愛アプリゲームのシナリオ制作に関わっています。どういうわけか拳銃使ってドンパチするようなキャラ(刑事やスパイ、マフィアといったような……)をお任せいただく機会が多いです。リアル職業モノが大好きです。
Q.シナリオと小説の違いはどんなところでしょうか
A.普段は案件ごとの世界観やディレクターさんからの要望、また途中から引き継ぐ形であればメインライターさんの色に合わせて文体を変えています。毎日コンスタントに仕事をしていると、「あれ、自分らしいってどんなだっけ……」という状況に陥ることがあり、NovelJamでは何も考えずに自分の色を出せるという点が一番の違いだったかと思います。
Q.次回作について
A.審査員の先生方からも、その他頂戴したご感想でも、「1万字じゃ足りなかったでしょ。読み手も足りないって思っちゃうんだよ」「なんで短編なんだ」「続きが読みたい」というお言葉がたくさんありました。今回の作品をプロローグとして、長編を書いてみたいなという願望はあります。
Q.小説は今後も続けられるのでしょうか
A.亀の歩みで続けていく所存です。小説も好きですが、ゲームシナリオも相当好きなので。
Q.最後に読者の方にメッセージをお願いします
A.個性豊かなNovelJam作品が並ぶ中で、『グッバイ、スプリング』は講評でもありました通り「丸い」作品です。尖った面も棘もなく、ひたすらドライに淡々と物語が進んでいきますが、読み終わった時に優しい気持ちになってもらえたらなと思っています。お楽しみいただければ幸いです。
参照:
ふくだりょうこさん twitter
https://twitter.com/pukuryo
『低体温症ガール』
https://bccks.jp/bcck/148604/info
2018年3月26日出版創作イベント「NovelJam 2018」。熱狂の中から生まれた作品が、実際に電子書籍として発売されてから約1ヶ月。その販売実績・広報活動・表紙デザインなど、チームで作り上げた「本」というパッケージ全体を評価し、グランプリを発表します。
また、アワード審査員である、作家・藤井太洋さん、マンガ家・ 鈴木みそさんによるトークセッションも! コーディネーターはジャーナリスト・日本独立作家同盟理事のまつもとあつしさんです。
→https://peatix.com/event/349083/view