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病気リスクを管理する先行予測型医療(戸川利郎)

昨今、医療は治療から予防へと大きく変化しています。医療技術に頼るばかりではなく、病気になる前に回避する医療システムを構築することが、高齢化社会を救うことになるでしょう。

■先行予測型医療とは

医療はここ数十年の間に、大きく変容しました。臨床検査が普及。コンピューターを活用した画像診断をはじめ、レーザーメスや内視鏡の発達など、治療手段も極めて豊富になりました。しかし過去の医療は、「病気になったら治療する」ことに力点が置かれてきました。これを私は、予防や(病気の原因になる)リスクの管理に力点を置いた「先行予測型医療」に転換させることを提案します。

●ホメオスタシス

先行予測型医療とは、心身の健康やホメオスタシス(生体の恒常性)の維持を重視する医療で、東洋の「養生」の考え方に近いものがあります。医療技術やリスク管理の手法を、1人ひとりが自身の健康管理に取り入れ、病気になる前に回避するシステムです。

実現に向けて、国民に医療知識を普及するテーマパーク、医療情報ネットワークの完備、高齢者の健康学校などの機構整備が必要になって行くでしょう。最先端の医学をこうした方向に集結させて行くのが、未来医学の使命です。


■X線CTと画像診断技術の進歩

生きた人体の中身を見られるようになったのは、X線装置の発明以来100年の歴史しかありません。それ以前はダビンチの人体図に代表されるように、死体を解剖して絵にするしかありませんでした。

1970年代以降に開発されたX線CTなど各種のコンピューター断層撮影装置は、体を輪切りにした状態を鮮明に表示してくれるが、画像を何枚も見ないと病巣が見つからないという限界もありました。

3次元画像装置は、コンピューターで何枚もの断層像を重ねて3次元化します。画面を見るだけで立体的な病巣の様子がわかります。臓器の色分けや、断面の取り方も自在なので、手術前のリハーサルや、解剖や手術の医学教育用にも有効です。

この進歩と同時に、私はどんなに画像診断技術が進歩しても、すべてがコンピューター任せになることはあり得ないことを強調したいと思います。これらはあくまでも道具であって、使うのは私たちだからです。


■アメリカの高齢化社会と長期ケア制度の導入

長期ケアとは、あらゆる年齢の慢性的障害を持つ人が日常生活を行うのに必要な介助を指します。米国では、その大半は公的サービスではなく家族、友人、親せきなど、それも女性によって担われています。そのため、改革で恩恵を受けるのは高齢者とその家族です。

米国の65歳以上の人口は2020年までに17%になります。長期ケアの必要な人は75から84歳人口の27%、85歳以上では52%。公的長期ケアの支出は1993年に約700億ドル(約7兆円)で、大半は、所得基準で資格の決まる貧困者のための連邦政府のメディケイドと呼ばれる制度に占められています。

米国では、プログラムの策定権限が州政府に与えられているため、ケアの実情が州ごとに異なります。高齢者が自宅に住むことを希望する結果、在宅ケアを受ける障害高齢者が増加しています。

これは政府の財源削減にはならず、さらに従来の公的長期ケアシステムは専門化しすぎていて、十分に消費者の視点や希望が反映されていません。その上、高齢者に必要な急性の医療と慢性的な在宅ケアとの統合を全く欠いていることなど問題は多いのです。

●クリントン大統領の医療改革

アメリカのクリントン政権は、包括的な医療改革を推進しました。一部の改革は議会を通りませんでしたが、大統領として初めて医療改革を提案し、長期ケアをそれに組み入れようとした努力は評価されるべきでしょう。

この計画では介護を受ける本人や家族の選択が尊重されており、所得や年齢による制限がありません。また州にかなり柔軟なリーダーシップを持たせ、選択、決定から結果評価にいたるまで一貫して消費者の声を重視します。この計画が、将来の長期ケアシステムの青写真となることは間違いありません。

日米両国は実情も背景、文化もかなり異なりますが、相互の経験や失敗に学ぶ事は多々あるはずです。高齢人口の特性や介護者の姿勢、高齢者に影響を及ぼす諸要因などの比較は意義深いものがあります。共同研究や情報交換は米国で長期ケアシステムを、日本でゴールドプランを、そして21世紀の長寿革命を成功させることになるでしょう。