THE WEDDING PRESENT "Going, Going..."

ザ・ウェディング・プレゼント2016年9月2日リリース、通算9作目のスタジオ・アルバムの紹介

Tracklisting

#01 Kittery
#02 Greenland
#03 Marblehead
#04 Sprague
#05 Two Bridges *Album Version
#06 Little Silver
#07 Bear
#08 Secretary
#09 Birdsnest
#10 Kill Devil Hills
#11 Bells
#12 Fifty-six
#13 Fordland
#14 Emporia
#15 Broken Bow *re-recorded
#16 Lead
#17 Ten Sleep
#18 Wales
#19 Rachel
#20 Santa Monica

Review

改めて説明するまでも無いが、その31年間のキャリアの中で、The Wedding Present(以下TWP)とCineramaの中心にいるデイヴィッド・ゲッジというアーティスト/バンドマンは、常に現在進行系で、ソングライター・コンポーザーとして、ヴォーカリストとしての技術を磨き、頻繁にギグを積み重ねながら、ひたすらに愚直なまでに、己の揺るぎない個性を研ぎ澄ませてきた人物である。


前作『Valentina』から数えること4年6ヶ月ぶりとなる本作は2016年9月2日にリリースされたフル・レングスのスタジオ・アルバムとしては9作目となる。再始動後の12年間で4作、CINERAMA名義の作品を含めても31年間でスタジオ・アルバムは13作品だから決して多作とは言えないが、それだけ楽曲の制作プロセスに充分な時間をかけるのがデイヴィッド・ゲッジのやり方でもある。
TWPやCINERAMAでの歴代のスタジオ・アルバムは、そのいつ終わるとも分からない音楽的な探求の旅の途中経過のレポートの様でもあったと思う。2004年のTWP再始動後のスタジオ・アルバム3作『Take Fountain』『El Rey』そして前作『Valentina』はライヴの現場で育まれてきた楽曲をフィーチャーしているその段階での最高到達点と呼べる傑作ぞろいだが、本作もまた2013年のツアー以降に断続的にステージ上で披露されてきた新曲を中心にフィーチャーしている点ではその3作の手法を踏襲しているとは言える。しかし音楽的には単なる延長線上には非ず、後述するようなコンセプト作りから始まり、大胆な試みも取り入れられており、ドラスティックな成熟を見せたCINERMA時代、商業的にも成功を収めた90年代前半のRCA時代の作品群や、それこそデビューから数年のジャングリー・ギター・ポップ然とした習作も含め、この31年間に培ってきた音楽的な語彙をこれでもかと惜しみなく総動員した上で、2016年の現代に生きるロックバンドTWPとしての新しい音楽世界へと晶華させている。ただただ圧巻という他無い。


全20曲、77分。これまで1時間にも満たぬかつてのLPサイズの長さの作品がほとんどだったTWPのスタジオ作品の中では言うまでもなく最長の大作となったが、1曲の中に詰め込まれた様々なアレンジのアイディアだけではない、近年の楽曲至上主義と呼びたいストイックなソングライティングへの取り組みが随所に現れ、インストゥルメンタル主体の5曲を含め、隅々までTWP作品らしいメロディラインが煌めき、聴くものを平伏せさせるTWPのトレードマーク、怒涛のギターサウンドが強烈なバンドアンサンブルと共に繰り出され、クライマックスとなる場面が幾度となく訪れる。右チャンネルに本作のギタリスト、サミュエル・ビア・ピアス(残念ながら本作発表後の全曲再現ツアー後に脱退)の時にリリカルに、時にフリーキーにと、楽曲に合わせニュアンスに富んだプレイを繰り出すリード・ギター、左チャンネルにデイヴィッド・ゲッジの硬質なストローク・プレイとリズム・ギター、そして得意のボトルネックを使ったプレイ、2人の対照的なスタイル・音色のエレクトリック・ギターを全編に渡って、敢えて左右のチャンネルに分けているのも効果を上げていて、それぞれのギターサウンドに注目して聴いているだけでも相当楽しめる。前作『Valentina』から引き続き、Red Hot Chilli Peppers、Black Sabath、Weezer、Adele、Beyonceなど数多くの作品を手がけてきた名匠、Andrew Schepsが本作では全編に渡って録音からミキシングまで共同プロデューサーとして携わっているのも大きすぎるポイントで、TWP特有のポップネス、メロウネスを残しながら、ライヴでのTWPらしさを容易に思い出させるエネルギー溢れるバンドサウンドを際立たせた全体のサウンディングも見事だ。録音、ミックスダウンは1992年の『The Hit Parade』シリーズや、2002年のCinerama『Torino』でも使用した英リヴァプールのParr Street Studiosがメインだが、かつてAndrew Schepsがプロフェッショナルのスタジオエンジニア向けの講義を行った『Mix with the Masters』の企画でTWPをゲストに迎えて南フランスのスタジオLa Fabriqueで行ったセッションからも”Birdsnest”が収録されている。


前作の『Valentina』もまた緩急つけた構成で聞かせる1作ではあったが、今回はその比ではないだろう。叙情と激情が交互に訪れる冒頭15分にも渡る4曲のインストゥルメンタルは近年の作品だったら曲間のインタールード的に扱われていた要素を、1曲1曲丁寧に『Going, Going...』という大きな絵画の1ピースとして成立させることに成功している。ポスト・ロック的なアプローチも感じさせる轟音ギターの#1”Kittery”から幕を開け、エクスペリメンタルな#2”Greenland”(ちなみにミステリアスなナレーションを担当するのは元The FallでMark E. Smith夫人でもあったブリクス・スミス。バック・グラウンドの効果的なキーボード・サウンドはTWP/CINERAMAの過去作でタッグを組んだスティーブ・フィスクが担当。スティーブは本作の要所要所でキーボード・プレイで貢献している)、初期CINERAMAのインスト"Model Spy"を思い出させる女声コーラスを中心に組み立てられた#3を経て、CINERAMAイヤーズのオーケストラルな側面をこの1曲に凝縮させた様な#4に至るまでのこのパートだけでも引き込まれることは間違いない。
この4曲で聴き手を完全に異世界へ誘っておいて、いよいよメインパートが幕を開ける。2013年にツアー会場と通販限定で7インチ・ヴァイナル・シングルとしてリリースされていた#5 “Two Bridges”(今回再録音)から始まる、めくるめく怒涛のTWP印のギターロック16連打に完膚無きまでに打ちのめされる。どこを切ってもTWPらしい、エネルギッシュな展開に痺れるし、冒頭の4曲からの流れで聴けば、これ以降のどこまでも限界無く突き進んで行くような展開に、心が躍る躍る。その後もステージやBBC 6 Musicのラジオ・セッションで評判だった楽曲が並ぶ。美しいアルペジオと後半のヘヴィリフの対比が見事な#6”Little Silver”、終盤にかけての三声のハーモニーと相まって突き抜けていく開放感に心奪われるリードオフシングルの#7”Bear”、一転してパンキッシュな#8”Secretary”では本作のベーシストキャサリン・ウォリンジャー(ちなみに元Waterboys/World Partyで知られるKarl Wallingerの姪っ子にあたる。残念ながら彼女も本作発表後の全曲再現ツアー後に脱退)のコケティッシュなヴォーカルもフィーチャーされる。「1曲にフルサイズのEPに込められるアイディアを注ぎ込んだ」とDavidが語る#9”Birdsnest”では重量感のある彼女のベースラインも光る。2004年再生後以降のTWPと80年代のジャングリーなスタイルのTWPが完全に融合したかの様な疾走感溢れるこのトラックは本作でも屈指の名曲と言っていい。Cinerama時代からの盟友Terry de Castroのハスキーなバック・コーラスも耳を惹くロッキンな#10”Kill Devil Hills”まで、一気に駆け抜けるここまでの6曲は、息をつく瞬間を探すのが難しい。TWPファンなら至福の時を過ごせること請け合いだ。
場面転換となるようなミディアム・マイナー調の楽曲も個性的な名曲揃い。#11”Bells”はCINERAMA後期からの黄金律と呼びたいお得意のパターン、#12”Fifty-Six”は後半の反復しながらヒートアップしていく展開がこれまた超王道のTWPスタイルで、思わず快哉を叫ぶ。バックに忍び込むメロトロンとのユニゾンが気持ちいい。今やTWPに欠かせない屋台骨と呼びたいチャールズ・レイトンのドラミングはここでも大活躍している。Cinerama後期から何度も試みられてきたストリングスとバンド・サウンドとの掛け合いがスリリングな#13”Fordland”に続く#14”Emporia”はリリカルなピアノの調べに導かれるように始まるが後半で様相が一変する。双頭の龍の如く両チャンネルでスライド・ギターが暴れ回るエンディングには全身が総毛立つ。それにしてもデイヴィッドのヴォーカリストとしての魅力は充分分かっていたつもりだが、この曲での歌唱は絶品と言う他無い。本作全編を通じて感じることのできる力強さは、さらに表現力に磨きがかかったデイヴィッドのヴォーカルに依る所は本当に大きいと思う。2016年のRecord Store Day限定カタログだった2枚組のオムニバス盤『Brighton's Finest Vol 1』で先行公開されていたソリッドな#15”Broken Bow”(今回再録音)は時が時ならシングルになっていたかもしれない逸品。先のオムニバス盤での一筆書き的なラフなヴァージョンもぜひ聴いて欲しい(個人的にはこちらのオムニバス・テイクの方が好み)。本作は音楽的手法もさることながら、こういったシングルとしても通用しそうなナンバーが目白押しで、あらゆる面で出し惜しみが一切ない。箸休め的なポップさもありながら、曲中のストリングスとバンド・サウンドが拮抗するリフ構成に痺れる#16”Lead”、再びアッパーな快作#17”Ten Sleep”と持ち味を活かしたコンパクトな小気味良いナンバーが続き、#18”Wales”は再び#1で登場したようなポスト・ロック的なインストゥルメンタル主体の名品。#1もそうだが、デイヴィッドお気に入りの盟友Steve AlbiniのグループShellacやExplosion in the Skyも意識したようなバンド・アンサンブルがたまらない。再び登場のスティーブ・フィスクがメロトロンとオルガン・プレイで楽曲に華を添える。ところで後述するように本作のコンセプト的に曲名は北米の都市、ユタ州ウェールズに由来しているのに、英国のウェールズ語のナレーションをフィーチャーしているのが何とも洒落ている(というか単なる駄洒落か)。ここでのナレーションを担当しているのは2014年のRecord Store Day限定のリリースだった、『Valentina』収録曲をウェールズ語詞で再録した別テイク集10インチ”EP 4 Can”の訳詞を担当したAndrew Teiloというウェールズで活躍中の俳優とのことだ。
本作でデイヴィッドが一番のお気に入りというのがとびきりキャッチーな#19”Rachel”。「TWPは常に、徹底したポップソングを書いてきた。これもその1つだよ」と言う通り、これはTWP/CINERAMAを通じても屈指のポップサイドの傑曲だ。そして10分にも及ぶクロージング・チューンの#20”Santa Monica”。発表後海外ではファンからの支持の高い1曲だが、あの1991年の『Seamonsters』が湛えていた空気感を、詩作も含めて、この1曲の中で描ききってしまったかの様な壮大なスケールの名曲である。


ちなみにデイヴィッド・ゲッジと夫人のフォトグラファーであるジェシカ・マクミランの二人が北米を東海岸メインから西海岸の(当時二人のコテージがあった)サンタ・モニカへと横断したロード・トリップの模様を記したブログがTumblr上に公開されているのだが、本作に付属しているDVD(楽曲をイメージしたBGV集的なもの/リージョンALL・PAL方式)はその旅の道程で撮影されたものが主な素材となっている。そのブログのタイトルと本作のアルバム・タイトルはそのブログの冒頭で全編引用された英コヴェントリー出身の詩人フィリップ・ラーキンによる同名の詩「Going, Going」(1974年の遺作『High Windows(高窓)』所収。邦訳題「動く、動く」は直訳過ぎて何だかなと思うが)に由来している。存命時には国民的な人気詩人だったラーキンの作品は1960年生まれのデイヴィッドの時代には馴染みのあるものだったことは想像に難くないが、なぜこの詩を全編引用したのか理由は定かではないものの、74年に発表されたこの詩がかつての英国の田園風景を慈しみ、現代文明に侵食されていく様を嘆く、ラーキン作品にしてはやや珍しい社会批判的な側面もある作品なのだが(まさにこのフレーズが容易に連想させる「Going, Going, Gone!」、オークションや競りの際に飛び交う「これでおしまい、はい落札!」というお決まりの口上を思い出させる)、本作の大半で綴られる恋愛模様は過去の二人の関係と現在の二人の関係を対比的に描く構図を取っていることから、何となくだがデイヴィッドが本作で描く物語に相通ずるニュアンスを感じ取ることができる(両者とも特異なロマンティシズムを持ち合わせているという点でも)。バンド史上で新作スタジオ・アルバムでは初めてとなる全曲の歌詞がブックレットに掲載されたこともまた特筆すべきことで、定評あるストーリーテラーとしてのデイヴィッドの才にも改めて注目して欲しい。
それにしても先のブログは一見すると何でもないプライベートな旅行ブログの体を成したものだったが、その書き出しからして意味深であった。
「バンドも無い、移動の為のヴァンも無い、別にこれといった課題も無い。単なるデイヴィッド・ゲッジとジェシカ・マクミラン二人のプライベートな旅だ。でもこれは、ウェディング・プレゼントのプロジェクトなのだ。フィルムを撮るのかい?知り合いの家に夕食を食べによるのかい?曲も書くのかい?いろんな質問があるだろうね...おそらくそのどれかはあるし、どれでも無いし、あるいはその全部かもしれない」
結果、このイントロダクションの通り、上記したブログで綴られた旅の道程が、本作『Going, Going...』への階となったわけである。
創作上のコンセプトやモチベーションをこの旅に求めたことは、通常のアルバム制作のルーチンワークに陥らない方法として、単なるきっかけに過ぎなかったのかもしれないが、詩作面ではこの旅の途中で訪れた都市や地名から多くのヒントを得たのは間違いないだろう。実際本作に収録された楽曲の曲名は全て北米の地名となっていて、M2”Greenland”でラジオ放送の天気予報の様なブリクス・スミスによるナレーションが流れているが、これが実は座標軸となっている。それぞれの座標軸を地図アプリ(例えばGoogle Map)上で検索すると、本作の収録曲名と同名の街の位置を示す。曲順に辿れば、先のブログで二人が訪れた街を含め、東海岸Kitteryから西海岸Santa Monicaへの道程が地図上に引かれることになるので、一度お試しいただきたい。それにしても、「秘書」とか「キル・デビル・ヒルズ」とか、街の名前としては似つかわしく無いものもあって、由来が知りたくなりますね。
今までも様々な謎掛けが仕掛けられていた作品もあるにはあったが、今回はだいぶ手が込んでいる。音楽的なシリアスさ、ストイックさとこういった遊心が共存するあたりもまたTWPのカタログらしいと思う。その旅の途中でジェシカが撮影したモノクロームの写真を使用したアートワークも非常に美麗なので、同時発売の2LP盤(CDとDVDも同梱されている)をおすすめしたい。


1985年3月デビューで最初の活動休止が1997年2月までで活動期間は11年11ヶ月、2004年9月の再始動後、本作発表でちょうど12年を迎えたわけで、TWP名義では再始動後の方が活動休止前の期間よりも長く活動していることになった。冒頭で述べた通り、本作はデイヴィッド・ゲッジ31年間の音楽的なキャリアの総決算的作品となったが、2016年の今現在を生き続ける現役のロックバンド、THE WEDDING PRESENTの堂々たる最新作としても、他の多くの新作に引けを取らない文句無しの1枚となった。TWPと同時代に活動したロック・バンドの多くが昔のラインナップで懐古的なリユニオンを果たし、昔のヒット曲を中心としたワンショットのギグや音楽フェスへの出演でお茶を濁す中で、TWPほど真摯に自らの過去の作品に向き合いながら、勢力的にツアーを展開し、その過程でさらに新たな楽曲を創り、今やその意義が軽視されがちでもあるパッケージとしての音楽作品を産み出し続けている例は他には見当たらないし、TWPがここまで、どこまでも本気で現役で活動し続けるとは誰も予想だにしなかったのではないだろうか?「これで終わり(Going, Going, Gone!)」なんて雰囲気は微塵も感じさせない。むしろ本作のタイトルとして相応しいのは「Alive and Kicking(まだまだ絶好調)」ではないかな。
本作の終曲"Santa Monica"はこんなラインで締めくくられる。「涙を拭きなよ/ここで物語は終わるよ」。しかし本作を聴き終えた今去来するのはそんなラインや、或いはモノクロームのアートワークが醸す寂寥感ではなく、ここからまた、新たな旅が始まるのだというワクワクするような高揚感だ。次がまた4年後になるのか誰にも分からないが、その時を楽しみにしながら、しばらくは本作の世界に浸っていようと思う。
Links

本作は下記ショップで購入が可能です。

・CD+DVD
Amazon.co.jp

・Vinyl(2LP)+CD&DVD
Amazon.co.jp
Tower.jp

iTunes (オーディオ部分のみ)

発売元レーベルScopitones(海外)

関連カタログについては下記インスタントストアもご利用下さい。
TWP-CINERAMA SHOP

Movies

【THE WEDDING PRESENT PROFILE】
1984年末に解散したセミプロ・バンドThe Lost Pandasの中心人物だったDavid Lewis Gedge(デイヴィッド・ルイス・ゲッジ/苗字Gedgeはかつて日本で汎用されていたジェッジではなく、ゲッジの表記が正しい)と同バンドのベーシストだったKeith Gregory、Davidとは中学時代の同級生だったギターのPeter Solowka、オーディションで参加したドラマーのShaun Charmanの4人で1985年初頭にイングランド・リーズで結成。バンド名の由来はDavidが10代の頃に敬愛していたNick CaveのバンドThe Birthday Partyに倣ったもの、同じくDavidの趣味であるアメリカン・コミックのBatmanの同一エピソード名から取られた、など諸説あり。通称はTWP、愛称はWeddoesが一般的。

1985年5月にシングル「Go Out And Get 'Em Boy!」で自身のインディーズ・レーベルReceptionからデビュー。たった500枚しか生産されなかった同シングルをBBC Radio 1の大物DJだったJohn Peel(その晩年までTWPの熱心なファンとしても知られていた)が気に入り、頻繁に番組でオンエアした事もあり、また鮮烈なライヴも評判を呼んでインディーズ・シーンで瞬く間に話題を集めていくこととなる。1987年には今日までの代表曲の1つである4枚目のシングル「My Favorite Dress」をリリース。同曲の再録音テイクも収録したデビュー・アルバム『George Best』は同年10月にリリースされている。 1988年には初期シングルとBBC Radio 1"John Peel Show"でのレディオ・セッションを集めた編集盤『Tommy』、シングル「Nobody's Twisting Your Arm」などでThe Smiths亡きあとのインディーズのトップ・バンドとして頭角を現し、1989年初頭には有力紙N.M.E.の読者人気投票で当時世界的に人気を誇っていたU2やR.E.M.を押さえて見事にNo.1を獲得するほどの人気バンドとなる。

同時期にメジャーのRCAへの移籍が発表され、その第1弾リリースとなったのは本来自身のレーベルから発売予定だったものの、ディストリビューターの倒産で宙に浮いていた『Ukrainski Vistupi V Johna Peela』という企画アルバムだった。BBC Radio 1"John Peel Show"内で披露し話題になった2回の特別編成によるウクレイニアン・フォーク・セッション(英国のウクライナ・コミュニティの愛唱歌である東欧~ロシア、英国北部由来のルーツ音楽を、ゲストプレイヤーや伝統的なアコースティック楽器も交えてパンキッシュなアレンジで演奏したもの)をまとめたもので、TWP本来の音楽性からややかけ離れていたにも関わらず、これが折からのワールド・ミュージック・ブームなどもあり全英アルバムチャート最高位22位という、バンド初の大ヒット作となる。

同じ1989年にはバンドの代名詞的な名曲"Kennedy"をメジャー第1弾シングルとして発表。同曲を収録したオリジナル2ndアルバム『Bizarro』はまたもや全英アルバムチャート最高位22位を記録。1990年には同作から、これもまたキャリアを代表する名曲「Brassneck」をシングルカット。当時まだ知る人ぞ知る存在だったアメリカ・シカゴを拠点にするエンジニア、Steve Albiniを迎えて再レコーディングされた事も大きな話題を呼んだ。TWPとSteve Albiniのコラボレーションはさらに充実した作品を産み続け、同年の「3 Songs EP」、翌1991年には傑作の誉れ高い3rdアルバム『Seamonsters』へと結実。同作品はその重厚な作風にも関わらず全英アルバム・チャート最高位13位をマークし、現時点でのバンドの長い歴史上最大のヒット作となっている。

4ピース・ギター・バンドとして誰も達し得なかった孤高の極みを見せつけると同時に、後に英国最高のソングライターの一人とまで称賛されるユニークなソングライターとしてのデイヴィッド・ゲッジ才能をも開花させたこの2作のアルバムに続いて、1992年には毎月1枚、A面新曲、B面カヴァーのシングルを7インチ・アナログ盤のみでリリースするというシリーズ企画『The Hit Parade』を敢行。シリーズ中ではキャリア上現時点で唯一のTOP10ヒットとなった「Come Play With Me」をはじめ、全12枚が全英シングル・チャートTOP30にランクイン。エルヴィス・プレスリーが35年間保持し続けた年間最多チャートイン記録に肩を並べるギネス・レコードとなる大成功を収め、バンドはセールス的にもクリエイティヴ面でも最初の絶頂期を迎えた。また1993年3月には初の来日公演も実現している。

その一方で、頻繁なメンバーチェンジが繰り返され、1994年にはついにオリジナル・メンバーはデイヴィッド・ゲッジ一人となる。以降、RCAを離れIslandに移籍し発表した『Watusi』(1994年)はシアトルを拠点に活動するSteve Fiskとの初顔合わせとなった作品で、従来のTWPらしさから離れたポップなアプローチも曲によっては取り入れられ、その後のCINERAMAへとつながる布石ともなる重要作となったが、Islandのポリグラム・グループ吸収合併の煽りを食ってリストラされ、本作は発売から程なくして廃盤の憂き目に遭う。その後インディーズのCooking Vinylに移籍してコンセプト・ミニ・アルバムの『Mini』(1996年)、フルレングスのスタジオ・アルバム『Saturnalia』(1996年)とさらなる音楽的な発展と成長を見せた充実作を発表していくが、セールス的には以前ほどの成功を収められなかった。結果的に、1997年2月のツアーを最後にTWPは一旦活動休止となった。

TWP活動休止中のソロ・プロジェクトとしてデイヴィッド・ゲッジはCINERAMA名義での活動を開始。自身の映画音楽とソフト・ポップスへの愛情を注いだ、TWPとは全く異なる音楽性を体現すべく名付けられたこのユニットは1stアルバム『Va Va Voom』を1998年に発表。TWP後期のポップな作風を推し進め、女性ヴォーカルやアクースティック楽器も活かした、デイヴィッドの目論見通りにTWPとは異なるアプローチが成功するが、これ1枚きりと思われたCINERAMAでの活動はその後5年にわたって本格化。ソングライターとして、さらにはヴォーカリストとして磨きのかかった新境地を感じさせる名曲も続々と生まれ、TWP活動休止当時のギタリストSimon Cleaveも合流。ライヴ活動も積極的に行われる中で、旧知のSteve Albiniを制作陣に迎えた2作のアルバム『Disco Volante』(2000年)、『Torino』(2002年)を発表。ギター・ロック・バンドとしての方向性が確固たるものとなり、さらにはTWP時代のレパートリーもライヴのセットで解禁され、TWP時代に勝るとも劣らぬ屈強のライヴ・アクトとして新旧のファンにアピールしていく事になる。

Steve Fiskとの9年ぶりの邂逅となるスタジオ作業を経て2003年10月、Cinerama名義で名曲「Don't Touch That Dial」を発表。そのままSteveの地元米シアトルでのレコーディングに突入するが、2004年9月、突然のニュースにファンは驚かされる。CINERAMAの当時のメンバー4人のままでTHE WEDDING PRESENTとして活動していくことを公表。「改名」という形ながら事実上のTWP再始動が決定したのだ。同年10月には再始動第1弾シングル「Interstate 5」、翌2005年1月には約8年ぶりに全英TOP40に返り咲いた名曲「I'm From Further North Than You」をリリース。当初CINERAMAの4作目として制作がスタートしたアルバム『Take Fountain』はTWP名義のフルレングスのスタジオ・アルバムとしては通産6作目の作品として2005年2月にリリースされた。

以降も頻繁にメンバー・チェンジが繰り返されながらも世界中をツアー。Steve Albiniとの4作目のコラボレーションとなったアルバム『El Rey』(2008年)を経て、2009年3月には約16年振りとなる来日公演がついに実現。2年連続の来日公演となった2010年5月のライヴは『Bizarro』発売21周年記念ツアーの一環として行われ、その模様を完全収録した2枚組ライヴ作品『Bizarro:Live in Tokyo, 2010』が2011年2月に日本独占でリリースされている。2012年3月にはそのライヴでも披露された新曲を含む約4年振りの新作スタジオ・アルバム『ヴァレンティナ』が日本盤でもほぼ同時リリース。同月『Seamonsters』発売21周年記念ツアーが北米でスタート。4月には通算4度目となる来日公演を敢行した。
2013年3月には自身2度目となる『George Best』全曲再現と『The Hit Parade』シリーズ発売21周年記念の全A面曲発売順再現をカップリングにした通算5度目の来日公演。2014年10月にはデビューから1997年最初の活動休止までの全スタジオ作品6作とコンピレーション2作をそれぞれDVDとセットにした4枚組のエクスパンディッド・エディションで再発するプロジェクトが欧州Edselレーベルから一挙発売。多くの未発表・未CD化音源が日の目を見ることになり、1994年の『Watusi』に関してはオリジナル盤発売以降20年目にしてようやく市場に復帰することになった。
2015年5月にはTWPの2012年作『ヴァレンティナ』を全編リアレンジの上、CINERAMA名義で再録音したCINERAMA版『Valentina』も発表。原曲からかけ離れた意外過ぎるアレンジと共に、CINERAMA開始当初に本来志向していたであろう徹底したソフト・ポップス的なアプローチが好評を博した。そのアルバム発売記念で、オーケストラセクション21名を含む大規模編成でのショーも開催。ロンドンでのライヴは公演からわずか5ヶ月という短いスパンでCD/DVDの2枚組『Live 2015』としてリリース。CINERAMAとしての歴史を総括したかの様な素晴らしい一夜が映像と音声の両方のフォーマットでパッケージ化されることとなった。

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