「うちの奥さんがね、好きなコンビのお笑い芸人がいるんやけど」
「あっそうなんや」
「でもそのコンビ名を忘れたらしくてね」
「好きなのに忘れるって、どうなってんねんそれ」
「で、まあいろいろ聞くんやけどな 全然わからへんねんな」
「そしたら奥さんの好きなコンビの名前を一緒に考えてあげるから、特徴を言うてみてよ」
「なんかな、ブランド牛みたいな名前って言うてた」
「和牛やないかい。その特徴はもう完全に和牛やがな。すぐ分かったよこんなもん」
「俺も和牛やと思ったんやけどな、奥さんが言うには、あまりしゃべらずに寝たまま漫才するらしいわ」
「ほな和牛とちゃうなあ。和牛のボケの水田はこだわりがうるさい『へりくつ漫才』が持ち味やからね。」
「そやねん」
「ほとんどしゃべらない寝たままの漫才なんかしたら、『あれは漫才なのか?』って物議をかもすに決まってるで」
「そやねんそやねん」
「ほな和牛ちゃうなあ。ほなもう一度詳しく教えてくれる?」
「あと奥さんが言うにはな、コンビのどっちかがプロ顔負けの料理の腕前らしいねん」
「和牛やないかい。ボケの水田が調理師免許を持ってて、独り身のアホの坂田師匠に料理をふるまったところ、その本格的な料理と味に師匠の舌が唸ったんや。ほんで調理中は、料理のできない相方の川西は師匠と風呂に入って背中を洗い流したらしいわ。」
「でも分からへんねん」
「何がやの?」
「グルメ番組を何本も持ってるらしいねん」
「あーほな和牛とちゃうなあ。レコーダーのお任せ録画に「和牛」ってワード登録しておくと、確かにめっちゃめちゃグルメ番組が録画されるんやけど、見てみたらほとんど芸人の和牛じゃなくて肉の和牛でひっかかってるのよ。見てたらもう和牛の漫才なんかどうでもよくなって、焼き肉を食べに行きたくなるからね」
「そやねんそやねん」
「ほな和牛ちゃうやないか。もうちょっと何かない?」
「奥さんがな、彼にツッコまれるならボケてもいい、って言うねん」
「和牛やないかい。ツッコミの川西の「もうええわ」は業界で一番男前と言われていて、川西にツッコまれたいと表明する芸人が後を絶たないからね」
「でも分からへんねん」
「何が分からへんの?」
「俺もそれ和牛やと思ったんやけどな、チーンってグラスで乾杯したくなるらしいねん」
「ほな和牛とちゃうなあ。和牛の水田はチーンってツッコまれるときにいちいちグラスの汚れを気にしていつまでも拭きそうやからね。それはそうと髭男爵の本『一発屋列伝』は読みごたえがあって面白かったわ」
「あー今思い出したんやけどな、和牛ではないって言うてたわ」
「ホンマに分からへんがなこれ。どうなってんねんもう」
「そんで娘が言うにはな」
「娘?」
「ハナコちゃうか?って言うねん」
「いや絶対ちゃうやろ。もうええわ~」