徳島県神山町にわたしのふるさとはあります。
全国生産量一のすだち、山脈をぬって流れる鮎喰川、県下有数の滝など豊かな自然に囲まれ、神々の伝説や歴史に彩られた町です。町の8割は険しい山林で昔はとても豊かな山村でした。時代とともに林業や農業は衰退していき、山や田畑を手放し便利で仕事のある都会へと出て行く人が増えました。今では少子高齢化で人口は6千人になりました。
わたしは5歳になるまで9人家族でしたが、おばさんが結婚して1人減り、ばあやんが亡くなり、じいやんが亡くなり、高校生になる頃には、6人家族になっていました。3つ上の兄とわたしは中学卒業まで神山で過ごしていましたが、町には農業高校しかないので、中学卒業と同時に徳島市内に下宿を借りて市内の高校へ通うようになりました。神山に生まれ育つ子どもは、こうやって高校卒業まで過ごしていきます。
たまに実家へ帰ると小さな頃からよく挨拶したり暖かい笑顔で見守ってくれた人が亡くなってしまっていたりします。この家この町に生まれ、どれだけのものに囲まれてわたしは育ってきたのでしょうか。
東京の大学を卒業した兄は町役場に勤めることになり実家へ帰ってきました。2008年の夏、兄にお嫁さんが来てくれることになり家族が7人に増えました。そこで、今まで過ごしてきた家を取り壊し、この場所に新しく3世帯の住む家を建てることになりました。新しい家の設計図には、わたしの部屋はありません。