シェフ下川インタビュー

取材 文・写真 奥田彩(2017.11.2)

牛肉に魅せられ続ける、シェフの「料理人」人生。

しもかわの料理長である下川明さん。
料理人歴はなんと50年以上!
そして、料理人人生の中で常に関わって来たのが、「牛肉料理」です。 

「料理を始めたのは20歳から。ちょうど、前回の東京オリンピックがあった年です。料理の世界に飛び込んだ理由は、住み込みで、住むところ、食事、着るもの全てがついてくるから(笑)。最初にお世話になったのは、町の洋食屋さんでした。」

 洋食屋さんでは、ハンバーグやスパゲッティなど、あらゆる料理を経験。
その後、神戸が本店の「みその」の東京支店で、本格的に牛肉料理を学びます。
「みその」は、鉄板焼きステーキの元祖と言われるお店。
しかし、下川さんが最初に配属になったのは、鉄板焼きではなく、またも系列の洋食店でした。

 「しばらく洋食店で働いていたところ、そこを閉店することになり。その場所で『牛カツ』をやってみないか?と声をかけてもらったんです。洋食屋の経験があったのでトンカツは何度も作っていましたが、牛カツは全くの初めて。自分で色々工夫して、美味しいものを作り上げていきました。」 

当時は、まだ今ほど牛カツがメジャーではない時代。
関西では昔からあったものの、東京で牛カツを知る人はほとんどいなかったそう。
当然、お店のメニューとして牛カツを出しているところもありません。

 「牛なので、レアやミディアムでやれば、柔らかく美味しく食べられるかな、と、ステーキの焼き方を参考に色々試行錯誤しました。」

 牛カツは見事にヒットし、下川さんは関東の牛カツの先駆け的存在に。
その成功を認められ、今度は神戸の本社から、鉄板焼きの方でメインの料理人としてやってみないか?という辞令が。
下川さんは、そこで初めて本格的な牛ステーキの焼き方を学びます。
東京の牛カツの面倒も見ながら、神戸でステーキの修行と、行ったり来たりの多忙な日々が続きました。
着実に牛肉料理の技術を高めていった下川さん。
あらゆる料理の経験をし、自分のお店を初めて持ったのは、料理人を始めてから17年が経った頃でした。
まさに、「満を持して」。

 「大岡山で、リーズナブルな串揚げのお店をオープンしました。お肉はもちろん、魚介や野菜など、あらゆるものを串揚げにしました。牛カツで、揚げ物の経験はかなりありましたが、串揚げはまた別。ここで自分なりの串揚げの技術を確立しました。」

 その後、そのお店で「牛肉のにぎり」をやってみたらどうか?という話が持ち上がります。
牛カツの時同様、その頃は今ほど牛肉のにぎり、というメニューが確立されていない時代。
周りでそのようなメニューを提供しているお店もありません。
しかし、下川さんは試行錯誤の末、自分なりの牛肉のにぎりを完成。
その後オープンした六本木の鉄板焼きのお店でも定番メニューとして牛肉のにぎりを出したところ、有名人も含め、多くの人の中で話題となりました。 

「六本木の鉄板焼き店は、今の『創作料理』のテイストに繋がるお店となりました。大分の牛肉を使い、色んな部位をステーキとして提供していました。ステーキ以外に、メンチカツやコロッケも評判でした。芸能人の方にもよく利用していただいていましたよ。牛肉のにぎりは、ボーナスをもらった後に自分へのご褒美に食べに訪れるサラリーマンもいらっしゃいました。」 

六本木のお店で2~3年オーナーを務めた後、下川さんは自由が丘、本厚木と、お店を立ち上げていきます。
最終的に、今まで極めてきた「ステーキ(鉄板焼き)」「衣揚げ(牛カツ)」「にぎり」の全てを楽しめるお店として、今の新百合ヶ丘の地で「創作料理しもかわ」をオープンしました。
しかし、何故新百合ヶ丘にお店を?

 「カミさん(奥様)のお兄さんが近くに住んでいて、この場所を紹介してもらったんです。当時はまだ家もまばらでほとんど空き地。駅も今みたいな立派なものじゃなかった。でも、この地に立った時に、直感で『すごく良い場所だ!』と感じました。新しいものを開拓する場所としてもぴったりだった。ここでお店を開くことができたのは、自分にとって宝くじに当たるのと同じくらいの奇跡です。カミさん、親戚、仲間に本当に感謝しています。」

希少な牛肉「見島牛(みしまうし)」を選んだ理由。

しもかわで提供している牛肉は、脂多めのお肉ではなく「赤身肉」。
しかし、元々はそれほど赤身の肉にこだわっていたわけではありません。 

「年齢もあり、このお店をやりだして、A5やA4の脂が多い肉をあまり食べられなくなってきたんです。また、コースで料理を出す時に、あまりに脂が多い料理はどうかな、という思いもありました。自分が食べられないものをお客様に出すのもなあ、と思い、良質な赤身肉を探すようになりました。」 

日本全国、様々な牛を調べ、しもかわに合う牛肉を探し求めた下川さん。
そこで目に留まったのが、山口県の牛でした。 

「見島牛という、産地指定の天然記念物の牛を見つけました。実際に現地に牛を見に行って驚きました。牛がとても小さいんです。自然放牧で育った牛達で、餌も人工のものではなく、自然のもの。それなのに、お肉は全身霜降りなんです。自然にできた霜降りなんですね。初めて食べた時、とにかく美味しくて衝撃を受けました。」

 見島牛は、地元の人が食べることのできない、希少な牛です。
島の外に出荷したものだけを、食用として食べることができます。
また、見島牛は保存しなければならない頭数が決まっており、入荷も不安定。レストランへの出荷は、しもかわが最初だったそうです。 

現在しもかわでは、見島牛の中でもさらに下川さんが厳選した部位のみを使用しているため、数が少なく食べられる数量が決まっています。
ご希望の場合は早めにお店に確認をするのがおすすめです。
 
しもかわでは、見島牛以外に、同じ山口県の「阿武牛」や、国産の厳選した黒毛和牛を楽しむことができます。
黒毛和牛は、脂が少ない「もも」や「ランプ」の部位を中心に使用しているそう。 

「赤身肉は、脂が多い肉と比べて歯ごたえがありますが、硬くて食べづらい、という声も多い。しもかわでも、赤身肉へ方向転換した当初は、硬くて食べられないと怒って帰られるお客様もいらっしゃいました。しかし、常連さんを中心に少しずつ受け入れられるようになり、今では赤身肉の味の良さをわかってくださるお客様も増えてきました。」 

世の中は今ヘルシー志向。赤身肉への関心も高まっています。
早い時期から赤身肉にこだわり、厳選したものを最高の調理法で提供できるしもかわは、そのようなヘルシー志向の人達からも注目を集めるお店になっています。

牛肉で、太く長く楽しく生きる。年齢を重ねて変わった食への想い。

赤身肉への方向転換を経て、下川さん自身の食生活にも変化があったそうです。

 「もともと中華料理が大好きで、一時期は昼も夜も中華料理屋さんに行っていたのですが、ここ最近はバランスのとれた定食なども取り入れるようになりました。食品添加物も、極力取らないように気をつけています。もちろん、しもかわのメニューでも、化学調味料は一切使用していません。」 

ボディビル歴42年。体が資本の料理人、下川さんは今年で72歳です。(注:取材当時)
毎日のトレーニングはかかせません。毎日愛犬(8歳、雑種、オス、ひとなつっこく素直)と一緒に散歩をするのが日課。
いつまでも元気はつらつでいてもらいたいですね。

牛肉メニューを最前線で追求し、自分の求める牛肉をストイックに探し続けてきた下川さん。
牛カツも、牛肉にぎりもそうですが、ヘルシーで厳選された赤身肉に目を付けたのも、先見の明。
常に時代を先取りしてきた下川さんだからこそ、注目できたところなのかもしれませんね。 

「牛肉の職人」が思考錯誤の末に確立した牛料理を、温かく家庭的な雰囲気の中、リラックスして味わえるお店。
特別な日はもちろん、たまのご褒美や、『お肉を楽しみたいけど、重たいのは食べられない』という方が安心して楽しめるお店が「創作料理しもかわ」です。
私も今度家族を連れて行きたいと思います。