作/ロバート・L.メイ イラスト/アントニオ・ハビエール・カパロ
訳/上田勢子・堀切リエ
定価:本体1700円+税 A4判変型上製40頁
ISBN 978-4-86412-186-6 子どもの未来社
★クリスマスの前の日のことです。
トナカイの子どもたちは、いつものようにルドルフの赤い光る鼻をからかっていました。この鼻のせいで、ルドルフは仲間に入れてもらえません。
★その夜は霧が深く、サンタさんのそりは、なんども木のてっぺんをかすり、もう少しで飛行機にもぶつかりそうになりました。迷わないようにプレゼントを配るのはとても大変そうです。
★こまったサンタさんがトナカイの家にやってきて、ドアをあけると、ベッドに小さな赤い光をみつけました。そう! それはルドルフの赤くて光る鼻でした!
さて、その先はどうなったでしょう?
★クリスマスソングでおなじみの「赤鼻のトナカイ」。この歌の元になったお話があることは、日本ではあまり知られていません。このお話が生まれたのは、今から80年以上前のアメリカです。世界的な大恐慌から回復した1939年、シカゴの大手デパート・モンゴメリーワード社の支配人は、クリスマスシーズンの宣伝として子どもの本を作ることを思いつきました。支配人は、コピーライターのロバートL. メイに相談しました。けれどその頃、ロバートの妻は病気で寝こんでいて、4歳の娘バーバラは、「なぜママは、ほかのうちのママとちがうの?」と寂しそうにしていました。「他の人とちがっていても、神様が創った命はみんないつか幸せになるよ」とバーバラに伝えたかったロバートは、「仲間はずれの赤い鼻のトナカイが幸運をつかむ」というストーリーを思いつきました。数か月後、妻はガンで亡くなり、支配人は本の制作は中止していいと伝えましたが、ロバートは「つらい時だからこそ、この話が必要なんです」と言ってお話を書き上げました。
★絵本はそれからの数年間で数百万部印刷され、アメリカ中で大ヒットしました。子どもたちはルドルフが大好きになりました! けれどメイは妻の医療費の借金を返し続け、生活に困っていました。それから10年が経ち、「ルドルフ」の版権はメイに譲られました。ルドルフの歌をつくろうと、J・マークスに作曲を依頼して、大人気歌手のジーン・オートリが歌うとレコードは大ヒットしました! これが今も世界中で歌われている「赤鼻のトナカイ」です。
★こうしてロバートは「ルドルフ」のおかげで経済的な困難から抜け出すことができました。でもなにより、「ルドルフ」が世界中の子どもたちの人気者になったことがうれしかったのです。その後もこの物語は様々な形の絵本になって、クリスマスプレゼントとして子どもたちに送られ、愛され続けているのです。
★訳者の一人である堀切は、2019年にカリフォルニア州バークレーを訪ね、町の書店の一角で「ルドルフ」を見つけたのです。
★もう一人の訳者である上田は、バークレーから車で2時間ほど離れたカーメルの町に住んでいます。堀切が絵本を持って訪ね、上田が調べたところ、この絵本はロバート・L.メイの物語を忠実に再現していて、しかも日本では翻訳が出ていないことがわかりました。「ぜひ日本の子どもたちにこの絵本を手渡しましょう!」と、二人の気持ちはすぐに決まりました。(写真は『ルドルフ』初版本を手にする上田勢子)