フォーム 予約 決済 メルマガなど集客機能がオールインワン!
追加の情報提供です。
私たちは8月31日に外務省、厚生労働省、内閣人事局、総務省との質疑応答の場を持ちました。各省庁からの出席者は、国際人権規約やILOを担当している職員です。そのやり取りの中で、重要な問題が明らかになりましたので、報告します。
1 ILOについての研修がなされていないこと
① 各省庁ともに、ILO研修がほとんど行われていないことが明らかになりました。
特に、公務員の問題を担当する内閣人事局と総務省では全く行われていません。
② これでは、ILOからの勧告の意義を十分に理解することができません。国内法制を国際労働基準に合わせようとする意欲を生じさせることは困難です。
③ したがって、私たちはCEACR(組合註:専門家委員会)が日本政府に対して、ILOの研修を行うよう勧告することを求めます。各省庁の担当者が約2年で異動になってしまう現状の中では、喫緊の課題です。
2 裁判所にILOからの勧告を知らせていないこと
① ILOからの勧告などを、各省庁が裁判所に伝えていないことも明らかになりました。
② 日本国憲法の98条2項には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に順守することを必要とする」とあります。ILOからの勧告を知らずして裁判所が「誠実に順守する」ことは不可能です。ILOからの勧告は、裁判所の判決に反映されなければなりません。
③ したがって、私たちはCEACRが日本政府に対して、ILOからの勧告を裁判所に知らせるよう、勧告することを求めます。
3 労働基本権付与にあたって、「交渉コストが増加し、混乱を招くおそれがある」、「労使交渉の長期化により業務執行に影響を及ぼすおそれがある」などの課題を挙げて、「期限を区切った行動計画」を策定しようとしないことこれらの点についての私たちの質問に対する政府の回答要旨は以下のとおりです。
① 「交渉コストが増加し、混乱を招くおそれがある」についての回答
・(労働基本権制約の理由にはならない、という)ご意見があることは承知している
・国民の理解が得られない、ということで「慎重に検討」としている
・コストの比較資料はない。交渉コストの増加という点は、行政機関などのヒアリングで出ていた話である
・合意に達するまで団体交渉を重ね、労働協約を締結し、それに基づいて給与を支給しなければならなくなることが「コスト増」の原因となる
※この点に関する「現行制度でも合意を得るために交渉を重ねるのではないか?」という私たちの質問に、明確な回答はなかった。
② 「労使交渉の長期化により業務執行に影響を及ぼすおそれがある」についての回答
・交渉が妥結しないことにより、「混乱」や「業務執行に影響」が生ずる
※この点に関する「現行制度でも交渉が妥結しないことはあるのではないか?」という私たちの質問に、明確な回答はなかった
以上
2020「ILO専門家委員会報告書」を受けて
私 た ち の 考 え
2017年5月の申立から足掛け3年、私たちの取り組みがようやく結実しました。協力いただいた多くの皆さんと共に、この成果を今後に生かしていきたいと思います。
◆ ふたつの大きな成果!
1 「非正規公務員の労働基本権問題」が初めて取り上げられたこと!
専門家委員会「見解」の要旨は、①非正規自治体公務員から労働基本権を奪わないよう、②「自律的労使関係システム」をすみやかに検討し、③取られた措置の詳細を報告するよう求める、というものです。ILOが初めて、真正面から非正規公務員の労働基本権問題を取り上げた点で画期的なものです。「任用の適正化と処遇改善」などと言い逃れようとした政府のダメージは大きいはずです。
2 「期限を区切った行動計画の緻密化と行われた進展の報告」を求めたこと!
2018年のILO総会の「基準適用委員会」で、日本政府は「(労働基本権保障に向けた)期限を区切った行動計画」の策定を促されました。11回にも及ぶ勧告を無視し続ける日本政府に対して、ILOが業を煮やした(?)カタチです。しかしその後も2年間にわたり、政府は計画策定をサボり続けてきました。今回さらに「強く」ILOから、「非正規公務員の労働基本権問題」を含めた「行動計画」提出を促され、政府はさらに追い込まれています。
◆ この勧告を活かした取り組みを!
私たちにとって充分な内容の勧告が出された、と評価しています。「公務員全体の労働基本権回復」の中に埋没することなく、非正規公務員に焦点を当てた具体的な勧告が出されたことを、皆さんと共に喜びたいと思います。
憲法98条2項に「条約及び確立された国際法規の誠実遵守義務」が定められているにもかかわらず、日本政府は、「勧告に法的拘束力はない」として、居直り続けてきました。しかし、11次の勧告に加えて「行動計画の策定」まで求められ、政府が国際的に追い込まれていることは確実です。今後の課題は、国内の運動の力を着実に積み上げて行くことにあります。
新型コロナウィルス感染問題もあり活動が思うように進まず、私たちの具体的な取り組みが遅れています。ILO総会も来年に延期となりました。
まずはこの成果を多くの仲間と共有し、非正規公務員の労働基本権確立に向けた取り組みを着実に進めて行きたいと考えています。
★ 今後とも、ご協力~ご注目をよろしくお願いいたします。
日本政府は今国会に「地方公務員法改正案」を提出し、5月11日に可決された。施行は2020年4月1日である。
私たちの組合は、今回の法改正はILO87、98号条約に違反し、逆行するものであると考える。ILOが日本政府に対し、以下の勧告を行うように求めるものである。
<申立の趣旨>
日本政府は今国会に「地方公務員法改正案」を提出し、5月11日に可決された。施行は2020年4月1日である。
私たちの組合は、今回の法改正はILO87、98号条約に違反し、逆行するものであると考える。ILOが日本政府に対し、以下の勧告を行うように求めるものである。
① 改正地方公務員法の施行を中止するよう勧告すること
② 一般職の非正規地方公務員に対し、直ちに労働基本権を付与するよう勧告すること
③ 最低限、一般職の非正規地方公務員に対し、現業地方公務員(公営企業職員および技能・労務系職員)と同様に「地方公営企業労働関係法」を適用し、直ちに団結権・団体交渉権を保障するよう勧告すること。
<申し立てに至る背景と経過>
今回の地方公務員法改正は非正規地方公務員の処遇の改善に焦点を当てたものであるにもかかわらず、非正規当事者および労働組合の念願である「雇用の安定」と「均等待遇の実現」、「労働基本権の確立」から、大きくかけ離れたものと言わざるを得ない。
特に、労働基本権に関して労働組合に引き起こされる事態はおおむね以下のとおりである。
① 現在、労働基本権を完全に有している22万人もの特別職非常勤職員が一般職に組み入れられ、地方公務員法を適用されることにより、労働基本権を奪われること
② 具体的には、特別職非常勤職員の加入する労働組合が解散(職員団体への組織変更)を余儀なくされ、ストライキ権と団体交渉権がなく、団結権さえ制限された職員団体制度に組み込まれること
③ 以上の事態を引き起こす今回の法改正が、日本政府が批准しているILO87号、98号、(151号)条約に逆行するものであること
1 国および自治体の公務員制度のあらまし
公務員の雇用(任用)・賃金・労働条件・服務などについては、国の場合は国家公務員法、自治体の場合は地方公務員法によって規律されている。これら2つの法律は、ほぼ同様の仕組みとなっているものの、一部に重要な違いがある。申立との関係では以下の点が挙げられる。
① 労働関係法の適用について
労働関係法の公務員への適用関係は複雑に入り組んでおり、全体を正確に理解することは至
難の業である。
(「独立行政法人 労働政策研究・研修機構」の所長である濱口桂一郎さんの論文「地方公務員と労働法」と「非正規公務員問題の原点」をぜひお読みいただきたいと思います。そこでは「労働法は公法私法二元論に立っていない」、「公務員は現在でも労働契約である」と明確に指摘されています。ちなみに、この2論文は総務省自治行政局公務員部公務員課が編集する「地方公務員月報」に掲載されたものです。したがって政府・総務省から入手してお読みいただけたら幸いです。)
私たちが強調したい点は、非正規地方公務員は労働契約であるにもかかわらず、パート労働法や労働契約法が適用されないことである。ここでは、労働基準法及び労働組合法に絞って説明したい。
a) 国家公務員は労働基準法が適用されないが、地方公務員には原則適用される。特に自治体の現業公務員と特別職公務員には全面的に適用される。
b) 労働組合法は国・自治体とも非現業公務員には適用されない。しかし、独立行政法人に従事する国家公務員は「独立行政法人労働関係法」により労働組合法が適用される。公営企業や技能・労務系業務に従事する地方公務員には、「地方公営企業労働関係法」により労働組合法が適用される。
② 非正規公務員の類型について
a) 臨時職員について
臨時職員については、国家公務員法60条、地方公務員法22条に同様の規定がある。「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に限って採用される職員であるが、以下
の違いがある。
・国の場合、国家公務員法60条による臨時職員採用は人事院規則8-12により「常勤官
職に欠員を生じた場合」に限定されている。このため、極めて稀にしか採用されていない。
・自治体の場合は国のような欠員補充に限定されておらず、季節的業務や繁忙期対応など
一時的な業務に約26万人の臨時職員が採用されている。
「臨時の職」ではなく「恒常的な職」に脱法的に採用されている場合も多く、不合理な取り扱いがなされている。人件費を削減しつつ、人手不足を補うためである。
b) 非常勤職員について
非常勤職員とは、フルタイムではなくパートタイムで働く職員である。これについても国と自治体では大きな違いがある。
・国の場合、フルタイム職員の3/4以下の時間で働く者を非常勤職員としているが、業務
上の都合に合わせて、多数のフルタイムで働く者をも非常勤職員として扱っている。このフルタイム職員の取り扱いは、業務上の必要性を優先させて、無原則に非常勤職員の枠を拡大してきたことが主な原因である。
・自治体の場合、非常勤職員の採用は、地方公務員法17条に基づく一般職としての採用と、
地方公務員法3条3項3号に基づく特別職としての採用との2種類がある。
多くの自治体では、国にならってフルタイム職員の3/4以下の時間で働く者を非常勤職員としている。自治体臨時職員と同様に、人件費を削減しつつ、人手不足を補うためである。
③ 正規・非正規職員の人数と割合
a) 国の場合
2016年の資料では、正規職員数は約266,000人、非正規職員数は約145,0
00人である。全体に占める非正規率は35.3%である。
b) 自治体の場合
日本では、47の都道府県と1,735の市・区・町・村が置かれ、それぞれ独自に職員を採用している。
2016年の資料では、正規職員約2,737,000人、非正規職員約645,000人で、全体に占める非正規率は19.1%である。(財政基盤が脆弱な)町村においては34.7%にのぼっている。非正規職員は事務、教員、保育士、学童クラブ、給食調理、図書館、各種相談員など、広く様々な職種に採用されている。保育士は非正規職員が約6万人、正規職員が約8万人で、非正規率は43%にものぼっている。図書館は約6割、学童クラブや各種相談員はそのほとんどが非正規職員によって担われている。
2 非正規地方公務員の状況
正規地方公務員数は年々減り続け、総務省調査によれば2016年4月1日現在で2,737,263人と、20年前に比して約54万人、2005年からでも約30万人減っている。
一方、非正規地方公務員は年々増え続け、総務省調査によれば2005年に約456,000人だったものが、11年後の2016年には約645,000人と約19万人も増加している。つまり、正規地方公務員の削減を補う形で非正規地方公務員が採用されているのである。
(1)非正規地方公務員の類型と人数
① 特別職非常勤職員
地方公務員法3条3項3号に基づき、「恒常的職」に各自治体で採用されている職員(約22万人)。これらの特別職非常勤職員には地方公務員法が適用されないため、労働組合法の適用があり、ストライキ権を含めた労働基本権を有している。
② 一般職非常勤職員
地方公務員法17条により、「恒常的職」に各自治体で採用されている職員(約17万人)。地方公務員法が適用されることにより労働組合法が適用されず、ストライキ権・団体交渉権を有しない。但し、現業職員については「地方公営企業労働関係法」が適用され、ストライキ権はないが団体交渉権・労働協約締結権を有する。
③ 一般職臨時職員
地方公務員法22条により「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に各自治体で採用されている職員(約26万人)。労働基本権については②と同様である。
(2)非正規地方公務員の置かれた状況
これら非正規地方公務員の置かれた状況については、多くの共通した問題が山積している。
ひとことでいえば、不安定な雇用と低位の賃金・労働条件である。このため、私たち労働組合の基本要求は「雇用の安定」と「均等待遇の実現」である。
① 不安定な雇用
a) 不安定な雇用
・大多数の自治体では雇用期間は長くて1年で、雇用継続の保障が充分ではない。業務が継続するにもかかわらず一方的に雇止めとされるケースが少なからず存在する。
・総務省は2009年の通知で、従来の考え方である「更新」を改め、「(毎年度の予算で職の設置について査定される)新たな職に改めて任用されたものとして整理される」とした。このことから、1年ごとに公募と採用手続きを行うことを原則とした。つまり総務省は、「更新への期待権」を失わせるために、「1年契約を終了させ、改めて公募し、新たな応募者と競わせた上で採用する方式」へと変更したのである。
・この総務省通知は、当事者である非正規地方公務員からすれば、毎年の公募に応募し、採用されなければ働き続けることはできず、不採用となっても争うことは困難となる。つまり、総務省は雇用がより一層不安定になる政策を推進している。
・公務員には労働契約法が適用されないため、「契約通算期間が5年を超える労働者」が「期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」とする「無期転換条項」を活用することができない。総務省通知は、政府が進める雇用安定化政策(有期雇用を無期雇用に転換させる)に逆行している。
b) 不安定雇用を促進する雇用年限制度
・杉並区においては、1991年に657人だった特別職非常勤職員が2016年には2,125人と、25年間で3倍を上回る人数にまで増えてきている。これら特別職非常勤職員は1年契約を5回までは更新されるものの、6年ごとに全員一律に雇止めされることが20年を超えて行われてきた。この仕組みのことを私たちは「雇用年限制度」と名付けてきた。
・この雇用年限制度によって杉並区では、業務が継続するにもかかわらず、毎年約200名もの雇止めが繰り返されてきた。私たち労働組合の取り組みにより、2010年から、6年目の雇用期間満了者も公募に応募することができるようになった。採用されれば6年を超えて継続して働ける道が切り開かれたのである。しかし、応募しても採用されるか否かは人事当局の裁量となることから、当事者の精神的不安は計り知れないものとなっている。現実に不採用となった人も少なくない。
・この雇用年限制度の背後には、政府の考え方が抜きがたく存在する。「臨時職員、非常勤職員を長期間にわたって雇い続けてはならず、短期間で雇用を打ち切るべき」との考え方である。2014年総務省通知においても、「同一のものが繰り返し任用されることは避けるべき」ことが強調されている。
・この政府の考え方は、自治体臨職闘争への否定的総括から導き出されたものである。1950年代半ばから、自治体において臨時職員の正規職員化闘争が巻き起こった。当時、正規職員定数が削減される中で多くの臨時職員が採用され、継続して働いていた。これらの臨時職員が労働組合を結成し、正規職員化を要求して闘いに立ち上がったのである。政府および自治体もこの問題を解決せざるを得なかった。1950年代後半以降、多くの臨時職員が正規職員化をかちとっていく。東京都においては、事務補助員、土木作業員、学校給食調理員、学校警備員、学童擁護員、学童クラブ員、などである。
・つまり政府は「長期にわたって雇用継続がなされれば、雇用の安定と処遇改善を求める声が大きくなり、労働組合結成につながりかねない。そうなると簡単に雇止めできなくなり、処遇改善を余儀なくされる」と総括したのである。この政府の考え方を受けて、長期の継続雇用をすることのないように一定の年数で雇用を打ち切る雇用年限制度を自治体人事当局が編み出したのである。
・2014年の総務省調査によれば、この雇用年限制度は都道府県と政令市では約半数、市町村でも3割近い自治体が導入している。3年若しくは5年に雇用年限を設定している自治体が多いことが分かる。
c) 雇用年限制度は団結破壊の制度
・雇用年限制度は雇用不安定化にとどまらず、団結破壊の性格をも持っている。非正規公務員が採用されて、仕事や職場の人間関係に慣れるのに2、3年はかかる。職場に慣れてきてまわりを見渡せるようになり、職場の矛盾や賃金・労働条件の格差に気がつく。非常勤同士で処遇について話合い、改善を図ろうとする頃には雇用年限が間近に迫っている。労働組合をつくっても、雇用年限により雇止めされて職場を追われることとなる。つまり、非正規公務員に労働組合を結成する時間的・心理的ゆとりを与えず、結成されても職場から合法的に排除できる仕組みでもある。
・私たち連帯労働者組合・杉並の経験は、このことを裏付ける。結成直後からの団交拒否に対して、東京都労働委員会に不当労働行為申し立てを行い、ようやく団交に応じさせることができたのは約9年後であった。この9年の間に、組合結成当初の6名の非常勤組合員は「6年の雇用年限」により、全員職場を追われてしまっていた。(団交を拒否されているにもかかわらず)新たに加入してくれた非常勤組合員の存在もあり、団交を行わせるところまではできた。しかし、その組合員も1年後には雇用年限により職場から排除され、再度の団交拒否をされることとなった。
・その後、新たな非常勤職員の組合加入を受けて団交を積み重ね、労使関係を安定させるまでに、実に組合結成から20年を要したのである。多くの仲間達の支えがなければ、合同労組でなければ、組合が消滅していたと言っても決して過言ではない。
② 賃金・休暇などの差別的取り扱い
a) 正規地方公務員の半分以下の賃金
非正規地方公務員の賃金水準は、正規地方公務員のおおむね半分以下と言われている。加えて、正規地方公務員に支給されている期末手当をはじめとした諸手当(退職手当・地域手当・扶養手当・住宅手当など)が、非正規地方公務員には支給されない場合が多い。正規地方公務員の期末手当は約4ヶ月分の月例賃金に相当する。
b) 休暇でも大きな格差
各種休暇に関しても正規地方公務員との間に大きな格差がある。
・2016年総務省調査では、特別職非常勤職員を採用している320自治体中、法定の休暇を付与していない自治体数及びその割合は以下のとおりである。
年次有給休暇:13自治体(4.1%)
産前・産後休暇:82自治体(25.6%)
育児時間休暇:109自治体(34.1%)
生理休暇:87自治体(27.2%)
子の看護休暇:144自治体(45.0%)
・杉並区の例でいえば、常勤職員との格差が以下のとおり存在する。
育児休業:正規職員は子が3歳まで取得できるが、非常勤職員は1歳6カ月まで
介護休業:正規職員は6ヶ月間取得できるが、非常勤職員は93日間(約3ヶ月)
産前産後休暇:正規職員は有給だが、多くの非常勤職員は無給
生理休暇:正規職員は有給だが、非常勤職員は無給
病気休暇:正規職員は90日間有給だが、非常勤職員は5日間有給でしかない。
私たち以外にも非常勤職員の労働組合があり、30年近く均等待遇を求めて取り組んでいる杉並区でもこれだけの格差がある。
③ 不安定雇用を必然化する「任用」というイデオロギー
a) 雇用安定化政策の対象外
政府は「任用は労働契約ではない」として、民間労働者に適用される労働契約法やパート労働法を公務員に適用していない。
このため労働契約法18条(無期転換条項)、19条(合理的理由のない雇止めはできない)、20条(有期雇用であることによる不合理な労働条件の禁止)などが適用されない。同様に、パート労働法8条(不合理な待遇の禁止)、10条(通常の労働者と均衡した賃金)、13条(通常の労働者への転換措置)、14条(事業主の説明義務)、22条(苦情処理機関の設置)なども適用されない。つまり、雇用安定と均等待遇に向けた政策の枠外に置かれているのである。
b) 自由に雇止めできる
公務員の雇止め裁判はことごとく原告敗訴となっている。その原因は「任用は行政処分」で「公法上の勤務関係」であるから、「任期満了により当然退職する」という独特のイデオロギーにある。労使対等原則と実態を重視した労働法ではなく、行政優位で形式論理の行政法の世界がこの判決を支えている。
c) 裁判所も任用イデオロギーを追認
非正規公務員の雇止めをめぐっては、大阪大学事件の最高裁判決がリーディングケースとされる。大学図書館で更新を繰り返して約5年間働いてきた非常勤国家公務員が、その意に反する雇止めを争った事件である。最高裁は1994年に「任用予定期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない」と判示し、原告を敗訴に導いた。この最高裁判決が、以降の裁判で踏襲されている。
d) 政府の不作為
2007年11月28日、東京高裁は中野区保育士事件において以下の通り判示した。
「本件においては、一審原告らの主張するように私法上の雇用契約の場合と、公法上の任用関係である場合とで、その実質面で差異がないにもかかわらず、労働者の側にとってその法的な扱いに差が生じ、公法上の任用関係である場合の労働者が私法上の雇用契約に比して不利になることは確かに不合理であるといえる」、「反復継続して任命されてきた非常勤職員に関する公法上の任用関係においても、実質面に即応した法の整備が必要とされるところである」と。
しかし政府は指摘された法整備を怠り、2009年通知に見られるようにこの判示に逆行する「新たな地方公務員法解釈」を推し進めている。
e) 私たち組合の考え
同じ非正規公務員であっても、国家公務員と地方公務員の場合では大きな違いがある。国家公務員は労働基準法が適用除外とされているが、地方公務員の場合は原則適用である。
非現業の地方公務員には第2条の「労使対等原則」が適用除外されてはいるものの、「第2章 労働契約」が適用されていることに留意する必要がある。現業の地方公務員には「労使対等原則」も含めて労働基準法が全面的に適用されている。特別職非常勤職員の場合においては労働基準法・労働組合法が全面的に適用され、その法的地位は民間労働者と同一である。
つまり実定法上、地方公務員は「労働契約」なのである。一方「任用」は戦前の天皇大権に基づく官吏の登用に際しての概念である。敗戦後、「天皇の官吏」から「全体の奉仕者」へと大転換が行われ、公務員も労働基本権を有する労働者となったことを再確認する必要がある。確かに戦後の公務員法においても「任用」という文言が登場する。しかし、この文言は公務員も含めた戦後労働法制に従って解釈されねばならない。「任用」という文言は公務員法制に残った残滓にすぎず、公務員関係の基本は「労働契約」に置かれるべきである。労働基準法上「労使対等」とされている現業職員およびストライキ権さえ有する特別職非常勤職員さえ「任用」とされ、自治体当局に従属するというようなイデオロギーは直ちに退場させなければならない。
そもそも政府の「公法・私法」の二分論が官・民労働者の分断を生み、労働組合法が適用されない上に、公務員法も極めて不充分にしか適用されない無権利の非正規公務員を生み出していることに最大の問題がある。
3 労働基本権を有する地方公務員=特別職非常勤職員
これまで、労働基本権に関する日本の公務員組合からのILO申し立ては、正規常勤職員の立場からのものに限られていたと理解している。ストライキ権を含む労働基本権を有している非正規地方公務員が存在し、労働組合を結成し闘ってきたことを強調しておきたい。
その一方で100号条約に関して、非正規公務員の賃金差別をILOに訴え続けていることにも留意してほしい。
(1)労働基本権を有する特別職非常勤職員
① 特別職非常勤職員には地方公務員法が適用されない。
労働組合法を適用除外としている地方公務員法58条が適用されないため、労働組合法が適用される特別職非常勤職員は、民間労働者と全く同様にストライキ権を含めた労働基本権を有している。
(地方公務員法制定以来の45年間、失業対策事業に従事していた技能・労務系の職員も特別職職員として位置付けられ、労働基本権を全面的に有していたことも指摘しておきたい)
② 労働基本権を行使した合同労組・ユニオンの結成
1985年の中曽根内閣による「行政改革」の推進以降、正規地方公務員の削減が進められている。それを補う形で臨時職員、非常勤職員が多数雇用される事態が引き続いている。
これらの非正規公務員は雇用が不安定で、低賃金、劣位の労働条件のもとに置かれ続けている。新たに生み出された非正規公務員の中心は特別職非常勤職員である。これらの特別職非常勤職員が活用されることついては、以下に述べるような歴史的背景がある。
a) 歴史的背景
・先述の臨時職員闘争は、一般職としての臨時職員の闘いであった。本来、臨時職員は「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に採用されるべきものである。これに反して「恒常的職」に採用してきた負い目が政府・自治体にはある。このこともあり、政府・自治体は正規職員化を余儀なくされたのである。
・1985以降の非正規公務員の活用に当たっては、臨時職員の正規職員化闘争の再現を避けるための工夫が凝らされた。そのひとつが臨時職員としてではなく、特別職としての非常勤職員採用である。
・そもそも臨時職員を恒常的な業務には採用できない。非常勤職員であれば、恒常的な業務に採用できる。しかし、一般職の非常勤職員は地方公務員法17条に基づく競争試験若しくは選考を経なければ採用できない。また地方公務員法を素直に解釈すれば、賃金や労働条件について差別的な取り扱いはしにくい。つまり、手続き的に面倒で人件費の削減も簡単にはいかない。そこで活用されたのが特別職非常勤職員としての採用である。特別職であれば、労働関係法の枠内でさえあれば、自由に採用し、賃金・労働条件も任意に設定できからである。
b) その一方で、特別職であれば労働組合が結成できる。1980年代末以降、これら特別職非常勤職員の加入する労働組合結成が相次ぐ。その一翼を担ったのが「誰でも、一人でもはいれる」合同労組・ユニオンであった。
私たち連帯労働者組合・杉並は、地域に基礎を置く合同労組である連帯労働者組合の杉並地域支部として1989年に発足した。ほぼ同時期に、東京都では東京公務公共一般労働組合、京都市ではユニオン「らくだ」(京都自治体関連労働者自立組合)、大阪府では大阪教育合同労働組合など、特別職非常勤職員の加入する労働組合の結成が相次いだ。
(2) 合同労組の団交権確立の闘い
① 連帯労働者組合・杉並の結成と団交権確立の闘い
私たち連帯労働者組合・杉並は結成と同時に杉並区に団交を申し入れた。しかし杉並区は、「杉並区の職員が主体となっていない労働組合の団交には応じられない」と、職員団体の論理をもって団交を拒否した。私たちはストライキや抗議行動を重ね、団交に応じるように杉並区に求め続け、1993年には東京都労働委員会に不当労働行為申し立てを行った。当時は特別職非常勤職員の加入する合同労組が少なかったこともあり、1997年、東京都労働委員会は、命令ではなく和解による団交開催を労使に勧め、双方ともに受け入れた。
団交開催後の組合員の解雇を受けて、2000年に再度不当労働行為申し立てを行い、杉並区が団交応諾義務を有することを確定する命令を獲得できた。私たちは団交獲得後も粘り強く取り組みを進め労使関係を安定させ、雇用継続、賃金・労働条件の改善を一歩一歩前進させてきている。
杉並区の団交拒否が続く中で、結成当初の組合員は「6年雇用年限」により全員が解雇された。団交を拒否されている組合に加入しようとする非常勤職員は極めて稀である。私たちは力の限りを尽くして組合加入の働きかけを継続した。新たな組合員の加入を受けて労使関係の安定に至るまで、私たちは2次にわたる解雇撤回闘争と2度の労働委員会申し立てなど、20年の歳月を要したのである。
② 東京公務公共一般労働組合と大阪教育合同労働組合の団交拒否を打ち破る闘い
総務省の2009年通知を受けて、東京都と大阪府が、それまで受け入れてきた特別職非常勤職員の労働条件に関する団体交渉を拒否してきた。双方とも2009年総務省通知に示された「(毎年度の予算で職の設置について査定される)新たな職に改めて任用されたものとして整理される」を論拠とした団交拒否である。いずれも中央労働委員会が東京都と大阪府の主張を退け、最高裁で確定している。以下、それぞれについて簡略に述べる。
a) 東京都
東京都は、消費生活相談員に関する東京公務公共一般労働組合との団交を「(相談員は、次年度の任用が確定していないから)次年度の賃金・労働条件は団交事項ではない」、「任用は行政行為であり、東京都は次年度の使用者には当たらない」などの理由で拒否してきた。しかし中央労働委員会は「相談員は、次年度に任用される可能性が高く、次年度の組合員に都の任用する相談員が存在する可能性は現実かつ具体的に存するということができる」として、次年度の労働条件は義務的団体交渉事項であり、東京都が労働組合法上の使用者に該当することを認めた。
b) 大阪府
大阪教育合同労働組合は「組合員の次年度の継続雇用」を求めて大阪府に団交を申し入れた。大阪府は「会計年度を超えた継続的な任用、更新は法律上も認められておらず、常に新たな任用である」として団交を拒否した。大阪府労働委員会は府の主張を認めてしまったが、中央労働委員会はこれを退けた。中央労働委員会では「(組合員は)任用が繰り返されて実質的に勤務が継続することに対する合理的な期待を有する」として「本件団交事項は義務的団体交渉事項である」と組合の主張を認めた。
(3) 合同労組を忌避する政府
① 総務省通知発出の経過と背景
a) 2009年通知
先述の中野区保育士事件高裁判決は、2007年11月28日に言い渡された。この判決により、原告である4名の保育士の「(再任用への)期待権侵害」が認められ、約200万円の損害賠償が命じられた。ちなみに4名の原告はいずれも東京公務公共一般労働組合の組合員である。この高裁判決を受けて東京公務公共一般労働組合は中野区との独自交渉を積み上げ、原告の職場復帰を実現するという、自治体においては極めて稀な成果を獲得している。
この判決を契機に、総務省は2008年に非正規公務員について全国調査を行い、2009年に通知を発出した。この通知の最大の狙いは「雇用継続への期待権」が発生しないように手立てを講じることにあった。そのために、この通知で新たにひねり出した屁理屈が「(毎年度の予算で職の設置について査定される)新たな職に改めて任用されたものとして整理される」という、更新を期待させないための新たな法解釈である。
b) 2014年通知
先述の東京公務公共一般労働組合の中央労働委員会命令は2011年11月8日であり、2014年2月7日に最高裁で確定した。大阪教育合同労働組合の中央労働委員会命令は2012年11月30日で、2015年3月31日に最高裁で確定している。これら中央労働委員会命令と最高裁確定判決とを契機に総務省は、2012年に再度の全国調査を行い、2014年に再度の通知を発出した。この通知の最大の狙いは特別職非常勤職員を一般職に切り替え、労働基本権を剥奪する点にあった。特別職非常勤職員について、2009年通知では「特別職として任用することが妥当なのかという点について検証すべきである」としていたところを、2014年通知では「本来、一般職として任用されるべきであり、特別職として任用することは避けるべきである」と一般職化を各自治体に強く促したのである。
c) 2017年法改正
2014年通知に直ちに従い、一般職に切り替えた自治体は東京都と大阪府であった。いずれも2009年総務省通知の論理に従って団交を拒否した自治体である。合同労組の闘いにより団交拒否を打ち破られた自治体にとって、一般職化は労働委員会申し立てを封じる絶好の手立てとなる。加えて地方公務員法の職員団体制度の枠に収まらない合同労組の労働基本権行使を制限できる。この二つが東京都・大阪府が一般職化を急いだ理由である。
しかし、全体として一般職化は簡単には進まなかった。そこで総務省は2016年、3回目となる全国調査と研究会を設置し、法改正による一般職化の強制に向かうこととした。全国調査結果の中で、注目すべきは特別職の一般職化の進展状況である。1,165自治体中、新たに一般職化を実施したのは29自治体にとどまっている。
「各自治体ごとの判断に任せていては、一般職化は進まない」、「法改正により強制しなければならない」と総務省が考えたことは想像に難くない。
② 合同労組の闘いを忌避する政府
以上に述べたように、総務省通知の発出は合同労組の闘いの前進に過敏に反応し、逆行する対応をしてきている。
a) 中野区保育士判決を受けて総務省は、「期待権の保護」や「法の整備」に向かうのではなく、「期待権を持たせないように法解釈を変更する」道をとったのである。これが2009年通知である。
b) 東京公務公共一般労働組合の中央労働委員会命令が最高裁で確定し、大阪教育合同労働組合の中央労働委員会命令が出されて発出されたのが2014年通知である。
特に大阪教育合同労働組合の中央労働委員会命令が「雇用継続要求は義務的団交事項」と判断したことに、総務省が大きな危機感を抱いたことは想像に余りある。「任用予定期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない」とする大阪大学最高裁判決が、実態を重視する労働法の世界で「雇用継続要求は義務的団交事項=任用を要求する権利も法的利益もある」と覆されたからである。そこで総務省は、労働基本権を有し労働法を活用できる(=労働委員会申し立てのできる)特別職非常勤職員を一般職に移行させ、労働委員会を使えないようにすること、任用イデオロギーを防衛すること、を一層推進することとしたのである。
c) しかし、一般職化は総務省の期待するようには進まなかった。多くの自治体は、一般職化すれば採用手続きが面倒で正規常勤職員との均等待遇が必要とされ、賃金や休暇などの労働条件を大きく改善しなければならないと考えている。つまり人件費が飛躍的に増大することを避けるために、今まで通り特別職非常勤職員として雇い入れる道を選んだのである。特別職であれば一般職とは異なり、地方公務員法で必要とされる手続き抜きに採用や賃金・労働条件を定めることができるからである。
一向に進まない一般職化を前にして、総務省が法改正によって自治体に強制しようと考えたものが今回の法改正である。
e) 以上の経過を見れば明らかなように、今回の法改正は労働法を活用する労働組合の活動を忌避し、解散させることを狙った「労働組合つぶし=団結破壊の支配・介入」とさえ言いうるものであることを強調しておきたい。
4 今回の地方公務員法改正のあらまし
(1)労働基本権を剥奪する「一般職化」
① 先行する東京都・大阪府の「一般職化」を、法改正により全国的に強制するもの
a) 特別職非常勤職員は一般職に移行されることによって、地方公務員法が適用されることとなる。地方公務員法では現業職員を除いて、労働組合を結成することはできない。同一自治体の職員のみによって構成される「登録職員団体」にならなければ、交渉することさえ確保できない地位に置かれる。この職員団体制度の背景には「(地方公務員でない)外部勢力排除=合同労組排除」のイデオロギーが存在する。
b) 自治体への「助言」だけでは一般職化が進まないことを目の当たりにした総務省が、全国の自治体に強制することを求めて、今回の法改正を行おうとしていることは明らかである。
② 労働基本権剥奪の根拠とされる措置が全くなされていない
しかし、法改正によっても労働基本権を奪うことはできないはずである。政府は労働基本権を制限できる根拠として「身分保障」、「法定の労働条件」、「代償措置の存在」の3つを挙げている。一般職化されても、しかし、非常勤職員にはこれらの根拠が成立しない。
正規常勤職員でさえILOから労働基本権の確保が勧告されている状況下で、勧告に逆行し、一般職化して労働基本権をはく奪する法改正を行おうとする政府の考え方は私たちの理解を超えている。
a) 身分保障
地方公務員法28条では、法定された事由でなければ免職や懲戒処分などを受けることがないとされ、この条項は一般職非常勤職員にも適用される。しかし、「期間満了を理由にいつでも雇止めできる」との政府の考え方を変更しない限り、1年任期の一般職非常勤職員にとっては全くと言ってよいほど意味を持たない。
b) 法定の勤務条件
一般職非常勤職員の賃金や休暇などの労働条件は条例で定めることとなっている。しかし具体的な金額や休暇に関して、ほとんどすべての自治体条例では首長の裁量で定める規則などに委ねている。東京都・大阪府ともに規則で定めている。労使交渉で決めるべき余地が常勤職員に比べてはるかに大きいと言える。
c) 代償措置の存在
総務省の見解は、人事委員会の勧告などについては非常勤職員にも適用される、というもののようである。しかし東京都・大阪府での人事委員会勧告は、一般職非常勤職員には全くと言ってよいほど触れておらず、賃金や労働条件についての改善勧告は一切なされていない。そもそも全国1,782自治体中、人事委員会設置は47都道府県、20政令指定都市、和歌山市、の68自治体にすぎない。圧倒的多数の96%の自治体は人事委員会勧告制度の枠外にある。
③ 非正規地方公務員との協議が充分になされていない
今回の法改正に当たり、非正規当事者組合との協議は極めて不十分であることを指摘しなければならない。法改正を提言した「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会」は非公開で行われ、私たちの組合が法改正に対して意見書(資料1)を提出したものの、まともに検討される時間的余裕もない中で法案の国会上程がなされている。
そもそもこの研究会の委員9名中、労働者側委員はわずか1名のみである。厚生労働省の「労働政策審議会」と同様に、公・労・使の三者構成による検討・審議を経て法改正を行う仕組みを早急に確立すべきである。
(2) 「会計年度任用職員」として「任期1年以内」を法定
① 入口規制の地方公務員法を変質させる
地方公務員法は「任期の定めなし(無期)」を原則としている。例外は「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に採用される臨時的任用職員のみである。この意味において地方公務員法は、臨時的業務についてのみ有期雇用を認める「入口規制」を採用している。
今回の法改正は「恒常的に継続する業務」に従事する非常勤職員を「会計年度任用職員」として「任期1年以内」を法定し、法律により雇用を不安定にするものである。労働基準法の規定に従い2年あるいは3年の任期を定めている自治体に、1年任期を強制しようとする法改正と言わねばならない。
2012年の労働契約法改正により「有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換させる」仕組みが法定された。政府は自ら定めた雇用を安定させるための政策に逆行する地方公務員法改正を行おうとしていることを強調しておきたい。
② 毎年度ごとの公募・採用を繰り返す
これまで「更新」として雇用継続されてきた非常勤職員を、「毎年の公募に応じて競わされ、採用されなければ継続して働くことはできない状況が繰り返される」状況に落とし込むことになる。当事者は毎年「採用されるか否か」の不安にさいなまれ、「雇止め」は「採用の自由」のもとに合法化される。
③ 賃金で差別と分断が持ち込まれる
法案では「会計年度任用職員」を「フルタイム職員」と「パートタイム職員」とに二分する。「フルタイム職員」には給料と諸手当を支給するが、「パートタイム職員」には報酬と期末手当のみの支給となる。同じ雇用形態で同じ業務に従事しながら、勤務時間のみによって賃金に差をつけることは、明らかに「不合理な差別」である。ILO100号条約に違反する法改正と言わねばならない。
<違反の具体的内容>
日本の労働組合法はILO条約に適合している。自由設立主義を採用し、事前の認可や届け出などの必要はない。様々な業種・法的地位の労働者が自由に団結することができ、労使対等原則にのっとり団体交渉を行い、労働委員会に不当労働行為を申し立てることができる。
その一方、公務員法の「職員団体」はILO条約に適合していない。具体的には以下の通り。
① 労使対等原則が否定されていること
② 自治体職員が多数を占めなければならないこと
③ 自治体当局を交渉に応じさせるためには、「同一の自治体の一般職職員によってのみ組織される」ことを要件とし、事前に「登録」しなければならないこと
④ 団体交渉権がなく、労働協約を締結できないこと
⑤ 予備交渉で「議題・時間・場所」を決めなければ交渉できないこと
⑥ 交渉打ち切り規定が法定されていること
⑦ 労働委員会に不当労働行為申し立てができず、あっせん・調停・仲介などを求めることもできないこと
今回の地方公務員法改正により、労働組合を結成している特別職非常勤職員は、労働組合の解散を余儀なくされ、職員団体結成を強制される。これまで自治体当局と締結した労働協約の無効化も強制される。
1 違反の具体的内容
私たちは今回の法改正が、以下の点においてILO条約に違反していると考え、申し立てに及んだものである。
(1)87号条約
① 事前の認可(登録)を余儀なくされること:2条違反
② 自ら選択する団体を設立(加入)できない(労働組合を解散し新たに職員団体を結成しなければならない)こと:2条違反
③ 行政的権限(法改正)によって労働組合が解散させられること:4条違反
④ 日本政府が「団結権を自由に行使するための必要にして適当な全ての措置を取る義務」に逆行する法改正を行っていること:11条違反
(2) 98号条約
① 反組合的な差別待遇に対する保護を受けられなくなること(労働委員会に救済申し立てができなくなること):1条違反
② 使用者からの干渉(支配・介入)からの保護が無くなること(労働委員会に救済申し立てができなくなること):2条違反
③ 労働協約締結権が剥奪されること:4条違反
2 労働基本権が奪われることによる具体的な影響
① 交渉力が削がれる
私たちの組合を含め、非正規公務員当事者組合の基本要求は雇用の安定と均等待遇の実現である。この要求実現のためには労使対等の団体交渉権の確保が欠かせない。当事者組合は(ストライキを構えて)交渉を積み上げ、労働協約を締結し、少しづつではあっても、一歩一歩着実に要求実現に向け前進してきた。団交権を奪われることは労働組合の生命線を断たれることにも等しい。
② 労働委員会が使えなくなること
私たちの組合を含め、非正規当事者組合は様々な形で団交拒否、組合への支配・介入などを受けてきた。不誠実な団交で要求が全く前進しないことも経験してきた。このような場合、労働委員会に不当労働行為を申し立て、あるいは斡旋や仲介を申し出ることによって事態の打開を図ってきた。このような取り組みができなくなれば、要求の前進が大きく阻害されることはあまりにも明らかである。
3 最低限、地方公営企業労働関係法を適用すべき理由
① 非正規公務員は、技能・労務系公務員と同様の地位にある
総務省によれば、非常勤職員は「本格的業務」には従事しない、とされる。「本格的業務」とは、「組織の管理・運営自体に関する業務や権力的業務など」と説明されている。
また、課長級以上に昇任することは予定されていない。
このような地位は、技能・労務系の職員と同様である。したがって、技能・労務系職員と同様に地方公営企業労働関係法を適用しなければならないはずである。
② 民間委託できる業務
近年、市民課や税務課などの窓口業務を民間会社に委託する自治体が増えてきている。委託を受けて働くのは民間労働者であり、当然のことながら労働基本権を持っている。つまり、いざとなればストライキを打つこともできるのである。同様の業務に従事する非常勤職員の労働基本権を剥奪しなければならない理由は見出せない。
以上です。審査をよろしくお願いします。
<申立の趣旨>
日本政府は今国会に「地方公務員法改正案」を提出し、5月11日に可決された。施行は2020年4月1日である。
私たちの組合は、今回の法改正はILO87、98号条約に違反し、逆行するものであると考える。ILOが日本政府に対し、以下の勧告を行うように求めるものである。
① 改正地方公務員法の施行を中止するよう勧告すること
② 一般職の非正規地方公務員に対し、直ちに労働基本権を付与するよう勧告すること
③ 最低限、一般職の非正規地方公務員に対し、現業地方公務員(公営企業職員および技能・労務系職員)と同様に「地方公営企業労働関係法」を適用し、直ちに団結権・団体交渉権を保障するよう勧告すること。
<申し立てに至る背景と経過>
今回の地方公務員法改正は非正規地方公務員の処遇の改善に焦点を当てたものであるにもかかわらず、非正規当事者および労働組合の念願である「雇用の安定」と「均等待遇の実現」、「労働基本権の確立」から、大きくかけ離れたものと言わざるを得ない。
特に、労働基本権に関して労働組合に引き起こされる事態はおおむね以下のとおりである。
① 現在、労働基本権を完全に有している22万人もの特別職非常勤職員が一般職に組み入れられ、地方公務員法を適用されることにより、労働基本権を奪われること
② 具体的には、特別職非常勤職員の加入する労働組合が解散(職員団体への組織変更)を余儀なくされ、ストライキ権と団体交渉権がなく、団結権さえ制限された職員団体制度に組み込まれること
③ 以上の事態を引き起こす今回の法改正が、日本政府が批准しているILO87号、98号、(151号)条約に逆行するものであること
1 国および自治体の公務員制度のあらまし
公務員の雇用(任用)・賃金・労働条件・服務などについては、国の場合は国家公務員法、自治体の場合は地方公務員法によって規律されている。これら2つの法律は、ほぼ同様の仕組みとなっているものの、一部に重要な違いがある。申立との関係では以下の点が挙げられる。
① 労働関係法の適用について
労働関係法の公務員への適用関係は複雑に入り組んでおり、全体を正確に理解することは至
難の業である。
(「独立行政法人 労働政策研究・研修機構」の所長である濱口桂一郎さんの論文「地方公務員と労働法」と「非正規公務員問題の原点」をぜひお読みいただきたいと思います。そこでは「労働法は公法私法二元論に立っていない」、「公務員は現在でも労働契約である」と明確に指摘されています。ちなみに、この2論文は総務省自治行政局公務員部公務員課が編集する「地方公務員月報」に掲載されたものです。したがって政府・総務省から入手してお読みいただけたら幸いです。)
私たちが強調したい点は、非正規地方公務員は労働契約であるにもかかわらず、パート労働法や労働契約法が適用されないことである。ここでは、労働基準法及び労働組合法に絞って説明したい。
a) 国家公務員は労働基準法が適用されないが、地方公務員には原則適用される。特に自治体の現業公務員と特別職公務員には全面的に適用される。
b) 労働組合法は国・自治体とも非現業公務員には適用されない。しかし、独立行政法人に従事する国家公務員は「独立行政法人労働関係法」により労働組合法が適用される。公営企業や技能・労務系業務に従事する地方公務員には、「地方公営企業労働関係法」により労働組合法が適用される。
② 非正規公務員の類型について
a) 臨時職員について
臨時職員については、国家公務員法60条、地方公務員法22条に同様の規定がある。「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に限って採用される職員であるが、以下
の違いがある。
・国の場合、国家公務員法60条による臨時職員採用は人事院規則8-12により「常勤官
職に欠員を生じた場合」に限定されている。このため、極めて稀にしか採用されていない。
・自治体の場合は国のような欠員補充に限定されておらず、季節的業務や繁忙期対応など
一時的な業務に約26万人の臨時職員が採用されている。
「臨時の職」ではなく「恒常的な職」に脱法的に採用されている場合も多く、不合理な取り扱いがなされている。人件費を削減しつつ、人手不足を補うためである。
b) 非常勤職員について
非常勤職員とは、フルタイムではなくパートタイムで働く職員である。これについても国と自治体では大きな違いがある。
・国の場合、フルタイム職員の3/4以下の時間で働く者を非常勤職員としているが、業務
上の都合に合わせて、多数のフルタイムで働く者をも非常勤職員として扱っている。このフルタイム職員の取り扱いは、業務上の必要性を優先させて、無原則に非常勤職員の枠を拡大してきたことが主な原因である。
・自治体の場合、非常勤職員の採用は、地方公務員法17条に基づく一般職としての採用と、
地方公務員法3条3項3号に基づく特別職としての採用との2種類がある。
多くの自治体では、国にならってフルタイム職員の3/4以下の時間で働く者を非常勤職員としている。自治体臨時職員と同様に、人件費を削減しつつ、人手不足を補うためである。
③ 正規・非正規職員の人数と割合
a) 国の場合
2016年の資料では、正規職員数は約266,000人、非正規職員数は約145,0
00人である。全体に占める非正規率は35.3%である。
b) 自治体の場合
日本では、47の都道府県と1,735の市・区・町・村が置かれ、それぞれ独自に職員を採用している。
2016年の資料では、正規職員約2,737,000人、非正規職員約645,000人で、全体に占める非正規率は19.1%である。(財政基盤が脆弱な)町村においては34.7%にのぼっている。非正規職員は事務、教員、保育士、学童クラブ、給食調理、図書館、各種相談員など、広く様々な職種に採用されている。保育士は非正規職員が約6万人、正規職員が約8万人で、非正規率は43%にものぼっている。図書館は約6割、学童クラブや各種相談員はそのほとんどが非正規職員によって担われている。
2 非正規地方公務員の状況
正規地方公務員数は年々減り続け、総務省調査によれば2016年4月1日現在で2,737,263人と、20年前に比して約54万人、2005年からでも約30万人減っている。
一方、非正規地方公務員は年々増え続け、総務省調査によれば2005年に約456,000人だったものが、11年後の2016年には約645,000人と約19万人も増加している。つまり、正規地方公務員の削減を補う形で非正規地方公務員が採用されているのである。
(1)非正規地方公務員の類型と人数
① 特別職非常勤職員
地方公務員法3条3項3号に基づき、「恒常的職」に各自治体で採用されている職員(約22万人)。これらの特別職非常勤職員には地方公務員法が適用されないため、労働組合法の適用があり、ストライキ権を含めた労働基本権を有している。
② 一般職非常勤職員
地方公務員法17条により、「恒常的職」に各自治体で採用されている職員(約17万人)。地方公務員法が適用されることにより労働組合法が適用されず、ストライキ権・団体交渉権を有しない。但し、現業職員については「地方公営企業労働関係法」が適用され、ストライキ権はないが団体交渉権・労働協約締結権を有する。
③ 一般職臨時職員
地方公務員法22条により「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に各自治体で採用されている職員(約26万人)。労働基本権については②と同様である。
(2)非正規地方公務員の置かれた状況
これら非正規地方公務員の置かれた状況については、多くの共通した問題が山積している。
ひとことでいえば、不安定な雇用と低位の賃金・労働条件である。このため、私たち労働組合の基本要求は「雇用の安定」と「均等待遇の実現」である。
① 不安定な雇用
a) 不安定な雇用
・大多数の自治体では雇用期間は長くて1年で、雇用継続の保障が充分ではない。業務が継続するにもかかわらず一方的に雇止めとされるケースが少なからず存在する。
・総務省は2009年の通知で、従来の考え方である「更新」を改め、「(毎年度の予算で職の設置について査定される)新たな職に改めて任用されたものとして整理される」とした。このことから、1年ごとに公募と採用手続きを行うことを原則とした。つまり総務省は、「更新への期待権」を失わせるために、「1年契約を終了させ、改めて公募し、新たな応募者と競わせた上で採用する方式」へと変更したのである。
・この総務省通知は、当事者である非正規地方公務員からすれば、毎年の公募に応募し、採用されなければ働き続けることはできず、不採用となっても争うことは困難となる。つまり、総務省は雇用がより一層不安定になる政策を推進している。
・公務員には労働契約法が適用されないため、「契約通算期間が5年を超える労働者」が「期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」とする「無期転換条項」を活用することができない。総務省通知は、政府が進める雇用安定化政策(有期雇用を無期雇用に転換させる)に逆行している。
b) 不安定雇用を促進する雇用年限制度
・杉並区においては、1991年に657人だった特別職非常勤職員が2016年には2,125人と、25年間で3倍を上回る人数にまで増えてきている。これら特別職非常勤職員は1年契約を5回までは更新されるものの、6年ごとに全員一律に雇止めされることが20年を超えて行われてきた。この仕組みのことを私たちは「雇用年限制度」と名付けてきた。
・この雇用年限制度によって杉並区では、業務が継続するにもかかわらず、毎年約200名もの雇止めが繰り返されてきた。私たち労働組合の取り組みにより、2010年から、6年目の雇用期間満了者も公募に応募することができるようになった。採用されれば6年を超えて継続して働ける道が切り開かれたのである。しかし、応募しても採用されるか否かは人事当局の裁量となることから、当事者の精神的不安は計り知れないものとなっている。現実に不採用となった人も少なくない。
・この雇用年限制度の背後には、政府の考え方が抜きがたく存在する。「臨時職員、非常勤職員を長期間にわたって雇い続けてはならず、短期間で雇用を打ち切るべき」との考え方である。2014年総務省通知においても、「同一のものが繰り返し任用されることは避けるべき」ことが強調されている。
・この政府の考え方は、自治体臨職闘争への否定的総括から導き出されたものである。1950年代半ばから、自治体において臨時職員の正規職員化闘争が巻き起こった。当時、正規職員定数が削減される中で多くの臨時職員が採用され、継続して働いていた。これらの臨時職員が労働組合を結成し、正規職員化を要求して闘いに立ち上がったのである。政府および自治体もこの問題を解決せざるを得なかった。1950年代後半以降、多くの臨時職員が正規職員化をかちとっていく。東京都においては、事務補助員、土木作業員、学校給食調理員、学校警備員、学童擁護員、学童クラブ員、などである。
・つまり政府は「長期にわたって雇用継続がなされれば、雇用の安定と処遇改善を求める声が大きくなり、労働組合結成につながりかねない。そうなると簡単に雇止めできなくなり、処遇改善を余儀なくされる」と総括したのである。この政府の考え方を受けて、長期の継続雇用をすることのないように一定の年数で雇用を打ち切る雇用年限制度を自治体人事当局が編み出したのである。
・2014年の総務省調査によれば、この雇用年限制度は都道府県と政令市では約半数、市町村でも3割近い自治体が導入している。3年若しくは5年に雇用年限を設定している自治体が多いことが分かる。
c) 雇用年限制度は団結破壊の制度
・雇用年限制度は雇用不安定化にとどまらず、団結破壊の性格をも持っている。非正規公務員が採用されて、仕事や職場の人間関係に慣れるのに2、3年はかかる。職場に慣れてきてまわりを見渡せるようになり、職場の矛盾や賃金・労働条件の格差に気がつく。非常勤同士で処遇について話合い、改善を図ろうとする頃には雇用年限が間近に迫っている。労働組合をつくっても、雇用年限により雇止めされて職場を追われることとなる。つまり、非正規公務員に労働組合を結成する時間的・心理的ゆとりを与えず、結成されても職場から合法的に排除できる仕組みでもある。
・私たち連帯労働者組合・杉並の経験は、このことを裏付ける。結成直後からの団交拒否に対して、東京都労働委員会に不当労働行為申し立てを行い、ようやく団交に応じさせることができたのは約9年後であった。この9年の間に、組合結成当初の6名の非常勤組合員は「6年の雇用年限」により、全員職場を追われてしまっていた。(団交を拒否されているにもかかわらず)新たに加入してくれた非常勤組合員の存在もあり、団交を行わせるところまではできた。しかし、その組合員も1年後には雇用年限により職場から排除され、再度の団交拒否をされることとなった。
・その後、新たな非常勤職員の組合加入を受けて団交を積み重ね、労使関係を安定させるまでに、実に組合結成から20年を要したのである。多くの仲間達の支えがなければ、合同労組でなければ、組合が消滅していたと言っても決して過言ではない。
② 賃金・休暇などの差別的取り扱い
a) 正規地方公務員の半分以下の賃金
非正規地方公務員の賃金水準は、正規地方公務員のおおむね半分以下と言われている。加えて、正規地方公務員に支給されている期末手当をはじめとした諸手当(退職手当・地域手当・扶養手当・住宅手当など)が、非正規地方公務員には支給されない場合が多い。正規地方公務員の期末手当は約4ヶ月分の月例賃金に相当する。
b) 休暇でも大きな格差
各種休暇に関しても正規地方公務員との間に大きな格差がある。
・2016年総務省調査では、特別職非常勤職員を採用している320自治体中、法定の休暇を付与していない自治体数及びその割合は以下のとおりである。
年次有給休暇:13自治体(4.1%)
産前・産後休暇:82自治体(25.6%)
育児時間休暇:109自治体(34.1%)
生理休暇:87自治体(27.2%)
子の看護休暇:144自治体(45.0%)
・杉並区の例でいえば、常勤職員との格差が以下のとおり存在する。
育児休業:正規職員は子が3歳まで取得できるが、非常勤職員は1歳6カ月まで
介護休業:正規職員は6ヶ月間取得できるが、非常勤職員は93日間(約3ヶ月)
産前産後休暇:正規職員は有給だが、多くの非常勤職員は無給
生理休暇:正規職員は有給だが、非常勤職員は無給
病気休暇:正規職員は90日間有給だが、非常勤職員は5日間有給でしかない。
私たち以外にも非常勤職員の労働組合があり、30年近く均等待遇を求めて取り組んでいる杉並区でもこれだけの格差がある。
③ 不安定雇用を必然化する「任用」というイデオロギー
a) 雇用安定化政策の対象外
政府は「任用は労働契約ではない」として、民間労働者に適用される労働契約法やパート労働法を公務員に適用していない。
このため労働契約法18条(無期転換条項)、19条(合理的理由のない雇止めはできない)、20条(有期雇用であることによる不合理な労働条件の禁止)などが適用されない。同様に、パート労働法8条(不合理な待遇の禁止)、10条(通常の労働者と均衡した賃金)、13条(通常の労働者への転換措置)、14条(事業主の説明義務)、22条(苦情処理機関の設置)なども適用されない。つまり、雇用安定と均等待遇に向けた政策の枠外に置かれているのである。
b) 自由に雇止めできる
公務員の雇止め裁判はことごとく原告敗訴となっている。その原因は「任用は行政処分」で「公法上の勤務関係」であるから、「任期満了により当然退職する」という独特のイデオロギーにある。労使対等原則と実態を重視した労働法ではなく、行政優位で形式論理の行政法の世界がこの判決を支えている。
c) 裁判所も任用イデオロギーを追認
非正規公務員の雇止めをめぐっては、大阪大学事件の最高裁判決がリーディングケースとされる。大学図書館で更新を繰り返して約5年間働いてきた非常勤国家公務員が、その意に反する雇止めを争った事件である。最高裁は1994年に「任用予定期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない」と判示し、原告を敗訴に導いた。この最高裁判決が、以降の裁判で踏襲されている。
d) 政府の不作為
2007年11月28日、東京高裁は中野区保育士事件において以下の通り判示した。
「本件においては、一審原告らの主張するように私法上の雇用契約の場合と、公法上の任用関係である場合とで、その実質面で差異がないにもかかわらず、労働者の側にとってその法的な扱いに差が生じ、公法上の任用関係である場合の労働者が私法上の雇用契約に比して不利になることは確かに不合理であるといえる」、「反復継続して任命されてきた非常勤職員に関する公法上の任用関係においても、実質面に即応した法の整備が必要とされるところである」と。
しかし政府は指摘された法整備を怠り、2009年通知に見られるようにこの判示に逆行する「新たな地方公務員法解釈」を推し進めている。
e) 私たち組合の考え
同じ非正規公務員であっても、国家公務員と地方公務員の場合では大きな違いがある。国家公務員は労働基準法が適用除外とされているが、地方公務員の場合は原則適用である。
非現業の地方公務員には第2条の「労使対等原則」が適用除外されてはいるものの、「第2章 労働契約」が適用されていることに留意する必要がある。現業の地方公務員には「労使対等原則」も含めて労働基準法が全面的に適用されている。特別職非常勤職員の場合においては労働基準法・労働組合法が全面的に適用され、その法的地位は民間労働者と同一である。
つまり実定法上、地方公務員は「労働契約」なのである。一方「任用」は戦前の天皇大権に基づく官吏の登用に際しての概念である。敗戦後、「天皇の官吏」から「全体の奉仕者」へと大転換が行われ、公務員も労働基本権を有する労働者となったことを再確認する必要がある。確かに戦後の公務員法においても「任用」という文言が登場する。しかし、この文言は公務員も含めた戦後労働法制に従って解釈されねばならない。「任用」という文言は公務員法制に残った残滓にすぎず、公務員関係の基本は「労働契約」に置かれるべきである。労働基準法上「労使対等」とされている現業職員およびストライキ権さえ有する特別職非常勤職員さえ「任用」とされ、自治体当局に従属するというようなイデオロギーは直ちに退場させなければならない。
そもそも政府の「公法・私法」の二分論が官・民労働者の分断を生み、労働組合法が適用されない上に、公務員法も極めて不充分にしか適用されない無権利の非正規公務員を生み出していることに最大の問題がある。
3 労働基本権を有する地方公務員=特別職非常勤職員
これまで、労働基本権に関する日本の公務員組合からのILO申し立ては、正規常勤職員の立場からのものに限られていたと理解している。ストライキ権を含む労働基本権を有している非正規地方公務員が存在し、労働組合を結成し闘ってきたことを強調しておきたい。
その一方で100号条約に関して、非正規公務員の賃金差別をILOに訴え続けていることにも留意してほしい。
(1)労働基本権を有する特別職非常勤職員
① 特別職非常勤職員には地方公務員法が適用されない。
労働組合法を適用除外としている地方公務員法58条が適用されないため、労働組合法が適用される特別職非常勤職員は、民間労働者と全く同様にストライキ権を含めた労働基本権を有している。
(地方公務員法制定以来の45年間、失業対策事業に従事していた技能・労務系の職員も特別職職員として位置付けられ、労働基本権を全面的に有していたことも指摘しておきたい)
② 労働基本権を行使した合同労組・ユニオンの結成
1985年の中曽根内閣による「行政改革」の推進以降、正規地方公務員の削減が進められている。それを補う形で臨時職員、非常勤職員が多数雇用される事態が引き続いている。
これらの非正規公務員は雇用が不安定で、低賃金、劣位の労働条件のもとに置かれ続けている。新たに生み出された非正規公務員の中心は特別職非常勤職員である。これらの特別職非常勤職員が活用されることついては、以下に述べるような歴史的背景がある。
a) 歴史的背景
・先述の臨時職員闘争は、一般職としての臨時職員の闘いであった。本来、臨時職員は「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に採用されるべきものである。これに反して「恒常的職」に採用してきた負い目が政府・自治体にはある。このこともあり、政府・自治体は正規職員化を余儀なくされたのである。
・1985以降の非正規公務員の活用に当たっては、臨時職員の正規職員化闘争の再現を避けるための工夫が凝らされた。そのひとつが臨時職員としてではなく、特別職としての非常勤職員採用である。
・そもそも臨時職員を恒常的な業務には採用できない。非常勤職員であれば、恒常的な業務に採用できる。しかし、一般職の非常勤職員は地方公務員法17条に基づく競争試験若しくは選考を経なければ採用できない。また地方公務員法を素直に解釈すれば、賃金や労働条件について差別的な取り扱いはしにくい。つまり、手続き的に面倒で人件費の削減も簡単にはいかない。そこで活用されたのが特別職非常勤職員としての採用である。特別職であれば、労働関係法の枠内でさえあれば、自由に採用し、賃金・労働条件も任意に設定できからである。
b) その一方で、特別職であれば労働組合が結成できる。1980年代末以降、これら特別職非常勤職員の加入する労働組合結成が相次ぐ。その一翼を担ったのが「誰でも、一人でもはいれる」合同労組・ユニオンであった。
私たち連帯労働者組合・杉並は、地域に基礎を置く合同労組である連帯労働者組合の杉並地域支部として1989年に発足した。ほぼ同時期に、東京都では東京公務公共一般労働組合、京都市ではユニオン「らくだ」(京都自治体関連労働者自立組合)、大阪府では大阪教育合同労働組合など、特別職非常勤職員の加入する労働組合の結成が相次いだ。
(2) 合同労組の団交権確立の闘い
① 連帯労働者組合・杉並の結成と団交権確立の闘い
私たち連帯労働者組合・杉並は結成と同時に杉並区に団交を申し入れた。しかし杉並区は、「杉並区の職員が主体となっていない労働組合の団交には応じられない」と、職員団体の論理をもって団交を拒否した。私たちはストライキや抗議行動を重ね、団交に応じるように杉並区に求め続け、1993年には東京都労働委員会に不当労働行為申し立てを行った。当時は特別職非常勤職員の加入する合同労組が少なかったこともあり、1997年、東京都労働委員会は、命令ではなく和解による団交開催を労使に勧め、双方ともに受け入れた。
団交開催後の組合員の解雇を受けて、2000年に再度不当労働行為申し立てを行い、杉並区が団交応諾義務を有することを確定する命令を獲得できた。私たちは団交獲得後も粘り強く取り組みを進め労使関係を安定させ、雇用継続、賃金・労働条件の改善を一歩一歩前進させてきている。
杉並区の団交拒否が続く中で、結成当初の組合員は「6年雇用年限」により全員が解雇された。団交を拒否されている組合に加入しようとする非常勤職員は極めて稀である。私たちは力の限りを尽くして組合加入の働きかけを継続した。新たな組合員の加入を受けて労使関係の安定に至るまで、私たちは2次にわたる解雇撤回闘争と2度の労働委員会申し立てなど、20年の歳月を要したのである。
② 東京公務公共一般労働組合と大阪教育合同労働組合の団交拒否を打ち破る闘い
総務省の2009年通知を受けて、東京都と大阪府が、それまで受け入れてきた特別職非常勤職員の労働条件に関する団体交渉を拒否してきた。双方とも2009年総務省通知に示された「(毎年度の予算で職の設置について査定される)新たな職に改めて任用されたものとして整理される」を論拠とした団交拒否である。いずれも中央労働委員会が東京都と大阪府の主張を退け、最高裁で確定している。以下、それぞれについて簡略に述べる。
a) 東京都
東京都は、消費生活相談員に関する東京公務公共一般労働組合との団交を「(相談員は、次年度の任用が確定していないから)次年度の賃金・労働条件は団交事項ではない」、「任用は行政行為であり、東京都は次年度の使用者には当たらない」などの理由で拒否してきた。しかし中央労働委員会は「相談員は、次年度に任用される可能性が高く、次年度の組合員に都の任用する相談員が存在する可能性は現実かつ具体的に存するということができる」として、次年度の労働条件は義務的団体交渉事項であり、東京都が労働組合法上の使用者に該当することを認めた。
b) 大阪府
大阪教育合同労働組合は「組合員の次年度の継続雇用」を求めて大阪府に団交を申し入れた。大阪府は「会計年度を超えた継続的な任用、更新は法律上も認められておらず、常に新たな任用である」として団交を拒否した。大阪府労働委員会は府の主張を認めてしまったが、中央労働委員会はこれを退けた。中央労働委員会では「(組合員は)任用が繰り返されて実質的に勤務が継続することに対する合理的な期待を有する」として「本件団交事項は義務的団体交渉事項である」と組合の主張を認めた。
(3) 合同労組を忌避する政府
① 総務省通知発出の経過と背景
a) 2009年通知
先述の中野区保育士事件高裁判決は、2007年11月28日に言い渡された。この判決により、原告である4名の保育士の「(再任用への)期待権侵害」が認められ、約200万円の損害賠償が命じられた。ちなみに4名の原告はいずれも東京公務公共一般労働組合の組合員である。この高裁判決を受けて東京公務公共一般労働組合は中野区との独自交渉を積み上げ、原告の職場復帰を実現するという、自治体においては極めて稀な成果を獲得している。
この判決を契機に、総務省は2008年に非正規公務員について全国調査を行い、2009年に通知を発出した。この通知の最大の狙いは「雇用継続への期待権」が発生しないように手立てを講じることにあった。そのために、この通知で新たにひねり出した屁理屈が「(毎年度の予算で職の設置について査定される)新たな職に改めて任用されたものとして整理される」という、更新を期待させないための新たな法解釈である。
b) 2014年通知
先述の東京公務公共一般労働組合の中央労働委員会命令は2011年11月8日であり、2014年2月7日に最高裁で確定した。大阪教育合同労働組合の中央労働委員会命令は2012年11月30日で、2015年3月31日に最高裁で確定している。これら中央労働委員会命令と最高裁確定判決とを契機に総務省は、2012年に再度の全国調査を行い、2014年に再度の通知を発出した。この通知の最大の狙いは特別職非常勤職員を一般職に切り替え、労働基本権を剥奪する点にあった。特別職非常勤職員について、2009年通知では「特別職として任用することが妥当なのかという点について検証すべきである」としていたところを、2014年通知では「本来、一般職として任用されるべきであり、特別職として任用することは避けるべきである」と一般職化を各自治体に強く促したのである。
c) 2017年法改正
2014年通知に直ちに従い、一般職に切り替えた自治体は東京都と大阪府であった。いずれも2009年総務省通知の論理に従って団交を拒否した自治体である。合同労組の闘いにより団交拒否を打ち破られた自治体にとって、一般職化は労働委員会申し立てを封じる絶好の手立てとなる。加えて地方公務員法の職員団体制度の枠に収まらない合同労組の労働基本権行使を制限できる。この二つが東京都・大阪府が一般職化を急いだ理由である。
しかし、全体として一般職化は簡単には進まなかった。そこで総務省は2016年、3回目となる全国調査と研究会を設置し、法改正による一般職化の強制に向かうこととした。全国調査結果の中で、注目すべきは特別職の一般職化の進展状況である。1,165自治体中、新たに一般職化を実施したのは29自治体にとどまっている。
「各自治体ごとの判断に任せていては、一般職化は進まない」、「法改正により強制しなければならない」と総務省が考えたことは想像に難くない。
② 合同労組の闘いを忌避する政府
以上に述べたように、総務省通知の発出は合同労組の闘いの前進に過敏に反応し、逆行する対応をしてきている。
a) 中野区保育士判決を受けて総務省は、「期待権の保護」や「法の整備」に向かうのではなく、「期待権を持たせないように法解釈を変更する」道をとったのである。これが2009年通知である。
b) 東京公務公共一般労働組合の中央労働委員会命令が最高裁で確定し、大阪教育合同労働組合の中央労働委員会命令が出されて発出されたのが2014年通知である。
特に大阪教育合同労働組合の中央労働委員会命令が「雇用継続要求は義務的団交事項」と判断したことに、総務省が大きな危機感を抱いたことは想像に余りある。「任用予定期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできない」とする大阪大学最高裁判決が、実態を重視する労働法の世界で「雇用継続要求は義務的団交事項=任用を要求する権利も法的利益もある」と覆されたからである。そこで総務省は、労働基本権を有し労働法を活用できる(=労働委員会申し立てのできる)特別職非常勤職員を一般職に移行させ、労働委員会を使えないようにすること、任用イデオロギーを防衛すること、を一層推進することとしたのである。
c) しかし、一般職化は総務省の期待するようには進まなかった。多くの自治体は、一般職化すれば採用手続きが面倒で正規常勤職員との均等待遇が必要とされ、賃金や休暇などの労働条件を大きく改善しなければならないと考えている。つまり人件費が飛躍的に増大することを避けるために、今まで通り特別職非常勤職員として雇い入れる道を選んだのである。特別職であれば一般職とは異なり、地方公務員法で必要とされる手続き抜きに採用や賃金・労働条件を定めることができるからである。
一向に進まない一般職化を前にして、総務省が法改正によって自治体に強制しようと考えたものが今回の法改正である。
e) 以上の経過を見れば明らかなように、今回の法改正は労働法を活用する労働組合の活動を忌避し、解散させることを狙った「労働組合つぶし=団結破壊の支配・介入」とさえ言いうるものであることを強調しておきたい。
4 今回の地方公務員法改正のあらまし
(1)労働基本権を剥奪する「一般職化」
① 先行する東京都・大阪府の「一般職化」を、法改正により全国的に強制するもの
a) 特別職非常勤職員は一般職に移行されることによって、地方公務員法が適用されることとなる。地方公務員法では現業職員を除いて、労働組合を結成することはできない。同一自治体の職員のみによって構成される「登録職員団体」にならなければ、交渉することさえ確保できない地位に置かれる。この職員団体制度の背景には「(地方公務員でない)外部勢力排除=合同労組排除」のイデオロギーが存在する。
b) 自治体への「助言」だけでは一般職化が進まないことを目の当たりにした総務省が、全国の自治体に強制することを求めて、今回の法改正を行おうとしていることは明らかである。
② 労働基本権剥奪の根拠とされる措置が全くなされていない
しかし、法改正によっても労働基本権を奪うことはできないはずである。政府は労働基本権を制限できる根拠として「身分保障」、「法定の労働条件」、「代償措置の存在」の3つを挙げている。一般職化されても、しかし、非常勤職員にはこれらの根拠が成立しない。
正規常勤職員でさえILOから労働基本権の確保が勧告されている状況下で、勧告に逆行し、一般職化して労働基本権をはく奪する法改正を行おうとする政府の考え方は私たちの理解を超えている。
a) 身分保障
地方公務員法28条では、法定された事由でなければ免職や懲戒処分などを受けることがないとされ、この条項は一般職非常勤職員にも適用される。しかし、「期間満了を理由にいつでも雇止めできる」との政府の考え方を変更しない限り、1年任期の一般職非常勤職員にとっては全くと言ってよいほど意味を持たない。
b) 法定の勤務条件
一般職非常勤職員の賃金や休暇などの労働条件は条例で定めることとなっている。しかし具体的な金額や休暇に関して、ほとんどすべての自治体条例では首長の裁量で定める規則などに委ねている。東京都・大阪府ともに規則で定めている。労使交渉で決めるべき余地が常勤職員に比べてはるかに大きいと言える。
c) 代償措置の存在
総務省の見解は、人事委員会の勧告などについては非常勤職員にも適用される、というもののようである。しかし東京都・大阪府での人事委員会勧告は、一般職非常勤職員には全くと言ってよいほど触れておらず、賃金や労働条件についての改善勧告は一切なされていない。そもそも全国1,782自治体中、人事委員会設置は47都道府県、20政令指定都市、和歌山市、の68自治体にすぎない。圧倒的多数の96%の自治体は人事委員会勧告制度の枠外にある。
③ 非正規地方公務員との協議が充分になされていない
今回の法改正に当たり、非正規当事者組合との協議は極めて不十分であることを指摘しなければならない。法改正を提言した「地方公務員の臨時・非常勤職員及び任期付職員の任用等の在り方に関する研究会」は非公開で行われ、私たちの組合が法改正に対して意見書(資料1)を提出したものの、まともに検討される時間的余裕もない中で法案の国会上程がなされている。
そもそもこの研究会の委員9名中、労働者側委員はわずか1名のみである。厚生労働省の「労働政策審議会」と同様に、公・労・使の三者構成による検討・審議を経て法改正を行う仕組みを早急に確立すべきである。
(2) 「会計年度任用職員」として「任期1年以内」を法定
① 入口規制の地方公務員法を変質させる
地方公務員法は「任期の定めなし(無期)」を原則としている。例外は「(1年以内に廃止が予定されている)臨時の職」に採用される臨時的任用職員のみである。この意味において地方公務員法は、臨時的業務についてのみ有期雇用を認める「入口規制」を採用している。
今回の法改正は「恒常的に継続する業務」に従事する非常勤職員を「会計年度任用職員」として「任期1年以内」を法定し、法律により雇用を不安定にするものである。労働基準法の規定に従い2年あるいは3年の任期を定めている自治体に、1年任期を強制しようとする法改正と言わねばならない。
2012年の労働契約法改正により「有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、労働者の申し込みにより無期労働契約に転換させる」仕組みが法定された。政府は自ら定めた雇用を安定させるための政策に逆行する地方公務員法改正を行おうとしていることを強調しておきたい。
② 毎年度ごとの公募・採用を繰り返す
これまで「更新」として雇用継続されてきた非常勤職員を、「毎年の公募に応じて競わされ、採用されなければ継続して働くことはできない状況が繰り返される」状況に落とし込むことになる。当事者は毎年「採用されるか否か」の不安にさいなまれ、「雇止め」は「採用の自由」のもとに合法化される。
③ 賃金で差別と分断が持ち込まれる
法案では「会計年度任用職員」を「フルタイム職員」と「パートタイム職員」とに二分する。「フルタイム職員」には給料と諸手当を支給するが、「パートタイム職員」には報酬と期末手当のみの支給となる。同じ雇用形態で同じ業務に従事しながら、勤務時間のみによって賃金に差をつけることは、明らかに「不合理な差別」である。ILO100号条約に違反する法改正と言わねばならない。
<違反の具体的内容>
日本の労働組合法はILO条約に適合している。自由設立主義を採用し、事前の認可や届け出などの必要はない。様々な業種・法的地位の労働者が自由に団結することができ、労使対等原則にのっとり団体交渉を行い、労働委員会に不当労働行為を申し立てることができる。
その一方、公務員法の「職員団体」はILO条約に適合していない。具体的には以下の通り。
① 労使対等原則が否定されていること
② 自治体職員が多数を占めなければならないこと
③ 自治体当局を交渉に応じさせるためには、「同一の自治体の一般職職員によってのみ組織される」ことを要件とし、事前に「登録」しなければならないこと
④ 団体交渉権がなく、労働協約を締結できないこと
⑤ 予備交渉で「議題・時間・場所」を決めなければ交渉できないこと
⑥ 交渉打ち切り規定が法定されていること
⑦ 労働委員会に不当労働行為申し立てができず、あっせん・調停・仲介などを求めることもできないこと
今回の地方公務員法改正により、労働組合を結成している特別職非常勤職員は、労働組合の解散を余儀なくされ、職員団体結成を強制される。これまで自治体当局と締結した労働協約の無効化も強制される。
1 違反の具体的内容
私たちは今回の法改正が、以下の点においてILO条約に違反していると考え、申し立てに及んだものである。
(1)87号条約
① 事前の認可(登録)を余儀なくされること:2条違反
② 自ら選択する団体を設立(加入)できない(労働組合を解散し新たに職員団体を結成しなければならない)こと:2条違反
③ 行政的権限(法改正)によって労働組合が解散させられること:4条違反
④ 日本政府が「団結権を自由に行使するための必要にして適当な全ての措置を取る義務」に逆行する法改正を行っていること:11条違反
(2) 98号条約
① 反組合的な差別待遇に対する保護を受けられなくなること(労働委員会に救済申し立てができなくなること):1条違反
② 使用者からの干渉(支配・介入)からの保護が無くなること(労働委員会に救済申し立てができなくなること):2条違反
③ 労働協約締結権が剥奪されること:4条違反
2 労働基本権が奪われることによる具体的な影響
① 交渉力が削がれる
私たちの組合を含め、非正規公務員当事者組合の基本要求は雇用の安定と均等待遇の実現である。この要求実現のためには労使対等の団体交渉権の確保が欠かせない。当事者組合は(ストライキを構えて)交渉を積み上げ、労働協約を締結し、少しづつではあっても、一歩一歩着実に要求実現に向け前進してきた。団交権を奪われることは労働組合の生命線を断たれることにも等しい。
② 労働委員会が使えなくなること
私たちの組合を含め、非正規当事者組合は様々な形で団交拒否、組合への支配・介入などを受けてきた。不誠実な団交で要求が全く前進しないことも経験してきた。このような場合、労働委員会に不当労働行為を申し立て、あるいは斡旋や仲介を申し出ることによって事態の打開を図ってきた。このような取り組みができなくなれば、要求の前進が大きく阻害されることはあまりにも明らかである。
3 最低限、地方公営企業労働関係法を適用すべき理由
① 非正規公務員は、技能・労務系公務員と同様の地位にある
総務省によれば、非常勤職員は「本格的業務」には従事しない、とされる。「本格的業務」とは、「組織の管理・運営自体に関する業務や権力的業務など」と説明されている。
また、課長級以上に昇任することは予定されていない。
このような地位は、技能・労務系の職員と同様である。したがって、技能・労務系職員と同様に地方公営企業労働関係法を適用しなければならないはずである。
② 民間委託できる業務
近年、市民課や税務課などの窓口業務を民間会社に委託する自治体が増えてきている。委託を受けて働くのは民間労働者であり、当然のことながら労働基本権を持っている。つまり、いざとなればストライキを打つこともできるのである。同様の業務に従事する非常勤職員の労働基本権を剥奪しなければならない理由は見出せない。
以上です。審査をよろしくお願いします。