6月3日に開催地不明で行われた「名古屋城バリアフリーに関する市民討論会」なる会合において、当該会合に参加した車椅子を使用する身体に障害を持った市民に対し、他の参加者が差別的言動を行い、当該参加者並びに、他の障害を持った方々やその家族、及び一般市民の心を傷つけた事は、伝統と格式ある名古屋市の歴史と文化にとって許されざる瑕疵であります。
これを受け私ども名古屋城天守の有形文化財登録を求める会は以下、名古屋市に対して申入ます。
一.2022年(令和4年)10月24日に日本弁護士連合会から提出されております要望(下記※1)について名古屋市はこれに対して早急に、真摯な回答、対処をすべきことを申入ます。
二.名古屋市は2019年(令和元年)に昇降技術の実験施設として、総工費9040万円をかけて階段体験施設「ステップなごや」を開設した。更に「史実に忠実な復元とバリアフリーの両立を目指し、昇降技術を世界中から募り、実用化して木造天守へ導入することを目的とします」(下記※2)として、開発契約費8千万円、導入契約費2億円(ともに上限)(下記※3)を示し、昇降技術を公募し、2022年(令和4年)に優秀提案者を選定したが、その提案においても結局「史実に忠実な復元」と「(法の要請する)バリアフリー」の両立(下記※4)は叶わなかった。すなわち現代社会の技術力ではこの両者の要望を両立させることはできないと判明したのである。実現できない計画については即刻中止し見直すべきことを申入ます。
三.名古屋市は名古屋城天守を「市民の精神的基柱であり、誇りである名古屋城の天守閣」(下記※5)と認識されておりますが、今般の「討論会」における出来事を受け、市会における議論では、このままアクセシビリティの後退を容認し、計画を進めてみても国民から「差別の象徴の城」と見做されてしまうとの指摘がありました。事実一部のメディアにおいて名古屋城は「差別の城」との表現もあり、名古屋市民として甚だ心苦しく感じております。計画を即時中止されんことを申入ます。
四.名古屋市は現存天守について、2010年(平成22年)9月に構造体劣化調査、2011年(平成23年)2月に耐震診断概要書をまとめ、2017年(平成29年)3月に暫定的耐震補強調査(下記※6)をまとめていた。同書によれば、現在の耐震基準(Is値0.75以上)にするには、大天守小天守合計で13億5047万0205円。エレベーター改修1億6000万円をあわせると、15億1051万9605円と試算されている。この事実を木造天守改修に係る費用と並べて、市民に広く知らせることを申入ます。
五.2016年(平成28年)に行われた所謂「2万人アンケート」において、名古屋市は「現行天守閣を耐震改修した場合でもコンクリートが概ね40年の寿命」などと記載しましたが、これは文化庁の示した「鉄筋コンクリート造天守(以下、RC造天守)等の老朽化への対応について(取りまとめ)」(下記※7)の見解とは異ります。
同取りまとめにおいて文化庁は「RC造天守は、その多くは往時の外観を模して再現されているように、史跡等の往時の姿を今に伝え、その本質的な価値を正しく理解していくうえで一定の役割を果たしてきた。」として現存する名古屋城天守を含むRC造天守に対して肯定的な評価を与えている。
名古屋市はこうした文化庁の見解も踏まえ、改めて市民に対し、先行する大阪城天守閣における平成の大改修にならった、コンクリートの脱アルカリ化及び耐震補強工事の実施を行い、昭和34年に市民からの多額の寄付によって再建された現存天守を守っていくべきか、多額の費用を払って木造天守を建造するのか民意を問うアンケート等を実施することを申入る。
木造天守は、今、再建できるというのであれば、それは費用さえかければ再建することはできるのだろう。将来にわたり再度、火災等によって消失しても、費用さえかければ幾らでも再建可能である。しかし、第二次世界大戦で焼失し、戦後復興の象徴として再建された現存天守は、一度破壊してしまえばその歴史的意義は永遠に失われてしまう。そうした意義を踏まえ、以上申入れる。
怱々