住宅・公共ともに建築には様々な文明の変化がある中で、 私は “現代建築” と称される今の建築の世代に強い魅力を感じている。
建築には明確な時間的区分ができないが、私がこの現代建築という時代に魅了される要因は、
“建築家独自の概念・思考に基づいて、巧みに変化した建築の形態が、多様化している” ということにある。
『 建築/住宅には、無名の建築家によって設計された土着性が必要であり、
土着的住宅建築にこそ現代までの建築に、機能的豊かさと生活に可能性を与える。』 (バーナード・ルドルフスキー)
各地域の建築の土着性は、各地域の文化が(様々な理由・要因によって)、他の地域に技術・手法が伝承されなかった時代までの範囲であり、現代の建築/住宅は、グローバリゼーションの名の下に、その素材や形態・機能までも(その領域に際限なく)取り入れ、多様に変化している。
industrial vernacular / インダストリアル ヴァナキュラーとは
直訳すると、工業化による新しい土着性の創出という意をもつ。
吉村靖孝氏は著書にて、『工業的建築だからこそ得られる土着性がある』ことを定義した。
本修士研究は、
“住宅建築の本質的なあり方・構え方を 土着性 と定義した上で、
世界各地の建築技術を用いることで、対象とした地域の文化的背景をなくした新しい土着的建築形態を
創出することが可能となること” を目指す。
住宅建築における “土着性の最小単位 = 屋根の掛け方” と定義し、
各地方の屋根の素材とその形態、平面・立面・断面のプランと屋根の関係性を調査・分析・分類する。
気候 / 環境 / 生活 / 地域性 / 風土等が合致する同地域(ex:同緯度の地域)を対象として選択し、整合性を与えて住宅を設計する。
“時間と文化の蓄積”が、宅地造成によって風土ごと消された市街化区域 / 新興住宅地を中心に適用し、
これまで培われてきた、文化的背景を完全に排除した、敷地の“本質的な土着性”を問い直した住宅を設計することが可能となる。
『地域に固有でかつ無名の建築・すなわち“土着的建築”には、
- 数日限り / しばらく住まい / 周期的な移動 / 季節ごとの移動 / 半恒久的 / 恒久的 - の6種の住居タイプに分かれ
これらはすべて、それぞれの居住集団の社会・経済及び政治的な構造との対応を見せている。』
ノーバード・ショウワーは自身の著作にて、土着的建築は農業、つまりは主要作物の耕作によって存立し、各地域の住人の生業によって、建築形態が多様に変化することを定義した。
つまり、建築の土着性は“農耕”と強く結びつき、各地域で生産される作物と建築の形態は断ち切れない関係にある。
国内のオリーブ生産の95%を占める、香川県・小豆島を対象敷地として、同じくオリーブを主要作物として耕作する8つの地域の土着的住居体系•形態を参照し、小豆島の建売住宅には付加できなかった“新たな土着性”を与えた建築/住宅を提案する。
香川県小豆島は、素麺、醤油、佃煮、胡麻油、オリーブなどの生産が盛んであり、いずれも日本有数の生産地となっている。特にオリーブは国内栽培・発祥の地として広く知られている。
1867年、フランスから輸入した苗木を横須賀に植えたのがオリーブの樹の伝来とされ、勧農局・三田育種場、神戸の同場付属植物園で植栽された。15年後の果実の収穫により、日本初オリーブオイルの採取が行われたが、いずれも衰退の一途を辿る。
農商務省指定のオリーブ栽培試験の委託を受け、1908年に小豆島へオリーブが持ち込まれ、ここ“小豆島町・西村”にオリーブの試験園が設置された。
1917年には、試験用オリーブが配布され、官民一体で果実が収穫。はれて小豆島は日本初の、産業用オリーブ発祥の地となる。その後、栽培は民営化され、“観光農園・オリーブ園”が開園し、オリーブ畑は一般人に開放された。
しかし一方で、オリーブ畑を取り巻く小豆島・西村地区の農家建築/住宅には、形態化した“土着性”が見られない。
小豆島南東部・内海町安田甲地区は、“醤油の町” と称され、400年続く木桶仕込みの醤油蔵の農家/建築群が軒を連るが、対象地区はそれを持たない。
これは、オリーブ農業がわずか110年ほどの歴史しか持たないことが大きく影響している。
日本では不可能と謳われた、地中海のオーガニック栽培が、小豆島という環境と農民の農耕技術によって達成した文化・地域性とは裏腹に、一般とは異なる特殊な建築形態は渡来されなかったのである。
一般的な農家の建築形態から形骸化された“農業型住宅”群すらも次第に後退しはじめ、現在では建売住宅・商品化住宅に移行しはじめている実情にある。
瀬戸内国際芸術祭による脚光や、現代人のロハス的生活様式への関心により、人口の増加が予見され、今後も西村地区は土着性を持たない “風光明媚な新興住宅地へ” 加速していくことだろう。
内部を貫く大きな空隙には、LDKの機能と、各個人の作業机を設けることで、中庭を中心にした生活様式を継承した。
一方で、中庭を取り囲む部屋は、生業とされる農業に付随する貯蔵・管理の部屋、生活を支える牛や羊の飼育小屋、寝る機能だけの各個人の部屋で構成されていたことに習い、周辺環境から生活を確保する緩衝材として付加した。
地中海気候は、高度のある日射が強いため、中庭空間にはパーゴラ状の薄い外皮によって守られている。これにより、住人は、中庭を外部としてではなく大きな一室の共有空間として認識する。
子どものクリエイティブ(創造性)を育むことを目的に、2年に1度、神戸の小学3年生 - 中学3年生までを対象に開催している、ちびっこうべとは、
シェフ・建築家・デザイナー3つのチームに分かれ、各クリエイターから“ホンモノを学び”、子ども同士からサポーターの大人達と協力し、お店づくりや仕事体験、まちづくりを通じて自分のクリエイティブを育てていく、体験型のプロジェクトである。
“プロから学ぶ”をテーマに4回目迎えた2018年度は、過去3回までと違い、
会場であるKIITO(デザイン•クリエイティブ•センター•神戸)全体を一つの街・都市として扱い、公共施設や公園・道路などを設定し、各11チーム(店舗)に“敷地”が与えられた。
03 _ Bystander color / 傍観色 _ 違法駐輪を 傍観する サインデザイン
西日本旅客鉄道・JR西日本の開業によって、大阪と神戸をつなぐ鉄道が開通し、はや140年を迎えた神戸・三宮は、阪神・阪急神戸本線、ポートアイランド線、市営地下鉄・海岸線までその枠を広げ、阪神・名神高速、山麓バイパス等の車両路線まで整備が進み、再整備基本構想では LRT・BRT・循環バス の走行が予定されている。
三宮はこれからも、ますます “自動車(鉄道・航空・航海を含む)と歩行者“にとって便利で利用されやすい都市として、整備されていくことだろう...
しかし、“大都市”はその再整備の対象として“自転車”の存在を忘れている。
インフラの向上により、神戸三宮は不特定多数の利用者を誘引するまでに発展したが
同時に、各個人が所有する交通手段の中で、自転車利用も加速させた。他の都市部にも同様に見られる現象だが、この自転車利用の多数化に比例して、“違法駐輪・放置自転車”もその数を増やした。
神戸市は、この問題を“歩行者の通行障害・都市景観の悪化”につながると警鐘を鳴らし、
自転車等放置禁止区域の指定にはじまり、駐輪場有人/有料化・広告・看板・サイン・交通局員による強制撤去等の措置を取った。
しかし、それらすべての施作に効果が期待できないと認知した市は、神戸市中心部の複数のサイクルポートで貸出・返却を行えるコミュニティサイクル「コベリン」を導入し、簡便かつ安価で、合法的に自転車を利用できるシステムを採用した。
concept / コンセプト
男性 / 女性のシルエットを描いて多様な形態を持つこのサインはすべて、人の“ 視る ”姿勢を模っている。
具象・写実絵画の分野にて、描写された人物が向ける視線の先に誘導され、鑑賞者も同じ視点に目を向ける“視線追従”の画法があるように、
“他者からの視線”とは、不特定多数の人を巻き込み“意識”を向かせ、対象者に影響を及ぼすだけの訴求力がある。
駐車禁止であることを、利用者に促すためには、他者からの“監視・視線”が必要であると考え、
Bystander color は、当事者に対して、通行人からの“視線追従”を促す装置として立脚する。
design / デザイン
関節や筋力の働きによって様々な行動ができる人間の動作のなかで、
“視る姿勢”だけを抽出し、それを象徴化するため、複雑な人間の形状を減算・最小限化したポリゴン状のデザインを採用した。
折半構造によって規格化された“傍観者たち”は、それぞれ多様な色彩を放ち
いつでも人の気配を感じる、賑わい溢れる三宮の景観として集う。
人通りの少ないスペースを利活用し、賑わう街へ
神戸三宮センター街は、次世代に向けた「神戸三宮らしい街」の姿を創造していくため、2012 年より5ヵ年計画 SANNOMIYA 2016 に取り組んできた。
その中の1つ“空間再生プロジェクト”では、神戸三宮センター街に憩いのひとときと楽しい情報を提供する常設スペース「屋台プロジェクト」が始動し、 現在ではセンター街のアーケード直下・通路中央にベンチという形で憩いのスペースが設置されている。
このプロジェクトの一環として 2017 年は「人通りの少ないスペースを利活用し、賑わう街へ」をテーマに、
センター街エイツビル 3 階ジュンク堂前デッキを利活用し、利用者が休憩をすることで、立体的に人が賑わうセンター街になることを目標に本プロジェクトが始まった。
違和感による空間の差別化
私は、この薄暗く陰湿で無機質な空間に、木材を基調とした休憩スペースをつくり、三宮センター街に “違和感 ”をもたらすことで神戸・三宮に集う人々に、その違和感を楽しんでもらいたいと考えた。
清潔感、新鮮さ、面白さも重要な要素と考え、長く直線的な敷地の特徴を活かし、 自然を感じさせるデザインを提案した。
concept / コンセプト
神戸開港以来、三宮は多様な都市改造によって「それぞれの地域色が集積した騒々しい街」を形成した。
その都市景観は、結果として「神戸らしさ」という風景として人々に認知・認識されていると考えた。構築するデザインは、色・素材・大きさ・形態など、端的な複数の要素をあわせるのではなく、
全ての要素が重なり合うことで、三宮センター街から異化されつつ、神戸・三宮の風景に介入する形態を設計した。
prefabrication / プレファブリケーション
工務店や施工業者に委託することで発生するコストパフォーマンスを抑えるため、学生の手によるセルフビルドを行った。
また、施工・搬入出・設置の作業能率を加味し、大学の工房にて部材•フレームの制作を行い、現場で組み立てる工法を用いた。それに伴い、入手・加工が簡便な2×4材の一般的な建築資材を採用しデザインとの統合を図った。
geometry / ジオメトリー
混沌として無機質な三宮センター街に、“垂直・螺旋・等間隔・連続”などの「新しく強い規則性」を 持った空間を置くことで、周辺環境からの差別化を図った。
1 道幅と高さの関係から「人が通れる・滞留できる」楕円のボリュームを配置する
2 利用者の侵入動線から、楕円の円周に沿って左に回転する螺旋の軌跡を描く
3 螺旋の動きに合わせながら、方形が右回転しながら楕円のボリュームを削り取る
1-3 2×4材にこの規則を適用させることで、46に連なるルーバーフレーム( = シェード )が形成される
4 楕円/螺旋/正方形の3つの幾何学が重なった「ねじれ」の空間が構築された
5 46のシェードを1単位として均等配置することで、「滞留と動き」の空間が連続する
7 植栽 / ベンチ等を配置することで、休憩スペースとしての用途に生まれ変わる。
何の精査も行われず情報(作品)が並べられた展示には問題がある。
まして、一般人の命に関わる責任を持つ“建築分野”が、一般人に何かを享受させる気のない行為は、責任放棄であるといえる。
night museumは
一般人が、分類の難しい建築作品を鑑賞する“意識”を高める環境として、多数の情報(建築作品)を散在させたインスタレーションである。