海外からも人気を集め、熱烈なファンを抱える日本のアニメ。国を挙げて推進される「クールジャパン」戦略でも重要なコンテンツとして認知されている。アニメを愛する、いわゆる「オタク」が作る市場はさまざまな業種で注目されるようになった。
不動産業界でも、彼らをターゲットにしてアニメコンテンツを武器に注目を集めている取り組みがある。その名も「痛部屋(いたべや)」プロジェクト。
「痛部屋」とはもともと、自室を好きなアニメキャラクターのグッズで埋め尽くしている様子が「痛い」ことから使われるようになった言葉だ。あえてこのワードを冠し、積極的に痛い部屋へのリノベーションを提案していくこのプロジェクトは、はたしてどんな狙いで進められているのだろうか。
アニメキャラクターで部屋を埋め尽くす痛部屋は、どのような経緯で作られたのだろうか。
中国・上海出身の王氏は、もともと大のアニメファンだった。来日し、アニメキャラクターをあしらったスマートフォンケースやTシャツなどの雑貨を制作・販売する事業を始めたが、こうしたアニメグッズは多種多様なアイテムが出回っており「市場は飽和状態」と感じたのだそうだ。
「自宅をアニメグッズなどで埋め尽くし、“痛部屋”にしている熱狂的なオタクの存在は以前から知っていました。既存のグッズを置くだけではできないようなハイレベルの痛部屋を作れば、そうしたアニメファンにウケるのではないかと考えたのがきっかけです」と語る。
自身と同じように、海外にも日本のアニメ文化にあこがれるファンは大勢いる。事業の実績を作るために、観光客が多く訪れるゲストハウスへ「痛部屋化」の提案を行っていった。駅から遠いなど条件の悪いゲストハウスには集客に苦戦しているところもあり、王氏の提案は徐々に受け入れられていく。
「ゲストハウスもそうですが、不動産業界の関係者にはアニメオタクが少ないのか(笑)、最初は理解していただくまで時間もかかりました。実際に施工し痛部屋としてPRしていくことで利用者が途切れなくなったゲストハウスもあり、メディアからの取材依頼も来るようになったんです。今では、不動産業界にアニメオタクが少ないことはむしろチャンスだととらえています」
痛部屋の入居者としては、「好きなキャラクターに囲まれて落ち着く」ことが何よりの効能だという。王氏は動画投稿サイトを使ったゲーム実況も行っており、その際にはこの痛部屋の背景がそのままステージとしても機能している。
紹介したような部屋全体の痛部屋化は、1Kタイプの単身者向け物件であれば、1室あたり企画・デザイン費や工事費などを含めて30万円程度で可能。ドアや壁紙、カーテンごとの施工も可能で、紹介した価格は最低ラインの参考価格となるが、個別依頼も可能だという。
実際に、入居率がゼロだった物件が痛部屋化によって50パーセントにまで改善した例や、痛部屋化することによってそれまでの賃料を20~30パーセント程度アップできた例もあるそうだ。
基本的にはシールなどを使用しており、部屋の原状回復は容易にできる。こうした特性から、入居者ごとに希望を聞いて、好きなキャラクターなどを押さえたカスタマイズ提案も可能だ。
不人気物件を人気物件に変える「痛部屋」のアイデア。今後も、見た目はもちろん、収益性にもインパクトがある物件が増えていくのかもしれない。