その運送会社は100年の歴史があり、創業者は馬喰だった。高度成長期ベビーブームに乗ってピアノが売れまくった。最大手ヤマハの専属運送会社として業容を拡大していった。しかし、近年の少子化はピアノの需要にブレーキをかけた。
P運送の7代目社長はここで重量物をキーワードに事業領域を拡大。250キロのピアノは2人で動かす。・・業務用コーピー機、耐火金庫、エネファーム、防音室などの重量物運送業務を拡大した。
C社は国内コピー機メーカートップ。海外にも展開していた。環境にもうるさい企業でもある。C社は国内輸送に中小の運送屋を100社以上委託していた。そして毎年、運送のクオリテイを評価して翌年の契約条件を決めていた。厳しい会社だ。主な評価項目は時間遵守、マナー、コミュニケーション、商品概要説明、設置作業などだ。
そうした中C社はISOの取得を奨励していた。松木専務はわたしの友人だった。「ISOってうちあたりで取れるの?現場にマニュアルや手順書は一つもないんだけど」・・・ISOの指導が始まり無事9001,14001認証。
1年が過ぎたところで社長が言った。「ガソリン代が激減している、現場で何が?」
私は営業所の内部監査に行った。静岡営業所の壁に大きな個人別グラフが張ってあった。燃費グラフだ。リッター当たり何キロ走行しているか、グループ毎に把握。燃費はみるみる下がった。走行車線からゆっくり車線へ。時速130キロから最左車線で時速80キロにしたからだ。エコ運転に実行。
そして、貨物事故、物損事故が40%減少。損害保険料も下がった。CS<顧客満足度調査>でもC社の評価で全国2位を獲得、翌年の運送単価に反映。
CS<顧客満足度>ではこんな話がある。夏場250キロのピアノを運ぶと汗だくになる。当然だ、しかし最近のお客は「汗臭い」とネットでクレームをつける。今迄ならこんな意見は無視していた。
しかし、指導していた私は「この意見は少し厳しいが、改善のチャンスにすべきだ、対応を考えてみよう。」出た結論は難しいものではなかった。夏場は各人1日3,4枚の着替えTシャツを用意していった。クレームはなくなった。
全国16か所に営業所があった。いくつかは赤字の営業所。その所長が営業所兼倉庫の家賃を何とか下げたいと交渉した。300坪の国道沿い物件はなかなか借り手がない。近隣の相場や需給状況を調べ大家と交渉。粘り強く交渉不況も伴って、20%の家賃引き下げに成功。
年間100万以上のコストが下がった。全国の所長に広がった。年間1000万以上のコスト(=利益)削減。
クレーンを使ったピアノの搬入は特殊作業で料金も増える。しかし、各営業所にはクレーン操作ができる人員は1~2名で、作業が重なると出来ない。ISO取得後各営業所のクレーン作業員の増員を計画した。講習会に出てさらに先輩が現場指導する。2回実地でOKになればパスする。
どの会社、組織でもいろんな作業をこなせる人材は貴重だ。しかし、突然人が辞めたり事故で怪我したり、欠員は予期せずにやってくる。その為に予め人材を育成する必要がある、
そう計画的に。ISOではこのような状況をいつも想定するように促す。クレーンが操れる人がいない為に仕事を断る・・避けたい事態だ。
C社は委託運送会社を年間評価している。特にオフィスの新設時は大量のコピー機が必要だ。その時、通常の運送以外の輸送能力を緊急に整えられる運送会社は重宝だ。
この状態に答えられる運送会社は少ない。P社はいつもこういう状況を想定して準備をしていた。その為、業者の評価はとても高い。
ISO導入後年間評価は全国2位に躍進。当然運送単価は高くなった。CSはエンドユーザーだけではない。荷主の満足度も重要。ISOは考え方の変革を促す。
ISOは経営管理の世界基準の方法だ。誰もがこのような奇跡的成果が出るものか?判らない。しかしコンサルタントとして一言、言おう。これらの「いくつもの改善」は社長が指示したのでもない、そしてコンサルタントが具体的に指示したのでもない。
全て彼らが考え、トライし、実践した結果だ。燃費を下げろとも、家賃を下げろとも言っていない。私が繰り返し言ったことは「今の仕事を疑ってかかれ」だった。
ISOはテクニックやノウハウではない。考え方であり、一つのビジネスの思想だ。