全身マヒの国会議員舩後靖彦さんの人生と議員活動を追う写真絵本
ALSで国会議員になった舩後靖彦さんを取材した写真絵本です。
その生い立ちや出会った人々との交流、日々の暮らし、なぜ国会議員をめざしたのか……。
誰もが安心して生き生きと暮らせる社会をつくるには? 福祉社会とインクルーシブ教育とは? 子どもたちとともに考える絵本です。
著/舩後靖彦
加藤悦子、堀切リエ
定価:本体1500円+税 B5判上製32頁
ISBN 978-4-86412-185-9
子どもの未来社
【あとがきより】
舩後靖彦
ALSを発症するまで健康だった私が、はじめて障害のある人に出会ったのは、今からだいたい57年前。生まれ故郷、岐阜にあった、ある駅の夜のことでした。
右足首から先がねじれていた初老の方は、あたりかまわず大声を出していました。当時、私は幼稚園生。一緒にいた父親の後ろに隠れました。そのとき抱いた障害のある人の印象は、「怖い」、それだけでした。それからは、障害のある人を見て見ないふりをしていました。
3年後、父親の仕事の関係で、東京都目黒区の小学校に転校しました。ある日、私は授業でつかった試験管6本を理科室に片付けに行くことになりました。その小学校は校舎が古く、廊下は迷路のようでした。私は迷ったあげく、障害のある子どもが通う「特別支援学級」(当時は特殊学級)の前にいました。いそいでいた私は教室の前の廊下を走りましたが、すべって転んでしまったのです。試験管は粉々に砕け、廊下に広がりました。
そのとき、特別支援学級の教室から、少女がホウキとチリ取りを持って出てきて、割れた試験管をかたづけてくれました。彼女は言葉は出しませんでしたが、「かたづけは私がするから、あなたは教室に帰るのをがんばって!」と、励ましてくれているように感じました。このときはじめて、心に光があふれたような気持ちを感じました。と同時に「障害のある人は怖い」という、自分自身がつくった壁が崩れていったのです。
呼吸器を付け、生きることを決めてから18年。くじけそうになったことは数えきれないほどありました。そのたびに私は、少女を思い出していました。あの日のように、励ましてくれているような気がしているからです。
いま私には、マイブーム(自分の中での流行)といえる言葉があります。それは「ギバー(与える人)」。54年にわたり、私を励ましてくれているあの女の子にも、この力があったのだと思います。健康な人では見落としがちな「力」かもしれません。今の私は障害があるぶん、この力を見つけやすい気がします。その強みをいかして、障害のある人もない人も、すべての人に幸せを与えられる、「ギバー」としての議員活動をやっていきたいと思っています。