「君に届かない」は、「君に届け」のパロディではない。リスペクトである。アニメが放送されていた、2009年の秋から冬、そして2010年の春にかけての「ぼく」の物語である。「君に届け」は好きな少女漫画だった。だが、それ以上に、君に届け、というタイトルを見て、すべての私の小説は、君(読者)に向かって届け、と願って書かれている。だが、私の場合、君に届け、と願いながら、たいていは届かない。
これは、君に届け、と願うさまざまな思いが、届かない。そういう物語である。
玻璃は、肩まである黒くて真っ直ぐな髪に、前髪を切り揃え、目が大きく濡れたようにうるんでいる。世間知らずで、おろしたての笑顔のような女子である。男が幻想を抱きやすいタイプである。
玻璃は、そこにいるだけで、ひときわ他人の目を惹いた。白黒の映画のなかで、彼女のいるところだけが、カラーに着色されるようだった。
身長は標準だが、腰はキュッとくびれていて、脚はカモシカのようにすらりと長い。香水をつけている訳でもないのに、いいにおいがするようだった。
その話をじつは、ぼくは、知っていた。本人から聞いていたのである。ぼくと玻璃は、つきあい始めていた。メイに内緒で。
写真を一枚、パスケースに入れて持ち歩いている。そこには、三人の人間が写っている。元友人と元カノと、そしてぼくだ。携帯の機種変更をする際に、画像が失われないように紙の写真にした。
椎名軽穂「君に届け」がアニメ化された年だった。秋から冬、そして春にかけての話である。
まだ連載が終わっていなかった。出ている巻までメイに借りて一気に読んだ。
「わかっている。日暮の涙は私が流す。それは、最初から決めている」
玻璃は、肩まである黒くて真っ直ぐな髪に、前髪を切り揃え、目が大きく濡れたようにうるんでいる。世間知らずで、おろしたての笑顔のような女子である。男が幻想を抱きやすいタイプである。
玻璃は、そこにいるだけで、ひときわ他人の目を惹いた。白黒の映画のなかで、彼女のいるところだけが、カラーに着色されるようだった。
身長は標準だが、腰はキュッとくびれていて、脚はカモシカのようにすらりと長い。香水をつけている訳でもないのに、いいにおいがするようだった。