君に届かない

「彼女のことが、好きなのではないのですか?」

 先生がすかさず尋ねてきた。

緒 真坂 著
仕様:オンデマンド (ペーパーバック)
ページ数:214
ページサイズ:12.8 x 1.2 x 18.2 cm
出版社: デザインエッグ社
定価:2,354(税込)
Point.
1
切なくて苦しい、片想い小説を読みたい方 ⇒ 「君に届かない」
Point.
2
謎が深まるばかりの小説を読みたい方 ⇒ 「小説屋 平賀円内」「汁」
Point.
3
現実と妄想の境目がわからなくなる幻想小説を読みたい方 ⇒ 「グラスハープ」
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3
現実と妄想の境目がわからなくなる幻想小説を読みたい方 ⇒ 「グラスハープ」

作品概要

「アラフォー女子の厄災」に続く緒真坂の新作。

中編1つ、短編3つを収録。

「小説屋 平賀円内」
小説を完成させてはいるが、臆病な自尊心を持っているため、なかなか発表できない男に、ある日、一通のメールが届く。
「あなたの小説を読んで感動しました」

小説家志望の大型書店アルバイトの挫折と決意を描く。

「汁」
昭和34年に刊行された文芸同人誌「汁」の無名の覆面作家、花園地図。
たまたま家の書棚にしまってあったその作家の小説を読んだことから、「私」は作品に惹かれ、作家の秘密をさぐろうとする。
たどり着いた末に発見した、意外な顛末とは。

「君に届かない」
レコード店の息子、高校生の「ぼく」と向かいの本屋の娘、メイは幼馴染。メイの友人玻璃にストーカーがいるらしいとメイから相談された「ぼく」は、アイドルヲタクの小林から聞いた地域限定の女子高生投稿サイトのなかに犯人がいるのではないかと疑い、追い始めるが、物語は、意外な方向に転がり始める。
アニメ「君に届け」が放送されていた、2009年秋から2010年春にかけて起こったできごと。
決して君に届くことがなかった物語。

「グラスハープ」
南池袋でひっそりと営業している個人営業のコーヒー専門店、「グラスハープ」
店長は、学生運動世代の寡黙な老人だった。そこに美しい30代の「私」がふらっとアルバイトにやってくる。老人が過去を話し始めたとき、「私」の過去も明らかになっていく。
現実と妄想が混然一体となった幻想的な物語。

著者より

 「君に届かない」は、「君に届け」のパロディではない。リスペクトである。アニメが放送されていた、2009年の秋から冬、そして2010年の春にかけての「ぼく」の物語である。「君に届け」は好きな少女漫画だった。だが、それ以上に、君に届け、というタイトルを見て、すべての私の小説は、君(読者)に向かって届け、と願って書かれている。だが、私の場合、君に届け、と願いながら、たいていは届かない。
 これは、君に届け、と願うさまざまな思いが、届かない。そういう物語である。

著者紹介

緒 真坂
埼玉県生まれ
日本大学芸術学部卒業
「早稲田文学」「江古田文学」等に小説を発表(別名義)
第4回USEN朗読文学大賞奨励賞受賞(「スズキ」)
緒 真坂
埼玉県生まれ
日本大学芸術学部卒業
「早稲田文学」「江古田文学」等に小説を発表(別名義)
第4回USEN朗読文学大賞奨励賞受賞(「スズキ」)

「君に届かない」より

 玻璃は、肩まである黒くて真っ直ぐな髪に、前髪を切り揃え、目が大きく濡れたようにうるんでいる。世間知らずで、おろしたての笑顔のような女子である。男が幻想を抱きやすいタイプである。

 玻璃は、そこにいるだけで、ひときわ他人の目を惹いた。白黒の映画のなかで、彼女のいるところだけが、カラーに着色されるようだった。

 身長は標準だが、腰はキュッとくびれていて、脚はカモシカのようにすらりと長い。香水をつけている訳でもないのに、いいにおいがするようだった。


 その話をじつは、ぼくは、知っていた。本人から聞いていたのである。ぼくと玻璃は、つきあい始めていた。メイに内緒で。

 写真を一枚、パスケースに入れて持ち歩いている。そこには、三人の人間が写っている。元友人と元カノと、そしてぼくだ。携帯の機種変更をする際に、画像が失われないように紙の写真にした。


 椎名軽穂「君に届け」がアニメ化された年だった。秋から冬、そして春にかけての話である。

 まだ連載が終わっていなかった。出ている巻までメイに借りて一気に読んだ。


「わかっている。日暮の涙は私が流す。それは、最初から決めている」



 玻璃は、肩まである黒くて真っ直ぐな髪に、前髪を切り揃え、目が大きく濡れたようにうるんでいる。世間知らずで、おろしたての笑顔のような女子である。男が幻想を抱きやすいタイプである。

 玻璃は、そこにいるだけで、ひときわ他人の目を惹いた。白黒の映画のなかで、彼女のいるところだけが、カラーに着色されるようだった。

 身長は標準だが、腰はキュッとくびれていて、脚はカモシカのようにすらりと長い。香水をつけている訳でもないのに、いいにおいがするようだった。