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鎌田豊彦弁護士へ

鎌田豊彦弁護士が実際に携わった平成24年の「元従業員9名による未払い割増賃金問題等請求」の判例についてご紹介します。

判旨

1
原告らは未払割増賃金に関する第1・第2確認書の提出によって、被告Y社に対し割増賃金につき清算を確認するとともに、仮に未払いの割増賃金債権が存在するとしても当該債権を放棄する旨の意思を表示したものと解され、上記意思表示はそれが同人らの自由な意思によるものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存するといえるから、割増賃金債権放棄の意思表示として有効であるとされた例
2
あらかじめ将来の割増賃金について労働者がこれを放棄することは労基法代37条に違反し許されないが、すでに発生済みの割増賃金を、労働者がその自由意思に基づき放棄することは何ら労基法には反しないとされた例
3
基本給の中に割増賃金を含める旨の合意について、その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意され、労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその額を支払うことが合意されている場合、当該合意は労基法に反するものではなく有効であると解されるところ、旧賃金規程は、いわば労基法に則した割増賃金の定めを置いているにすぎないとみられるから、労基法上有効とされる固定割増賃金に関する合意が、旧賃金規程に反し無効とされることはないと解するのが相当であるとされた例
4
Y社と原告らとの間においては、各労働条件通知書記載のとおり、基本給の中に固定割増賃金を含める旨の個別合意が成立しており、かつそれらの個別合意は有効であると解するのが相当であるとされた例
5
使用したトラックを鮫洲事務所に返却するのに要する時間、すなわち品川本社から鮫洲事務所への移動時間である20分間についても、原告らの労働時間に含まれるものと評価するのが相当とされた例
6
本件における報償手当、管理職手当、役職手当は、労基法施行規則21条に規定する除外賃金に該当しないから、割増賃金の算定基礎賃金となるものと解するのが相当であり、一方基本給中に含まれる固定割増賃金については、割増賃金の弁済としての効力を有するものと認められるとされた例
7
本件諸般の事情に照らし、Y社に対して、労基法114条に基づき、未払割増賃金額と同額の付加金の支払が命じられた例
8
一般に、固定割増賃金に関する合意がされた場合についての合理的意思解釈としては、実際に行われた時間外労働時間に基づいて計算した割増賃金の額が、あらかじめ定められた固定割増賃金の額に満たない場合であっても、基本給は満額支払われるというものであると解するのが相当であるところ、本件におけるY社と原告らの間で成立した固定割増賃金に関する合意の合理的意思解釈も、そのようなものであると解されるから、原告らが時間外労働をしなかったからといって、基本給中の固定割増賃金部分を不支給とすることは許されないとされた例
3
基本給の中に割増賃金を含める旨の合意について、その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意され、労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときはその額を支払うことが合意されている場合、当該合意は労基法に反するものではなく有効であると解されるところ、旧賃金規程は、いわば労基法に則した割増賃金の定めを置いているにすぎないとみられるから、労基法上有効とされる固定割増賃金に関する合意が、旧賃金規程に反し無効とされることはないと解するのが相当であるとされた例

事件の概要

A社の元従業員9名が、産業廃棄物の処理運搬業を行っているY社に対し、未払割増賃金と付加金と、未払賃金の支払いを求めた事案です。

今回の争点は割増賃金請求および付加金請求関係として
  1. 清算確認の効力(平成20年7月分以前の訴求関係)
  2. 固定割増賃金に関する合意等の成否および有効性
  3. 元従業員らの労働時間
  4. 支払われるべき割増賃金の額
  5. 付加金請求の可否
  6. 時間外労働時間数に応じた固定割増賃金不支給の可否

判断のポイント

1.清算確認の効力
判旨1のとおり述べたうえで、仮に原告らに未払割増賃金債権が存するとしても、原告らは「自由意思」(判旨2)により、「当該債権を放棄する旨の意思を表示したものと解される」とした。
3.元従業員らの労働時間
労働時間については、判旨5を前提に
5.付加金請求の可否
「本件が、労働基準監督官から時間外労働等に対する割増賃金の支払いについて是正勧告を受けた後の事案であること…、Y社においては、固定割増賃金に関する原告らとの個別合意、新賃金規程への改定を経て、固定割増賃金制度を導入していながら、長きにわたり法廷の割増賃金額との差額の支払いを実施していないこと」から、判旨7のように述べて、争点(4)の未払割増賃金と同額の付加金の支払を命じた。
5.付加金請求の可否
「本件が、労働基準監督官から時間外労働等に対する割増賃金の支払いについて是正勧告を受けた後の事案であること…、Y社においては、固定割増賃金に関する原告らとの個別合意、新賃金規程への改定を経て、固定割増賃金制度を導入していながら、長きにわたり法廷の割増賃金額との差額の支払いを実施していないこと」から、判旨7のように述べて、争点(4)の未払割増賃金と同額の付加金の支払を命じた。
2.固定割増賃金に関する合意等の成否および有効性
まず労働条件通知書に署名をした原告らについて、「当該労働条件に同意した事実を認めることができる」とした。そして、かかる署名をしなかった原告らについては、本件認定事実からすれば「採用時に基本給額とその中に含まれる固定割増賃金の額とが明記された労働条件通知書が交付された…と認めるのが自然であり、当該労働条件通知書に記載された労働条件に異議を述べることなくY社に入社して就労し、記載されたとおりの賃金を受領していたものであるから、Y社と原告らの間においても、当該労働条件通知書に記載された内容での合意が黙示的に成立したものと解するのが相当である」とした。
なお同争点につき原告らは、Y社には固定割増賃金を上回る差額を支払う意思がないから当該固定割増賃金の定めは無効である、固定割増賃金に関する個別合意は旧賃金規程に反し無効である、Y社における36協定は無効であるから固定割増賃金に関する定めも無効である等とも主張したが、いずれも退けられている。
4.支払われるべき割増賃金の額
判旨6を前提に、それぞれ認定がなされた。
6.時間外労働時間数に応じた固定割増賃金不支給の可否
判旨8のように述べたうえで、原告らの請求を全額認容した。
6.時間外労働時間数に応じた固定割増賃金不支給の可否
判旨8のように述べたうえで、原告らの請求を全額認容した。

争点

清算確認の効力
【被告の主張】
清算確認の効力により、割増賃金請求権は存在せず、原告らの当該請求は理由がない。
【原告らの主張】
支払われた金額の範囲で時間外手当の支払いがあったとは言えても、労基法は強行法規であるから、時間外手当請求権を放棄したとまでは言えない。
固定割増賃金に関する合意等の成否および有効性
【被告の主張】
従業員の基本給には残業代は含めていた。基本給に45時間分の定額割増賃金を含めることを契約上明らかにした。その旨が明記された労働条件通知書が交付され、その内容につき説明を受けて了解し署名の上、原告らは被告に提出している。したがって基本給に45時間分の定額割増賃金を含めることが合意されている。
【原告らの主張】
被告は労働条件通知書を通じて、原告らとの間で、基本給に固定割増賃金を含める合意が成立している旨を主張しているが否認する。労働条件通知書に「署名」した者は、従前どおり基本給全額が支払われるとの説明に応じただけであって、固定割増賃金の支払いについて合意したわけではないし、従前の基本給を基本給と割増賃金手当に分けて支給することは、基本給を減額することを意味し、労働者にとって不利益な労働条件となるところ、そのような個別合意をしても、それは、基本給とは別に割増賃金を支払うことを規程する旧賃金規程に反するから、就業規則の最低基準効により無効である。
元従業員らの労働時間
【原告の主張】
当該原告らの給料明細書記載の「実働時間」に、鮫洲事務所への移動時間を加えたものが勤務時間となる。
【被告の主張】
タイムカードは原則として勤怠管理の目的で使用されており、タイムカードの打刻時刻を直ちに労働時間として把握する運用はされていなかった。タイムカードには手書きで記入された箇所や、月末等にまとめて記入されるなどされており、打刻時刻及びそれに基づいて作成された給与明細上の「実働時間」の記載は信用性がない。
品川本社から鮫洲事務所への移動時間を労働時間であると主張するが、原告らの業務は品川本社での日報提出をもって終了しており、原告らは業務終了後の着替えのために鮫洲事務所に移動しているものであって、被告は移動の便宜のためにトラックを使用を許しているにすぎない。すなわち、原告らは鮫洲事務所への移動を余儀なくされていたわけでもないから、当該移動時間は労働時間に当たらない。
支払われるべき割増賃金の額
【原告の主張】
原告らに支払われるべき割増賃金額は、別紙の「月間未払時間外賃金合計(請求額)」欄記載のとおりである。
【被告の主張】
固定割増賃金に関する合意等の成否及びその有効性で述べたとおり、基本給に45時間分の定額割増賃金が含まれているため、基本給から定額割増賃金を控除した残部が、割増賃金の算定基礎となる。
付加金請求の可否
【原告らの主張】
被告は、本訴提起後においても、原告らに対し、本件時間外労働に対する割増賃金を支払っていない。また被告は本訴において、固定割増賃金の定めがあることを主張しながら、自らが作成した給与明細書記載の「実働時間」のうち、月45時間を超える部分についての差額の支払すら行っていない。こうした本件一連の経緯に見られる被告の脱法的意思の強固さ等の事情を考慮すると、被告に対しては、支払われるべき割増賃金と同額の付加金支払を命ずるのが相当である。
【被告の主張】
争う。
時間外労働時間数に応じた固定割増賃金不支給の可否
【原告の主張】
基本給減額の内訳を明らかにしないまま、一方的に基本給を減額することは信義則に反し許されない。時間外労働の有無にかかわらず、固定割増賃金を含めて「基本給」は全額支払われなければならず、「固定」である以上、「基本給」が減額されることは許されない。
【被告の主張】
被告は
  1. 原告らが終日ストライキを実施した場合
  2. 原告らが時間外労働をしなかった場合
について、ノーワーク・ノーペイを理由に、原告らに対し、基本給の一部を不払としたものである。実際の時間外労働時間数が月45時間を下回る場合には、その時間数に応じて定額割増賃金の一部が支給されないというのが、当事者の合理的意思解釈として妥当である。なお、被告は実際の時間外労働時間数が月45時間を下回る場合でも定額割増賃金全額を支給していたが、これは恩恵的な措置にすぎない。

裁判所の判断

清算確認の効力
原告らは第一・第二確認書の提出によって、被告に対し割増賃金につき清算を確認するとともに、仮に未払の割増賃金債権が存在するとしても当該債権を放棄する旨の意思を表示したものと解される。原告らによる意思表示は、それが同人らの自由な意思によるものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存するといえるから、割増賃金債権放棄の意思表示として有効である。
しかし、あらかじめ将来の割増賃金について労働者がこれを放棄することは労基法37条に違反し許されないというべきであるが、既に発生済みの割増賃金を、労働者がその自由意思に基づき放棄することは何ら労基法には反しないと解されるから、原告の上記主張は採用の限りではない。
以上によれば、未払割増賃金が存するとしても、原告らは自らの意思表示により当該債権を放棄したものと言うべきであるから、その余の点につき判断するまでもなく、未払割増賃金の支払を求める原告らの請求は理由がない。
元従業員らの労働時間
品川本社にトラックを戻したあとも、車両チェックをしてから鮫洲事務所に戻し、収集した廃棄物の中にスプレー缶や生ゴミが含まれる場合は、鮫洲事務所の倉庫に入れることも業務の一つであることから、使用したトラックを鮫洲事務所に返却するのに要する時間、すなわち品川本社から鮫洲事務所への移動時間である20分間についても、原告らの労働時間に含まれるものと評価するのが相当である。
付加金請求の可否
本件諸般の事情に照らすと、被告に対しては、労基法114条に基づき付加金の支払いを命ずることが相当である。
付加金請求の可否
本件諸般の事情に照らすと、被告に対しては、労基法114条に基づき付加金の支払いを命ずることが相当である。
固定割増賃金に関する合意等の成否および有効性
それぞれの基本給額とその中に含まれる固定割増賃金の額とが明記された労働条件通知書が示され、各原告らが署名した上でこれを被告に提出することによって、当該労働条件に同意した事実を認めることができる。
各労働条件通知書に示された合意内容を合理的に解釈すれば、明文の記載はなくとも、上記のように超過割増賃金が発生する場合に被告が差額支払義務を負うことは、むしろ当然のこととして、現に各労働条件通知書には「超過勤務手当」として差額を支給する旨の規定も存するところであるから、原告の上記主張は採用することができない。
被告と原告らとの間においては、各労働条件通知書記載のとり、基本給の中に固定割増賃金を含める旨の個別合意が成立しており、かつそれらの個別合意は有効であると解するのが相当である。
支払われるべき割増賃金の額
被告と原告らとの間には基本給の中に一定額の固定割増賃金を含める旨の合意が成立していると認められるから、割増賃金の算定基礎賃金となるのは、基本給の額から合意された固定割増賃金の額を差し引いた残額であり、具体的には別紙割増賃金算定表の「純基本給」欄記載のとおりである。
原告らに支払われるべき割増賃金の額は、別紙の「認容額」欄記載のとおりであり、原告らの割増賃金請求はその限度で理由がある。
時間外労働時間数に応じた固定割増賃金不支給の可否
一般に、固定割増賃金に関する上記のような合意がされた場合ついての合理的意思解釈としては、実際に行われた時間外労働時間に基づいて計算した割増賃金の額が、あらかじめ定められた固定割増賃金の額に満たない場合であっても、基本給は満額支払われるというものであると解するのが相当である。
不支給とされた基本給は、その全部が固定割増賃金部分であったと認めるのが相当であるし、不支給額の内訳を明らかにしない被告の上記訴訟態度を含む弁論の全趣旨を考慮すると、実際には不支給分の全額が原告らが時間外労働をしないとを理由とする固定割増賃金部分の不支給であったと推認できると言うべきである。
以上によれば、その余の点につき検討するまでもなく、原告らは基本給のうち、不支給とされた分の金額について賃金支払請求権を有しているものと認められる。
時間外労働時間数に応じた固定割増賃金不支給の可否
一般に、固定割増賃金に関する上記のような合意がされた場合ついての合理的意思解釈としては、実際に行われた時間外労働時間に基づいて計算した割増賃金の額が、あらかじめ定められた固定割増賃金の額に満たない場合であっても、基本給は満額支払われるというものであると解するのが相当である。
不支給とされた基本給は、その全部が固定割増賃金部分であったと認めるのが相当であるし、不支給額の内訳を明らかにしない被告の上記訴訟態度を含む弁論の全趣旨を考慮すると、実際には不支給分の全額が原告らが時間外労働をしないとを理由とする固定割増賃金部分の不支給であったと推認できると言うべきである。
以上によれば、その余の点につき検討するまでもなく、原告らは基本給のうち、不支給とされた分の金額について賃金支払請求権を有しているものと認められる。

主文

  1. 被告は、別紙の「原告名」欄記載の各原告に対し、同「認容額」欄記載の金額及び同「内金額」欄記載の金額に対する同「遅延損害金起算日」欄記載の日から各支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
  2. 被告は、別紙の「原告名」欄記載の各原告に対し、同「認容額」欄記載の金額及びそれらに対する本判決確定の日の翌日から各支払済みまで年5%の割合による金員を払え。
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