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ジュロコロ
さく・え すえはらたくま

 

 

 

 





 















 





 

 

 

 

昔々、天使や悪魔たちがまだまだ世界を創っているさいちゅうのことです。 悪魔たちが言いました。 


「俺たちはとっても恐ろしい生き物を創るのが得意だ。 俺たちは恐ろしい生き物を創り、人間たちを怯えさせ悲しませ涙を流させる。こればっかりは、いつも偉そうにしているお前たち天使にも負けることはない」

これを聞いて、天使たちは怒って言いました。

「私たちは、何においてもお前たちなんかに負けはしません。明日までに、この世で一番人々を泣かせる生き物を創ってみせましょう。」  

次の日、天使は言いました。

天使「私が創った恐ろしい生き物はこれです。このドドプたちは、涙しか飲むことができない」

悪魔「涙だけ?」

天使「そうです、涙の他には何も食べることができないし、他の何も飲むことができない」

悪魔「なんでそんな素っ頓狂な設定を?」

天使「ドドプたちは涙を飲まないと干からびて死んでしまう。だから彼らは生き延びるために、人間のところに行っては必死の手練手管で怯えさせ苦しめ悲しませ、涙を流させ続けるんだ」

悪魔「わあ、なんて邪悪な生き物なんだ!生きるために人を不幸にさせ続けないと生きていけないなんて!」

天使「はっはっは。どうです。こんなものです。」

悪魔「こいつはやられた。なんて恐ろしい生き物なんだ!」

僕はジュロコロ。ドドプという生き物です。

だけど、僕は落ちこぼれ。
僕は生まれつき、手足がないんだ。

僕たちドドプはみんなで涙を狩る。

人間を見たら、その人が大切にしている物を壊したり、叩いたり、その人が周りから嫌われるように仕向けたり、アレヤコレヤ可能な限りのやり口で、泣かせる。


泣かせたら、みんなでその涙を飲む。飲み干す。


涙を飲まれたその人は悲しみに暮れたままボーッとして不幸になってしまうのだけれど、そんなこと僕らは、おかまいなしを決め込む他にはない。
僕らはいつだって喉が渇いて渇いて仕方がない。
誰かを泣かさなくっちゃ、泣かさなくっちゃ。


僕は僕で実は思っている。
僕もいつか、誰かに涙を流させてみたい。


だけれど僕は落ちこぼれ。みんなが泣かした誰かの涙を、ほんのちょっとだけ分けてもらう。
「お前は何もしないくせに、分け前だけはもらいやがって」

僕だって申し訳ないと思っているけれど、手足がない僕は、何もできない。みんなみたいにはできないんだから、仕方がない。

ある日、みんなが集まっていた。

もう何百年も生きているという噂の長老ドドプ、ジャガムロ爺さんが、言った。

「最近は、人間たちが我々を恐れて警戒するようになった。どうにも涙不足だ。このままじゃ、我々はみんなで丸ごとお陀仏だ。ジュロコロ。お前はどうにも足手まといだから、ここから出て行ってはくれないか」









僕は驚きはしなかった。いつかはそう言われるだろうなとは思っていた。だけど、もちろんとてつもなく困る。僕はみんなと一緒じゃなきゃ涙を手に入れることなんてできないだろう。

だけど僕は答えた。

「うん、わかった。僕、出て行くね。」

 自分じゃ何もできない僕は、人に抵抗をしたことがない。 言われた通りに従うというのが、僕の僕らしさなんだ。

こうして、僕の旅が始まった。

ひいひい、苦しい。もうだめだ。

 一週間くらい経つと僕はもういまにも消えてしまいそうだった。

 みんなと別れてからと言うもの一口も涙を飲めていないぞ。

ああ、僕はもう、だめだ。飛ぶこともできやしない。

ここで、僕はカラカラに干からびてしまう……のだ……

僕は地面に仰向けになって、星空を見ていた。

これが最後に目にする景色ならまあ、まだマシかな、と思った。

ああ、どうして僕は涙しか飲めないんだろう。

世界はこんなにも綺麗なはずなのに。

すると……

森の茂みの向こうから何かが聞こえた。

シクシク、シクシク……

なんの音だろう?

僕はフラフラしながら力を振り絞って、茂みの向こうをのぞいてみた。

すると、そこにいたのは……

ひとりの女の子。目を真っ赤にして、泣いていた。


























なにも考えられなかった。

僕は女の子のほっぺたに飛びつくと、涙を飲み干した。

ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくごく !!

お、美味しい!

どれだけぶりの涙だろう!!!

ぷはあ。

僕は女の子の涙をみんな飲み干してしまった。

「もう、涙は出ないんですか?」
僕が聞くと、少女はキョトンとして答えた。

「うん。もう、大丈夫。」

「もっと泣いてください。僕はもっと飲めます。飲みたいです。」

「もう涙は出ないわ。」

「そんな、困ります!一体どうして泣いていたんですか!」

「……ううん。」

「ううん、じゃなくて!泣いている理由を話してください!話なら聞きますから!」

僕は必死だった。誰も泣かすことができない僕がこうやって涙にありつけるチャンス、もしかしたらもう二度とないかもわからない。女の子とはポツリポツリと話し始めた。

「……私の大切にしていた猫がね、死んでしまったの。

小さい頃に捨てられているのを拾って、もうずっと一緒だったのに、だんだん元気がなくなっていって、そしてついに今日の朝、死んでしまったの。

とってもさみしいの。とっても悲しいの。

こんな風に別れてしまうくらいだったら、あの時拾わなければよかったと思ってしまうの。」

星空の下で、女の子はしばらく、自分と猫の話を続けた。

話しながら、何度も目から涙があふれ、その度に僕はそれをすすった。

「あなたは猫が大好きだったんですね。」

僕は思ったことを口にした。

なぜか彼女はハッとしたみたいな顔をした。

「そうね。そうだ。

私、悲しい気持ちでいっぱいだったけれど、違う、

こんなにも大好きな気持ちなんだ。

だから、あの時、あの子を拾って本当によかったんだ。」

女の子は最後にたくさんたくさん泣いた。

僕は不思議に思った。

なんで、この人は大好きな猫のことでこんなにも泣くのだろう。

猫にひっかかれて泣くのなら、わかるけど。

しばらくして彼女の目からはもう涙が流れなくなった。

「もっと泣いてください」僕は頼んだ。

「ううん。あなたに話を聞いてもらったら、安心した。ありがとう。私、もう泣かない。」

そんな……!

「ま、待ってください!ダメです。泣いてください!」

仕方がないから、他のドドプたちがやっているみたいに僕は彼女に体当たりをした。だけれど、手も足もない僕はてんでダメ。彼女は涙を流すどころか、笑い出した。

「なんで笑ってるんですか!」

僕が抗議をすると、彼女はもっともっと笑った。

「あなた、動きがおっかしいわ。お尻プリプリ振って、可愛らしいのね。」

「ふざけないでください!泣いてください!ほら!それと、笑わないでください!」

実は僕たちドドプは、人が笑っているのをみると病気になって死んでしまうんだ。

「あはははは!」

「笑わないで!泣いてください!泣かなくてもいいから、せめて笑わないで!!」

「あなた、一体誰なの?」

「ジュロコロです!」

「もうこんな夜だわ。私、帰るわね。私、川向こうにあるルイマルムという村に住んでいるのよ。あなた、どこに住んでいるの?よかったら一緒に来ない?」

僕はなんだか釈然としない心持ちだけれど、それでも随分と涙を飲むことができたから、もうカラカラじゃない。

助かった……!

そうか、手足を使って人を泣かさなくても、元から泣いている人を探せばいいんだ!

僕は自分を天才だと思った。

よし、そうとわかれば、人がたくさんいるところに行くのがいい。

 僕は、彼女について川向こうのルイマルムという村にいってみることにした。

 歩いている途中で、女の子は言った。

「私の名前は、ファズだよ。」

ルイマルムはとてもとても大きな村だった。

ファズは村人に会うとニコニコと挨拶をした。

それで、村の広場まで行ってステージに立ったかと思うとスッと息を吸って、大きな声で言った。

「ルイマルムの民たちに告ぐ!!」

村人たちはなんだなんだとステージを注目した。ファズは話を続けた。

「この子はジュロコロと言ってね、悲しい気持ちの私の話を聞いてくれたの。おかげで私、とっても元気が出たんよ。」

体の大きなおじさんが僕をみて言った。

「なんだか……あの恐ろしい化け物のドドプに似ていないか??」

僕はドキッとしたけれど、ファズがすぐに答えた。

「人を泣かせて涙を飲む邪悪な化け物でしょ?確かにちょっと似ているかもしれないけれど、でもジュロコロには手足がないわ。ドドプだったら、おぞましい形の手足があるはずでしょ?」

「ああ、本当だ。それにこの子、クネクネしててとてもおもしろいな。」

おじさんが大きな声で笑い出したので、僕は焦った。

「笑わないでください!」

「ああ、ごめんごめん。よろしくな、ジュロコロ。ルイマルムはいい村だから、好きなだけゆっくりしていってくれ。」

僕はほんの少しいたたまれない心持ちにはなりもしたけれど、でも、抜群のギリギリセーフ感に胸を撫で下ろした。ドドプだとバレたら、大変だ。

ルイマルムでの生活はのんびりしていた。

僕は朝から晩まで村の中をほっつき飛んで、泣いている人を探す。

泣いている人を見つけると僕はそばに行って涙を飲む。

なるべくたくさん泣いてもらうために、どうして泣いているのか話を聞く。

この作戦の弱点は、たくさん泣いた後に相手がスッキリして泣くのをやめてしまうことなのだけれど、でも、悪くはない。

なぜかみんな別れ際には、こう言う。

「ありがとう、ジュロコロ。」

僕は涙を飲んでいるだけなのに

いつしか。みんなの方から僕に会いに来るようになった。

「涙がこぼれた時はジュロコロの所へ行くといい」って、変な評判になっちゃった。

朝から晩まで、僕のところには泣いてる人がやってきた。

僕は、言う。

「泣いている理由を話してください。話なら聞きますから。」

僕は、朝から晩までみんなの話を聞いた。

飲みきれない涙は、瓶に入れた。









             僕
             が
             ル
             イ
             マ
             ル
             ム
             に
             来
             て
             か
             ら
             一
み            年
ん            が
な            経
が            っ
お            た
祝             
い             
パ             
|             
テ             
ィ             
|             
を             
開             
い             
た             

















僕は、変な気持ちだったけれど、いつまでも、こんな時間が続けばいいな、と思った。


















「おやすみ、ジュロコロ!」

パーティーが終わってみんなは帰って行った。

誰もいなくなって、僕は風を感じてふわふわ浮いていた。

雨雲がゴロゴロと音を立てていた。

「なんてこった。ジュロコロじゃないか!」

とつぜん呼ばれて僕は驚いた。

そして、声のする方を振り返って、もっと驚いた。

ジュデリだった。

ドドプの仲間の中で、 いつも涙狩りの時に襲撃する場所を偵察にいく係のジュデリ。 落ちこぼれの僕にも比較的やさしいドドプだった。

「生きていたんだな!よかった!!」

ジュデリは僕のことを抱きしめた。 いいなあ、腕があるって、と僕は思った。

「それにしても何してるんだ、こんなところで!」

なんと説明していいのかがわからなかったので、 僕も聞いてみた。

「ジュデリこそ、こんなところで何をしているの?」
「みんなのところに行こう。 すぐ近くの川べりの洞窟にみんないるから。 俺からみんなに話してあげるから大丈夫さ。 それに実は前とは事情が変わったんだ!」

僕は久しぶりに仲間に会えたのでとても嬉しかった。 

ジュデリについていくと洞窟にはみんながいた。

「ジュロコロじゃないか!!」

「無事だったのか!」

みんなは僕が帰って来たことに喜んでいるみたいだった。

ジャガムロ爺さんが言った。

「あの時は本当にすまなかった。全員丸ごと共倒れになっちまわないためにやむを得なかったんだが、あの後みんなで後悔していてな。どうか許して欲しいんだ」

僕は、全然気にしていなかったし、そもそも僕が足手まといだっただけだ。だから「また会えて嬉しいです。」とだけ言った。

「もう大丈夫だぞ。お前の分の涙も、十分に手に入るようになったんだ。」ジャガムロ爺さんは話し始めた。

「実は、ついにシャガルダの花を見つけたんだ!知っているだろう?数百年に一度だけ咲くと言われている巨大な神秘の花さ。その花を枯れさせて粉末にしたものを吸い込んだ人間は、悲しくて悲しくて仕方がなくなる。

泣いても泣いても涙が止まらなくって、死んじまうまで泣き続けるという。ほら、これを見ろ。」

長老は大きな大きな瓶を見せてくれた。中にはみたこともないくらいに美しい粉がいっぱいに詰まっていた。シャガルダの花については知っていた。ドドプたちがいつだって探している伝説の花だもの。おとぎ話だとばかり思っていた。

「この粉を、風の強い日にルイマルムの風上から飛ばすんだ。」 ジュデリが言った。 「さっき偵察して来た感じだと、風も強い村だし、地形としては文句なしです。シャガルダの粉は町中に吹き荒れるでしょう!」

ドドプたちは大喜びで歌った。

「ねえみんな!」

僕は僕にしては珍しく大きな声を出した。みんなが僕を振り返った。

「どうしたんだ?」

僕は何かとても大切なことを言わなくちゃいけないような気がしたのだけれど、みんなに見られたらドキドキして声が出なくなってしまった。

足手まといの落ちこぼれである僕が、みんなに何かをいうなんてどだいおかしな話しだ。かろうじて僕は小さな声で言った。

「シャガルダの花が見つかっただなんて、すごいね。」

「よし、だいぶしばらく涙を飲めていないが、これでもう安心だ!朝にはきっと雨も止むだろうから、明日の朝に作戦決行だ。今宵はジュロコロも帰ってきた。なんて素敵な夜なんだ!」

ドドプたちは口々に僕のところに来て、「おかえり」と言っては抱きしめてくれた。

洞窟の外には雨が降りしきり、雷が鳴っていて、ドドプたちの歌声をかき消していた。

次の日はすごい晴れの日だった。


ドドプたちはいそいそとルイマルムの村の方へと出かけた。


風上にはシャガルダの粉を入れた瓶を持って、ジュデリたちが待機していた。一番鶏がコケコッコーとないたら、瓶をひっくり返して風に撒き散らすことになっていた。

風がシャガルダの粉を運んで村にたどり着いて、人間たちが泣き始めたらみんなで出ていって涙を飲み干すことになっていた。


僕は、どういうわけかドドプたちと別れて、村に戻ることにした。



まだ朝が早いのに、ファズがいた。

僕は、おはよう、と声をかけた。

「ジュロコロ!あなたに会いにいったらどこにもいなかったから、何かあったんじゃないかと思って探していたの。」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、一番鶏が大きな声でないた。

 

 

 

 

 

 

強い強い風が吹いていた。
風はあっという間に吹き荒れた。

村中の人が、風が運んだ粉を吸い込んで、
へくしゅんヘックシュンとくしゃみをした。

そして……大きな声をあげて、泣き出した



ドドプたちが現れたのをみて、
村人は怖くてより一層泣いた。

自分の大切な人が隣で泣いているのをみて
悲しみ、もう一度泣いた。

自分を大切に思う人が自分を思って
悲しんだことを知り、
さらにもっと泣いた。


ルイマルムの人たちは
声をあげて泣いていた。

魔法の粉のせいで、
悲しいことをひっきりなしに思い出して、
どうしようもなく
気が狂ってしまうんじゃないか
と思うくらいに泣いていた。

すべてが悲しみにつながるみたいだった。

「さあ、ジュロコロ!
 お前も飲んでいいぞ!」

 仲間たちが僕を呼んだ。
ファズが泣いていた。

「ジュロコロ……
あなた、ドドプだったのね。
大好きな友達だと思っていたのに。
騙していたの?
そんな……そんなのあんまりに悲しい」

ファズはたくさん泣いた。

涙がたくさん溢れた。


僕は、その涙をすすることができなかった




















その次の瞬間に僕がやったことについては、

僕もじょうずに理由を説明できない。




















その次の瞬間に僕は村の広場のステージの上で空高く浮かぶと、なるべく村中のみんなに聞こえるように大きな声を出した。


「ルイマルムの民たちに告ぐ!!」


全員が僕の方を見た。ルイマルムの人間たちは目を真っ赤にしながら、鼻をすすりながら、それでも僕の方をみた。ドドプの連中も僕をみた。

「なんだジュロコロ、どうしたんだ」みんなは僕に向かってそう言った。

僕はもう心臓がばくばくして、気を失いそうになった。だけれど僕は、言った。



僕が最近気づいたこと。

この村に来るまでは感じなかったことなのだけれど、僕はみんなが悲しい顔をしているのが、もう嫌なので、耐えられないと感じるようになったこと。

昨日の夜はパーティーをしてくれて嬉しかったこと。

ドドプたちのことが大好きであること。

ルイマルムの人たちのことも大好きであること。



「ねえ、みんな、人を傷つけなくても僕たちは生きていけるみたいなんだ。涙は、本当はとてもとてもあたたかいものなんだ。傷つけて流させるんじゃなくて、傷を癒すために流れるものなんだ。大切なものを大切にしているって知るために、そのために流れるものなんだ。」

自分でも何を言っているかわからなくなったけれど、たくさん喋った。

わけがわからなくなったので、僕は、踊った。
手足がない僕はヘンテコな動きしかできない。

人間たちが泣き止んだ。
ドドプたちは怒った。
僕は踊り続けた。


人間たちが笑い始めた。
僕は、恥ずかしかった。
クネクネ。クネクネ。
お尻を振って踊り続けた。

人間たちが大笑いを始めた。
ゲラゲラゲラゲラ……
「ジュロコロ、なんだそのヘンテコな動きは!」


ドドプたちは大慌てだった。
「やめろジュロコロ!こんなに笑いに触れたら、俺たちは消えて無くなってしまう!それにお前だって危ないんだぞ!」

僕は踊り続けた。
ゲラゲラゲラゲラ。


僕は、この「ゲラゲラ」を聞くのが好きだな、と初めて知った。



踊り続けた。

村人は腹を抱えて、転げて笑った。

ドドプたちはみんなどこかに逃げてしまった。










そして




















僕は





















地面に落ちた
















村人たちが駆け寄って来た。

もう、全然動けなかった。

そりゃそうだよ、どう考えても、笑いに触れすぎた。

涙を飲まないと死んでしまって、笑いに触れても死んでしまうだなんて、僕らはなんのために生まれてきたんだろう。

ファズが僕のことを抱きかかえた。

村中のみんなが僕の顔を覗き込んだ。

みんなが僕の名前を呼んだ。ファズが言った。






「ジュロコロ、大好きだよ」




そんで、また泣いた。

みんな泣いていた。

笑っているのに、泣いていた。

僕はそれがなんだか不思議なことに思えて、いつものように、言った。

「泣いている理由を話して。話なら聞くよ。」



僕は嬉しかった。

おいしそうな涙がいっぱいだったから?

それもあるけど、そうじゃない。

 落ちこぼれの僕が、初めて誰かを泣かすことができたんだ。

僕は嬉しくて、ほんの少しだけ、泣いた。








おしまい









あとがき


絵本の主役はいつだって、 読み聞かせられている「あなた」。

物語と物語の隙間を、物語の奥底の物語を、物語の裏側を、物語の登場人物たちのたくさんの時間を、絵本の世界の中に潜り込んで共に旅する。

それが、絵本にまつわる何よりも素敵な魔法。

この一冊の絵本はその入り口の鍵にすぎなくて、とりあえず一度読み終えて、あなたはこのページにいるのかもわからないけど、これから何度も何度も、あなたはこの世界を旅できる。

そしてどんどん、この世界があなたに宿り始めてあなたと絵本との境目が、いつしか消えてしまえばいい。

もしもこの絵本が気に入ったのなら、まずは絵本の好きなところに、あなたの名前を描いて、そしてこれから何度も何度も、この絵本を開いてほしい。

キンキラキンのラブをあなたに               

末原 拓馬