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清新で、誠実で、語りすぎないカッコ良さ――そんな魅力の数々が詰まった作品だ。
元号が変わり今年で29年目。平成生まれの若い人々にとって、昭和はまさしく未知の領域だ。昭和を生きた人々から、高度経済成長期やバブル景気時代の苦労話や面白エピソードを聞いても、追体験的な想像はできるが、空気感の共有にはなかなか至らない。
とはいえ、今の時代でも、昭和の雰囲気と簡単に接する方法がある。映画だ。風景や音楽だけでなく、時代を彩った俳優たちの息遣いまでも、ヴィヴィットに感じることができる。
本作『平成三侠伝』は、そんな昭和映画の中でも「任侠モノ」が特に大好きな著者と編集者がタッグを組んで書かれた小説である(なお、著者は平成生まれ)。タイトルは高倉健主演の東映映画『昭和残侠伝』のもじりとなっている。
20歳の日光エンゾーは、ピンクのハッピに鉢巻が正装のアイドルオタク。彼はあるとき、頻繁に利用するレンタルビデオ店で、風采の上がらない一人の店員と知り合う。男の名は奥野平次、35歳。役者で、映画の出演本数は10本近くにのぼるが、すべて「殺され役」で、クレジットに名前が載ったことがない。任侠映画スターの「健さん」にそっくりな風貌であるにもかかわらず(!)、である。
しかし、彼にも大きな転機が巡ってくる。主演映画の話がもたらされたのだ。狂喜するエンゾーだったが、平次の顔色は優れない。実はこの話の裏で、平次の主演映画のため、平次の幼馴染で映画製作会社に勤める久野新八が、悪漢上司と暗闘を繰り広げていたのだ……。
2017年2月4日、5日の二日間で企画から執筆、完成、電子書籍販売まで行う「NovelJam(ノベルジャム)」という企画から生まれた本作。短篇というよりはちょっと長いショートショートだが、昭和任侠映画の雰囲気が巧みに持ち込まれており、読む者に鮮やかな印象を残す。特に会話文が洒脱で小気味よく、やり取りだけでそのキャラクターの人物像が浮かび上がってくる。清新で、誠実で、語りすぎないカッコ良さ――そんな魅力の数々が詰まった作品だ。
(書評家・西野智紀)
平々凡々の日常に不完全燃焼している……という方!