内田さんは、数年前まで、日中と夜間保育を実施していた。その時のエピソードを紹介する。
師走の午後4時前、昼間に買い込んだおやつやトイレットペーパーの入った袋を手に提げ、内田さんが保育園に向かった。
日中保育の「お迎え」と夜間保育の「お預かり」が重なるこの時間に決まって出勤する。両方の園児、保護者と顔を合わすことができるからだ。
「あっ、順子先生」。玄関の扉を開くと、一斉に子供たちの元気な声が飛んできた。エプロンをつけ、一人ひとりの様子を記した児童活動記録にすばやく目を走らせると、遊んでいる子供たちの中に入っていく。早速、3人の子供が内田さんを客に見立て、買い物遊びを始めた。すると、別の2歳になる女の子が内田さんに抱きついてきた。その子を膝に抱えていると、今度は3歳のはっちゃんが「先生、カルタやってー」と駆け寄ってきた。子供の思いに上手に応えながら、それぞれの姿を見守る。
内田さんは「子供の育つ力を信じ、伸ばしてあげたい。そのためにも、一人ひとりの思いを聞いてあげることを心がけています」と言う。
その当時、内田さんが園長していた保育園は、大分市の中心地。基本開所時間は午前7時から午前2時半まで。日中と夜間保育を実施する。延長が可能なため、朝方まで開園されている日が多い。内田さんはほぼ毎日、夕方から午前3時まで園で子供と向き合う。
保護者には離婚などを理由に、一人で子育てする人が少なくない。日中はパートの掛け持ちで働く母親もおり、同園は長時間働く保護者の家庭を支える。夜間は、主に夜の繁華街で働く人たちの子供が通っている。
午後6時を過ぎ、「お迎え」と「お預かり」のピークを迎えた。母親が迎えに来るたびに、内田さんは園で過ごした子供に上着を着せ玄関に向かう。家路につく親子を見送ると、今度は夜間の子供を迎え入れ、その子と一緒に「ママ、行ってらっしゃい」と母親に声をかける。
私たちの保育理念は、子ども自らが育つ「こころ」が引き出され、大人の育てる「思いやり」が活かされた家庭的な養護、教育の一体的な保育の実現です。
近年、乳幼児期、学童期の子どもの保育について、育てる側の保護者の意識だけが過剰になりがちで、それを受ける子ども側はいつも受身になりがちです。子どもが本来持っている力は素晴らしいもの。その力となる自ら育つ「こころ」が発揮できずに残念に思うことがあります。
これからの未来を担う子ども達は、心身ともに成長していく発達段階において、自ら育つ「こころ」こそ、私たち大人は期待されるべきで、それを日常生活において何気ない言動の中から引き出されていく訓練が、どんな環境であっても必要です。
弊園では、子ども一人ひとりの特性とその子の自ら育つ「こころ」を引き出すことを第一に、その子に合わせたふれ合いを大切にしています。また、子どもの成長を願い、子どもから学ぶ心を忘れず、「思いやり」の心を子どもたちと共に育んでいける家庭的な保育環境づくりを目指しています。