近年、医療系学部、とりわけ医学部の合格に必要な学力偏差値は上昇を続け、入学定員増が行われているにもかかわらず、難易度は一向に下がる気配がみられない。合格ボーダーライン上にいる受験生の学科成績の差はほとんどなくなり、それこそ 1 点、2 点の得点差が合否を決めるという非情な選抜が行われているのが現状だ。
そのような中、とりわけ私立大学医学部において、小論文試験・ 面接試験の出来不出来が合否を決定するということが多くなってき た。国公立大学を含め、いまや、小論文試験が「形だけ」行われて いる大学は存在しない。もちろん、(英数理科などの)学科成績が 伴わなければ最終合格に至らないことは確かで、学科試験にパスし なければ小論文試験を受けることができない大学もある。しかし、学科成績が抜群に優秀でない限り、1 次の学科試験を何とか通過しても、小論文の出来が悪くて不合格になるということは、大いにあ り得る。また、これは、小論文を点数化していない大学であっても 同じだ。
「学科試験で失敗しなければ、小論文は人並みでよい」という考え方は、もはや通用しないのである。
それならば、人並みを超えるためのハイレベルを目指そうとして、やる気のある人向けの参考書を探してみても、そういうものは世に 払底しているという有様だ。失われた 20 年の不況下において、出版事情は悪くなる一方で、本格派の(それゆえに商業ベースに乗ら ない)上級者向け参考書が駆逐され、お手軽で取っつきやすいもの だけが本屋に並んでいる。
たしかに、丁寧でわかりやすい解説のついた、入門者向けの参考書が増えたのは喜ばしいことである。私が受験生だった時代(20 数年前)から比べると、国語・小論文の参考書の出版数は格段に増 えた。かつては手探り状態で探し当てた情報も、今ではすぐに入手 できるようになっている。基礎の基礎からじっくりと学べる環境に、誰もが簡単にアクセスできるようになったのは、たしかに歓迎すべ きことだと思う。
しかし、国語や小論文に限って言えば、上級のステップを目指す人のための情報や書籍は、昔より少なくなっているとまでは言えなくとも、なかなか入手し難いという状況があり、それは極めて憂うべきことだ。理数科目には相変わらず上級向けがあるのに、英語以外の文系科目は軽視され続けている。
簡単なところから入門することは、勉強の順序として当然だが、「簡単である」ことと「基礎的である」(ゆえに重要である)ことは別である。また、基礎的段階から、より高いステージを目指すトレーニングも、確実に合格を勝ち取るためには必要である。
本書は、このようなトレーニングに果敢にチャレンジし、「自信を持って小論文試験をクリアしたい」、「2 次試験でライバルに差をつけて合格を果たしたい」と考える真面目な(?)受験生のために書かれた実践演習書だ。
初級者向け参考書を読んだ後、何をするべきかに悩んでいる人、「小論文の書き方」はもう大丈夫だけれど、その後どうやって勉強を進めればよいかわからなかった人、医学部入試に頻出する「生命倫理」や「医療問題」について、概論的な知識を得たいと思っていた人は、ぜひこの書で勉強し、答案の採点者にアッと言わせる答案を書いて、医学部への切符を確実に手にしてほしい。
原田広幸