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くま文庫|

インスタエッセイスト・クマコ
ロードバイク好き獣医師
@gourmetkumako


ようこそ!くま文庫へ!

インスタエッセイ「くま文庫」は、リール動画と写真、ごく短い文章で構成された気軽に読めるエッセイ集。インスタの@gourmetkumako でお読みいただけます。お楽しみいただけたら、クマコ感激!

著者紹介

インスタエッセイスト・クマコ
ロードバイク好き獣医師

大熊慶子 自転車&動物エッセイスト。ムツゴロウ・畑正憲さんも執筆した、共同通信人気ペットコラムに「獣医のキモチ」全五回を連載。全国の新聞に配信された。東京都杉並区出身。慶應大学文学部卒。カナダ・州立ビクトリア大学に交換留学。酪農学園大学獣医学部卒。毎日新聞記者を経て獣医師。東京大学動物医療センター内科系診療科研修医終了。一女一男の母。仕事のかたわら、動物、ロードバイクについてインスタグラムにエッセイを執筆中

ごあいさつ

事件記者時代〜ドリトル先生になりたい

私が文章を書き始めたきっかけは、やはり新聞記者時代にあります。事件記者でしたから、警察取材がメインでしたが、一方で、写真コラムを書くのが好きでした。木に登ってしまった子猫を消防署員が助けた写真記事や、社長がニワトリ好きで趣味で作ってしまったニワトリ博物館の記事、横浜の名の由来になった、古い地図だけに残る細長い洲の話などが心に残っています。しかし、ドリトル先生になりたい気持ちを抑えられず、北海道の獣医大に進学。酪農家や大動物獣医師を育てる大学は、校内に広い農場と数百匹の乳牛がいました。かわいいから飼うのではない、家畜としての動物と関わる大動物獣医師には感銘を受けました(獣医のキモチ第3話・「牛屋」)

外国暮らし、動物との暮らし

卒業後、夫と移り住んだバンコクでは、獣医師としてボランティアしました。たくさんいる野良犬と暮らすこと(獣医のキモチ第2話・「殺生をしない仏教国」)、伝統的な象使いの暮らし(獣医のキモチ第4話・「象と添い遂げる暮らし」には心を揺さぶられました。象と象使いのいる、タイ・ランパーンの国立タイ象保護センターThai Elephant Conservation Center は私の一番好きな場所。ですが、一方で自分の体験が人と違いすぎて、分かってもらえるとは思えず、あまり人には言ったことがありませんでした。でも、14歳になったタイ生まれの娘を今住んでいる日本から、センターの象使い学校に連れて行ったとき、共有している体験をもっと伝えたくて、言葉が溢れました。それが、今連載中の「眠る娘」です

ロードバイク大好き!

ベトナム・ハノイに住んでいるとき、Kindleで読んだ漫画、「弱虫ペダル」にはまり、近所の西湖という湖の回りを息子とママチャリで爆走していました。ロードバイクをはじめたのは日本に帰ってからですが、今では自分の生活の一部になっています。「クマコさんの気持ちを素直に言っているからいい」と言っていただける「梅野木峠」は、激坂で難儀する話。「最速店長杯」は2019年最速店長選手権のルポ。家族ぐるみのコーチにして、当時トキノサイクリングフィットネス店長(現ウィンスペース代表)、石倉龍二店長の観戦記です。迫力のインスタ・リール動画も人気なのでぜひ見ていただきたいです。「こぐま、しゅっとする」は、自転車とコーチに出会って成長する男の子、こぐまの物語です

目で見たままの感動を、言葉に

本は乱読ですが、好きな作家は、武田百合子と須賀敦子。目で見たままの感動を、大きな言葉を使わないで、鮮やかな映像にしてくれた、どちらも大変なエッセイの名手です。何かに感動したとき、もし武田百合子なら、須賀敦子なら、なんて言ってくれるだろう。そんなふうに思いながら、自分の言葉を、つづっています

目で見たままの感動を、言葉に

本は乱読ですが、好きな作家は、武田百合子と須賀敦子。目で見たままの感動を、大きな言葉を使わないで、鮮やかな映像にしてくれた、どちらも大変なエッセイの名手です。何かに感動したとき、もし武田百合子なら、須賀敦子なら、なんて言ってくれるだろう。そんなふうに思いながら、自分の言葉を、つづっています

作品のご紹介

人気作品
梅野木峠

 


 若い二人はとうに先へ進んで姿もみえない。


 針葉樹の間を抜けてくる風はひんやりと冷たい。細くなる峠道は、だんだんに斜度を増して、どんどんペダルは重くなる。

 

 つぎのカーブまで五十メートル、急な坂道は、そんなには続かない。あと数分で必ず終わる。

 

 斜度十六パーセント。心臓と肺が苦しくなる。足が棒のようになって痛い。急に踏み込んだり、足が止まったり、回転が不安定になる。ペダルと車輪が噛み合なくなる。スピードが落ちて前輪が蛇行する。

 

 でも絶対に止まらない。心で自分に言う。あきらめなければ数分で終わる。絶対に止まらない。

 

 その時、背中がびりびりと震えて、自転車ジャージのポケットの、携帯が鳴りだす。

 

 斜度十六パーセントのところで鳴るな。ちょっと心で笑う。そして口に出して言う。

 

 「絶対に止まらない」

 

 一歩を踏むが、次の一歩が踏めなくなる。もう倒れる。左足のビンディングシューズをひねって外し、足をつく。

 

 ついてしまったなら、電話に出ることにする。携帯を取り出し通話ボタンを押しながら、電話に出るには呼吸が荒すぎることに気付く。

 

 「ママ〜、いつ帰ってくるの〜」

 

 娘がのんびりとした声でいう。

 

 「三時ごろ。ツナパンがお台所にあるよ」


 せっかくだから、呼吸が下がるまで、二分くらい休む。

 

 坂が急すぎてペダルが自然には回らないから、右足を踏み込む半周の間だけで、左足のビンディングをペダルにはめるのは無理そうだ。

 

 白くなめくじの這ったあとがある、苔色のガードレールにつかまり左のビンディングをはめる。何度か呼吸をはかって、右足を踏み込むと同時にガードレールを手で押し、登り始める。負重が後ろ過ぎて前輪が何度が浮くが自転車は進む。

 

 いくつかのカーブを曲がったところで、降りて来る赤いジャージの若い男性とすれ違う。会釈をすると「がんばってください」と言う。親切な人だ。

 

 急に視界が開けて、先に行った小柄な二人が見え、見晴らしがいいわけでもない峠に着いた。

 

 「一橋大学の人に会った?」

 「会った」

 「何か言ってくれた?」

 「くれた」

 「友達が来るから応援してあげてって頼んだんだ」

 

 友人の一人がいう。

 

 「ありがとう。ここなんてところ?」

 

 「これじゃないかな、梅野木峠」


 来月この峠を登るレースに出る方の友人が石碑を指差す。写真を撮って下山する。

 

 体重が重い上に、スキーが好きで、何かの上に乗って落ちて行くのが怖くない自分は、今度は先に降りる。

 

 桜の花が並んで咲いていた国道脇で止まり、自転車と桜の写真を撮る。

 

 はなびらに一方から日があたり、薄いピンク色が透けてみえる。満開にはまだ間があり、誰もいない国道に、花びらはまだ落ちていない。

 

 「絶対に足をつかないって思ったのに、なんでついちゃったかなあ」。


 道路脇の桜の下で水を飲み、友達を待った。

当作品のインスタグラムはこちら↓

https://www.instagram.com/p/CMLYlnUl1KJ/?igshid=10quh754iadcm

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最速店長杯 前後編




最速店長杯(前篇)


 「全日本最速店長選手権」を見に行った。

 最速店長というのは、全国の自転車店の店長のなかで、自転車が一番速い人ということだが、自転車店の店長というのは、元は競輪選手、全日本、実業団、学生王者など、現役のころには名をとどろかせたしゃれにならない実力者がひしめいているらしい。それが仕事の合間に、寸暇を惜しんでトレーニングを積み、年に一度、自転車店が定休日の水曜日の午後に集まって脚を競うという、いぶし銀のような大会らしかった。

 九月の終り、千葉の下総運動公園に行った。

 自転車のフィットネスクラブに入会して、ロードバイクに乗り始め、最初はサドルからお尻を外して足をつく手順が分からなくなって転んだり、バスが怖くて幹線道路に出られなかったころから、自分はケイリン競技でインターハイを連覇した立派な選手だったのに、素人のおじさん、おばさんを手取り足取り教えてくれ、ツアーの上り坂では手が痛くなるまで皆の背中を押してくれた龍先生が、初めて自分のために走る晴れ舞台だから、主婦や老人や社会人の弟子の私らは仕事を休める者は休み、揃いの自転車ジャージを羽織って、応援に駆けつけた。 


きょうの龍先生は、黄色いラインの入った黒い、灰色にみえるほど薄いサイクルジャージを着て、ウエーブのかかった短髪に、眉毛に少し、サガンのようなカミソリを入れて、虹色に反射するオークリーのサングラスを決して外さなかった。人間であることから遠ざかろうとしているような緊張感があった。

 ホームストレート脇の芝地の小山に出場四十人の店長達が、色とりどりのジャージを着て、色とりどりの自転車を立て掛けて待ち、一人一人が名前を呼ばれてスタートラインに並んだ。名前を呼ばれると黄色い声が上がるような応援団を連れた龍先生のような選手は何人かで、地方から休みの日の一日だけ、レースに出るために一人で来ている人も多いようだった。

 いづれにしても自転車選手というのは、熱い筋肉になめらかな薄皮を纏って、たった一人で戦うから、誰もがしんとした雰囲気をまとっている。

 店長達は、観客に触れるくらいの、風がくるぐらいのすぐ目の前をスタートして行く。一周一・五キロのゆるい起伏のコースを五十周、合計七十五キロの勝負。スタート直後に選手が行き過ぎると、暑い日差しの公園は全く静かになり、やがてたくさんの車輪が回るラチェット音が響きはじめると、先頭の数人の集団が入れ替わりながら、あっと言う間に

通過して行き、芝生の公園を周回して視界から消えた。

 中盤にいた龍先生は十周目、ゴール前の登り坂を当り前みたいに先頭で上がって来て小さいガッツポーズをし、十周毎に設定されている最初のポイント賞を獲って行った。

 出場が決まってからこの一か月、体重を落し体を作ってきた龍先生でもこの大会は厳しいらしい。だから、ポイント賞は狙って行く作戦だと、レースに詳しい誰かが解説してくれた。        


 (次回後半へ続く) 






最速店長杯(後編)


 「逃げ三人、三十秒差!」

 応援の人が集団にいる選手に叫んで教えた。逃げが決まると危ないから追いつけと言っているのだ。残り三十周を過ぎた頃から、ブルー、ピンク、オレンジのジャージの逃げ三人と、龍先生のいる後続集団との差が開き出す。

だがスピードアップするにも、集団の速度はもう、ものすごく速い。車列は長くなったり、小集団になったり、龍先生の位置もめまぐるしく変わり、皆、緊迫していて、大きな熱量が吹きつけて来るようだ。

 ゴール前の坂で「ああ、くそっ」といいながら落ちて行く選手がいる。先頭から八十秒遅れで失格のルールがあるのだ。番号を呼ばれ、周回毎に何人かが消えて行った。

 残り二十周を過ぎて、遅れてはいないのに、龍先生はボトルを手にしたり、サドルから尻を浮かせて、気もそぞろにみえる周回がある。

 最後尾から、大量の水を帯のようにしたたらせながら登って行く赤いジャージの選手がいた。尋常ではない量の水が、コースに黒い筋を引いていく。

 結局勝負は逃げの三人がトップを決め、龍先生は坂の下から流れるようにゴールしてくる後続集団のスプリントを、先頭で競って六位を獲得した。

「ペースが速かった。中切れがきつかった」

「最終二十周から、途中で両脚が攣った。ゼッケンを止めている針を刺そうかと思った。最終周でボトルの水をかけたら治った。練習不足だった」

「応援に来てくれたのに、優勝できなくてすみません」

 龍先生はゴールのあと、回りを囲んだお弟子さん達に手を合わせて言った。

 そんなことはしなくていいのだ。そんなことは似合わない。勝っても負けても走ったのは自分だけなのだ。

勝った人は何年も何年も、勝ちたくて勝ちたくて備えて来た人達なのだ。結果は積んだ努力の総和なだけなんだろう。龍先生は来年はあの人達を、涼しい顔で抜き去るかもしれないじゃないかと、心の中で思った。

 三人の逃げに追いつくため、最終二十周からしかけた選手が集団をペースアップしたという。龍先生が脚を攣った周回だ。先頭に追いつくための勝負に出たその選手は、最後、熱中症になったということだ。

 あの選手のことかもしれない。体温を下げようと、ボトルの水を何回も浴びたのだろうか。たてがみのように水滴を放ちながら、最後の坂を登っていった選手の赤い色が、目の裏にいつまでも残った。

 平均時速四二キロ。過去九回の大会でもっともハイペースな争いを、足切りに合わずに完走できたのは四十人中十五人だけだった。


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連載中!
眠る娘 第一話 第二話
インスタグラムで連載中!



眠る娘 第一話


「タイへ行く」


 夏休みの終わり、娘のマツリカとチェンマイとランパーンの象使い学校、5日間のタイの旅に行く。

 

 バンコク行きの飛行機は出発が遅れてミールクーポンというのがもらえる。1人千円、2人で2千円、空港内のレストランで好きに食事をしていいという。


 バーカウンターの下に並んでいる海老せんべいの袋、ピンクや白や青海苔色の揚せんが詰っている6百円の大袋を、「これも買えますか」とバーテンのおじさんに聞くと、隣の売店の好きなお菓子を買っていいという。

 

 娘と喜んで、お菓子を選ぶ。でん六豆の豆菓子の詰め合わせ、じゃがりこ、じゃがビー、三角に焼いたチーズの袋菓子、ビーフ味のプレッツェル、いちごポッキー、アーモンドクラッシュポッキー、チョコ菓子のブラックサンダー、日本を代表する菓子を吟味して合計2千65円。これは道中の楽しみと、世話になる象使いへの土産にする。


 搭乗口の待合の窓にお菓子を並べて、駐機場の飛行機と一緒に写真を1枚撮る。すごく楽しい旅になりそうな気がしてくる。


𖦊 𖠰 𖥍 𖣰 𖥸 𖦥 𖦞 𖧷 𖢇 𖧡 𖣔


眠る娘 第二話


「バンコクの夜」


 深夜のバンコク・スワンナプーム空港の長い通路を歩き、日本円3万円をタイバーツに替えて、空港の外に出る。

 

空港ホテルにはとんでもなく大きな吹き抜けがあり、無数の小さなランプに縁取られた、ハスを模したピンクの作り物が中空にそそり立っている。


 「This is hotel rate, ここのはホテルレートだから、明日空港に行くならその方が安いから…」。


フロントの若い娘が親切に、アジアのカップル客に英語で説明するが、カップルはうろんな表情で立っている。ぴったりと髪をなでつけた要領のよさそうな男が換わる。ニッコリと笑い「オーケー、いくら替えますか」とお金を替えてやった。

 

 マツリカと裸足になってホテルの部屋の絨毯の上を歩いてみる。テレビをつけてタイのメロドラマを見る。タイ人と白人のハーフの美男美女が、女が金持ち、男が貧乏、「いけないと分かっている。でも止めることはできない」というような内容。

 

 真夜中過ぎ、シーツに潜ると興奮のうしろにある疲れが押し寄せてくる。足元にはマツリカが、そばかすの少しある頬をこけさせ、口をうすく開けて、倒れたように眠っている。 



𖦊 𖠰 𖥍 𖣰 𖥸 𖦥 𖦞 𖧷 𖢇 𖧡 𖣔


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母娘のタイゆるゆる旅

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新聞連載作品
獣医のキモチ 第四回 「牛屋」
共同通信から全国の新聞に配信された五回連載です。全作品はインスタグラムでお読みいただけます




獣医師を志して新聞記者を辞め、ほこりっぽい3月の横浜からフェリーで北海道に渡ったのは29歳の時だった。


札幌近郊の江別市はまだ雪深く、入学する市内の酪農学園大学では、構内にいる数百頭の牛の群れに目を見張った。

 

小さい時から「動物と話せるドリトル先生」が憧れだった。東京育ちの私にとって獣医師とは、猫に足を食いちぎられた文鳥、高齢でものを食べなくなった猫を診てくれた都会の動物病院の先生だった。

 

だが、北海道の大学で見たのは「かわいいから動物を飼う」のではない酪農家と、それを支える獣医師の姿だった。

 

酪農家は朝、デッキブラシを手に、自動車ほどもある大きな乳牛を牛舎から搾乳場に連れて行く。

 

牛舎ではふんを片付ける。のべつ食べている草食獣は、のべつふんをするから掃除はたいへんだ。昼間は牧草地に出て草を刈り、保存食糧を作る。

 

家畜の病気を診る獣医師は、食の安全を確保する役割を担っている。深夜、難産の牛のもとに駆け付け、凍える牛舎の中で母牛から子を引っ張り出す。産後、母牛の子宮が体外に押し出されてしまった時には、牛の下にはいつくばって子宮を体内に押し戻す。

 

酪農家も獣医師も、自分の時間と労力の多くを牛にささげていた。動物に対する愛と敬意とは、使った時間のことを指すのだと思った。

 

獣医師の仕事はきつく、給料は安い。勉強しても勉強しても思うところまで行けない。でも、まだ小学生の自分の子供に、この仕事に誇りを持っていると、いつか言ってやりたいと思う。 


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「獣医のキモチ」全五回は

2015年2-3月、共同通信ペットエッセイとして、全国の新聞に配信されました。

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獣医のキモチ 第四回 「牛屋」
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札幌近郊の江別市はまだ雪深く、入学する市内の酪農学園大学では、構内にいる数百頭の牛の群れに目を見張った。

 

小さい時から「動物と話せるドリトル先生」が憧れだった。東京育ちの私にとって獣医師とは、猫に足を食いちぎられた文鳥、高齢でものを食べなくなった猫を診てくれた都会の動物病院の先生だった。

 

だが、北海道の大学で見たのは「かわいいから動物を飼う」のではない酪農家と、それを支える獣医師の姿だった。

 

酪農家は朝、デッキブラシを手に、自動車ほどもある大きな乳牛を牛舎から搾乳場に連れて行く。

 

牛舎ではふんを片付ける。のべつ食べている草食獣は、のべつふんをするから掃除はたいへんだ。昼間は牧草地に出て草を刈り、保存食糧を作る。

 

家畜の病気を診る獣医師は、食の安全を確保する役割を担っている。深夜、難産の牛のもとに駆け付け、凍える牛舎の中で母牛から子を引っ張り出す。産後、母牛の子宮が体外に押し出されてしまった時には、牛の下にはいつくばって子宮を体内に押し戻す。

 

酪農家も獣医師も、自分の時間と労力の多くを牛にささげていた。動物に対する愛と敬意とは、使った時間のことを指すのだと思った。

 

獣医師の仕事はきつく、給料は安い。勉強しても勉強しても思うところまで行けない。でも、まだ小学生の自分の子供に、この仕事に誇りを持っていると、いつか言ってやりたいと思う。 


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