「ディープラーニング」の製造業での活用事例を2件紹介します。1件は食品製造業への画像検査での活用事例です。もう1件は繊維製品製造業でのパターン切取り最適化です。Kaggleとは違うデータサイエンティストの本当の仕事が解ります。

・データサイエンティストプロフィール(匿名とさせていただきます)
香川県高松市出身 データ分析にて、博士(理学)を取得後、自動車メーカー会社にてデータ分析に関わる。その後コンサルティングファームでデータ分析プロジェクトを歴任後独立 東北大学にて協力研究員を拝命中 応用数理学会所属

・オムロンエフエーストア編者から
製造でのデータサイエンス応用って難しいと思われませんか?事例が少なく、数式・数学・各種手法が難しい、費用対効果がわからない、正答率が高くないと実用にならない、などハードルは高いです。FAストアでは製造現場へのデータサイエンス活用に関して専門家に依頼、機械学習、BI活用も含め30事例を公開しています。他の事例は本コンテンツの最後にリンクがありますので、そのリンク先に掲載しています。


*「ディープラーニング」の技術詳細については書籍で勉強していただき、ここでは活用のヒントとなる事例を二つ紹介します。
*機密保持のため、若干抽象的な表現になっている部分があります。

学習手法「ディープラーニング」について

2016年、囲碁AI「AlphaGo(アルファ碁)」が、世界チャンピオンのイ・セドル氏を破った。当時は、AIが囲碁でプロに勝つまでに10年以上かかると言われており、その快挙は「AI(人工知能)」や「Deep Learning(深層学習)」というキーワードと共に世界中のメディアで報じられました。

AI(人工知能)とは、人間の知能そのものをもつ機械を作ろうとする立場もありますが、現在は機械に人間が知能を使ってする事をさせようとする技術が主流になっています。

 例えば人間は、野菜を見たときに「レタスなのか、キャベツなのか」を的確にそして素早く判断します。そのメカニズムは、過去の経験から見た目・匂いから得た情報を経験と照らし合わせ、「柔らかそうかどうか」「大きさはどれぐらい何か」「色は何色だろうか」を把握することで推測、判断します。AI(人工知能)は、人間の脳が行っている“推測”をコンピュータで模倣することになります。

 その際に重要なのが“学習の方法”です。AI(人工知能)も経験・知識がなければ推測できず、適切な回答を導きだす事が出来ません。人間もいくらレタスの仲間だといっても新種で作った赤色のスイカよりも大きいレタスを「レタス」と判断する事はできません。そこで新しく学びなおす事によってレタスと認識する事が出来るようになる。こういった技術の1つとして深層学習があります。

 深層学習は人間の脳神経回路をコンピュータ上で模倣した多層構造アルゴリズム「ディープラーニング」を用い、学習する特徴量そのもの、設定やお互いの関係性をAI(人工知能)自ら考えて作成します。この特徴量とは、大きさがどれぐらいだろうかと色は何色だろうかといった事に当たります。

「ディープラーニング」は学習により賢くなる

レタス

複数のレタス

データサイエンティストの仕事「ディープラーニング」活用事例1

外観検査の自動化
業種:食品製造業
従業員数:約1000名
活用ポイント:「ディープラーニング」が得意なことに活用、よくばらない

 製造業の中でも食品製造業は、人の口に入るものを作成するだけあって、中身の品質だけではなく外観にも厳しい。例えばラベル位置・消費期限の打刻位置・潰れていないかどうかを確認する。従来は人手にてこの検査をおこなっていたが、人材の確保が困難となり、深層学習にて自動的に判別出来ないかどうかというのがテーマである。

 特に、食品業界で1件たりとも異常を出す事はSNSでの拡散により、売り上げに強く影響を及ぼしてしまう。ただし、実際のデータを見ると正常なデータが99%以上を占める中、異常なデータが少ないためどうやって良不良判定学習するのが重要課題であった。

 もうひとつの課題としてラベルについてなにをどこまで検査するのか、検査の方針が決まっていなかったことが挙げられます。

 事前に用意されていた画像データは10万件以上、HD解像度、フルカラーのため10万 ×1280 ×720 ×3(RGB) ≒ 約2800億件のデータであった。また、深層学習といえどもこんなに解像度が必要とは限らないし、ラベル以外の背景も撮影されていた。そこでこのデータは使わなかった。専用カメラを定点設置した。専用にしてもらうだけで学習のためのノイズになる余計な背景等がなくなり、学習が容易になり検知のモデルの精度が向上し、分析のための高価なPCも必要なくなった。

 検査の方針作成として、不良品がほぼでないということが逆に功を奏した。一般的には外観検査というとこまかな傷や色やずれなどをすべて検査するアルゴリズムを用意して検査を行う。そのための照明の工夫やデータ数や個々の良不良判定のしきい値チューニングが大変になってくる。「ディープラーニング」は「ねこ」と「いぬ」の区別や「肺ガン」の発見等画像全体での判別は得意である。従来検査は「ねこの耳の長さ」という個別特徴量もはっきりした対象に適している。そこで「ディープラーニング」の特長を生かし良不良だけの判別だけとし、不良内容は人間がチェックする方針とした。不良品は少なくチェック人員は残るが費用的には最小限となる。

 また、良不良判断だけなら、モノクロでOKだし、画素数を大幅に減らすことができる。「ディープラーニング」の既存の研究や実績などから28×28の解像度でトライした。良品はほとんど差異がないようなものを予め間引き学習データを少なくする、不良品は少し変えたものを人為的につくり学習データを多くする等の工夫をおこない、実質使った学習データは1万件で不良品判別ができるようになった。

 精度をだそうと、いきなり解像度や深層学習の層を深くしがちであるが、まずは上記のように解像度は低いほうから検証・実験することが、リアルタイム検査の場合重要であり、コストも抑えられる。

 学習のための高価なPCも必要なかった。ただし実運用では動画をリアルタイムで処理、判定するため、やや高価なPCが必要だったがGPUといわれるような高価な特殊機は必要なかった。

 日本のITソフトウェアのだめな話として、「ソフトウェアを運用に合わせてカスタマイズ」する事で、「元のソフトウェアの原型は1%、残り99%はカスタマイズ」というものがある。本件も同様に、なにをどこまで検査するか決まっていなかったので、なんでも欠陥を見つけ無人化しよう的スタートであった。

それで工数ばかりかかる・そして出来ないというのは残念ながらある話である。アルファ碁が人間に勝てたのはよく大局観で勝っていたといわれるし「ディープラーニング」の得意なことに活用することが重要である。当初目標や運用が変わっても、上手くいくなら恐れず話をしてみることが本当に重要であると学んだプロジェクトであった。

データサイエンティストの仕事「ディープラーニング」活用事例2

布のパターン切取りの最適化
業種:繊維製品製造業
従業員数:約200名
活用ポイント:「ディープラーニング」が最適化に用いることができ、画像検査以外の応用もある

 最初相談されたときは大きな生地から、様々な大きさの必要な衣類に関する形を切り出して行く際、無駄なく出来る限り使いたいというのをコンピュータ処理にできないかという問題だった。また途中で過去の布の、余りを使うこともあるという条件が付いていた。

 今はセンスがあるハイスキルな人が行っているが定年まじかであり、コンピュータで同レベルなことができないかということだった。

 この案件は相談されたときから頭が痛かった。本音を言えば、断ろうと考えていた。なぜならばこの問題は、「組み合わせ2次元問題」かつ与えられる「領域が自由」という非常に高度な最適化問題であったからだ。高度な最適化問題では計算時間だけで極端な話、1年以上かかる事もざらであるからである。そのため私の友人でもあり同僚でもある超人エンジニアI氏に一回相談してから結論出そうと思った。

 I氏「AlphaGo」とかの深層学習系統のアルゴリズムならば、確信はないが初期値の布のサイズもある程度可変に出来るし、そのため布の最適化に良いのでは?他のアルゴリズムよりも深層学習ならば、汎用性が高いのではないの?一回とりあえずモデルが出来て計算も従来の最適化よりも速いのでは?通常の最適化はパターンの学習量が多く、一回一回の計算量が多いが、深層学習による最適化ならばモデルを適用するだけになるので楽になるのでは?」

 確かにそうかもしれない。チャレンジする価値はあるなと思い、やはり相談してみるものである。やったことないのでお客様に時間かかりそうですよと宣言、認めてもらった。

 まずは学習するための切り出しパターンを作るシミュレーションソフトを開発した。これは、乱数により、いくつかの靴下やTシャツなどでよく使うパターンの切り方を長方形の中にランダムに配置するものである。この中で残る面積が少ない良い配置として、「ディープラーニング」で学習させていくのである。もちろんある程度型取りの制約はあるが、靴下やTシャツにはいろんなサイズや型があるため学習時間としては、2万回以上・時間にして1日程放置して学習を行った。

 上記データで学習させたが、良い配置として上手くいった切り方を学習させただけでは上手くいかなかった。新しいデータを入れても上手く最適な切り方をだしてくれない。そこで、疑似的に悪いデータを意図的に作り、上手くいったパターンと上手くいかなかったパターンを学習する事によって上手くいくようになった。型の位置によって出力される布の型が非常に切りにくいような布のパターンもあったため余白を設ける事で切断しやすいようなパターンを出力するようになった。

どうやらAlphaGo等でも想定外の打ち手に対応するために、ある程度乱雑な悪いデータを入れていたようであった。

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