子どもたちに「夢をはぐくむ物語=映画」を届けたい!
いつもとちがう特別な空間で、たくさんの人とひとつのスクリーンを見つめる一体感と、そこから紡ぎ出される物語。
世界は広いということ、別の生き方の可能性を、映画体験を通して子どもたちが感じられますように。
ウガンダがまだ内戦状態だったころ、子どもたちが避難してきていた簡易宿泊所で、ある夜、わたしはふと「みんなで映画を観てみたいな」と思いました。
当時、現地の人たちが「シネマ」とよんでいたのは、古いブラウン管のテレビが置いてあるだけの、祖末な小屋。そこへ入るにはお金が必要で、子どもたちはこっそり壁のすきまからいつも中をのぞいていたのです(大人たちが観ていたのは、古いカンフー映画でした)。
できれば、大人向けの映画じゃなくて、子ども向けの「夢があってわくわくする作品」を観せてあげたい。日本に帰国して、どの作品にするか迷った結果「天空の城ラピュタ」の英語版DVDを買ってウガンダに戻りました。そしてある夜、みんなで観ました。
と言っても、わたしの小さなノートパソコンの画面を100人ほどでのぞきこんでの鑑賞です。それでも「はじめての映画」にみんな夢中になりました。現地の友人に、英語→アチョリ語(現地の言葉)のライブ吹き替えをやってもらいました。
その日から、子どもたちは空を見上げては「ラピュータ!」「あそこにある!」「どこどこ」「ほらあそこの雲の中!」と楽しそうに言い合っていました。
あの日、そこにいた少年のひとりに再会しました(彼はもう立派な青年になっていました)。
彼は当時を振り返って言いました。
「星空の下でみんなで観た映画が、大人になった今でも、忘れられない」
内戦が長く続き、両親と離れてすごした辛い時期に、子どもたちの心の中に楽しい思い出が残ったことはまるで奇跡のようだと思いました。
「あの夜は本当に楽しかったなあ」と、ぱっと輝くような彼の笑顔を見たとき、あらためて「映画が持つ力」を感じました。
今年はウガンダで実施して、その後、来年の上映予定地であるエチオピアまで足をのばす予定です。その翌年は西アフリカ、その翌年は南アフリカ・・・というように、アフリカ各地で移動映画館を実施したいと考えています。いつか「星空保護区」がある世界最古のナミブ砂漠で星空の下、子どもたちと映画を観られたら最高です。
映像を通して自分たちを紹介すること、声を発することはとても大事なことだと思います。彼らのクリエイティビティが刺激されて、cinema starsから未来のスターや映画監督が誕生したら、素敵です。
ウガンダは東アフリカに位置していて、面積は日本の本州ほど。「アフリカの真珠」とよばれる緑豊かな美しい国です。首都カンパラを中心とした都市部は急速に発展しており、高層ビルが立ち並び、車も人もにぎやかに行き交っています。
一方で地方は、まだまだその恩恵を受けられず、経済格差は広がるばかりです。
ウガンダは世界で最も若年層の割合が高い国です。全人口約4,032万人(日本の約3分の1)のうち、なんと半分以上が15歳以下の子どもです。日本の子どもの数は全人口約1.3億人に対して1,617万人であることと比較すると、ウガンダがいかに「若者の国」かということがわかります。ウガンダの子どもたちは、まさにウガンダの未来そのもの。
でも、こうした子どもたちのなかには、厳しい環境で辛い経験をした子どもたちがいます。それが、今回、移動映画館を開催する地域の子どもたちです。
わたしは2001年からウガンダ北部のグルという町に通っています。初めて行ったとき、グルはすでに内戦状態でした。
「戦争」を目の当たりにして、大きなショックを受けました。それはあまりにも厳しい現実で、わたしはどうしていいかわからず、途方に暮れていました。
「とにかく僕たちのことを日本の人たちに伝えて」というウガンダの友人たちの声に背中を押されて、写真や文章、講演会や写真展で内戦のことを伝える活動をしてきました。
ウガンダで取材をしながら、子どもたちの命を守るための「避難シェルター」建設のコーディネートや運営のお手伝いをしてたのですが、子どもたちと一緒に寝泊まりしているときに、気がつきました。
「この子たちは、深刻なトラウマを抱えている」
ゲリラ軍に誘拐された経験を持つ子ども、目の前で親を殺された子ども、自分自身が戦った子ども、人を殺した経験がある子ども、レイプされた子ども・・・
想像を絶するような辛い経験をした子どもたちは、夜中になると悪夢にうなされ、泣き叫びながら起きてくるのです。わたしは、子どもたちの背中をさすることしかできませんでした。
眠れないことに苛立ち、奇行を繰り返す子どももいました。まるで兵士のように、こん棒を持って他の子を挑発したり、そのことによって、ゲリラ軍が来た恐怖体験を思い出してガタガタ震える他の子どもがいたり、恐怖と不安が高まり、毎日ピリピリと緊張状態が続きました。
どうすれば子どもたちが安心して夜をすごせるのか、わたしは現地スタッフたちと毎日話し合っていました。そんな時、一緒に働いていたあるウガンダ人スタッフが提案しました。
「ぼくたちにとって、“たき火”は特別な文化だ。長老が民話を語り、みんなで歌って踊って演劇をする。それは娯楽であり、たくさんの物語を学ぶ場所だった。今は、戦争のせいでそれができなくなったけど、ここ(避難所)なら安全だ。今夜からたき火をしてみないか」
わたしたちは翌日さっそく、薪を買い、長老を招き、地元のミュージシャンを呼び、みんなでたき火のまわりに集まりました。
歌って踊って、たくさん笑い、語りました。その夜、子どもたちはぐっすり眠りました。
電気のない、アフリカの真っ暗な夜。星空とたき火と蛍の光がとても印象的でした。子どもたちの瞳もきらきら輝いていました。
みんなでたき火を見つめているだけで、心が満たされました。それは子どもたちも同じだったようです。
毎晩のたき火を半年ぐらい続けると、悪夢にうなされる子どもの数はぐっと減りました。親元を離れて避難している子どもたちはそのストレスやトラウマを忘れる瞬間が必要だったのかもしれません。
ウガンダに行って夜風に吹かれながら子どもたちと一緒に映画を観る。
はためくスクリーンに繰り広げられる話に
彼らはきっと、大笑いしたり、号泣したり、とにかくにぎやかだろうな。
そして翌日、通りには主人公になりきった子どもたちが。
未知の世界への扉を開く素晴らしい夜になりますように。
サカキマンゴー(リンバ奏者)
教育学研究者。上智大学グローバル教育センター特任助教、東京大学教育学研究科特任研究員。専門は開発教育。アフリカ14カ国の渡航経験をもとに「アフリカを学ぶ、アフリカから学ぶ」をテーマにした研究内容やカリキュラムについて、アフリカでのフィールドワークを基盤とした研究・実践を積み重ねている。