物納(ぶつのう)とは、「相続税をお金で払うのではなく、モノで払う」ことです。
お父さまが亡くなられて相続税の納税が必要になったが、残してくれた相続財産は不動産ばかりで現金がない。
相続税は「全額を、現金で、一括で支払う」のが原則。
そんな時、相続税の支払いに頭を悩ませることになります。
このように納税資金が足りない場合、現金の代わりに相続財産である不動産や株などを納める方法を「物納」といいます。
しかし、どんな場合でも物納が認められるわけではありません。
あくまでも最終の手段であって、後で解説する「延納」によっても金銭納付することが難しい場合に限って認められることに注意が必要です。
納税資金にお困りの場合は、ご自身で色々と策を練るのも良いですが、早めに税理士(税務コンサルタント)に相談いただくことをオススメします!
次の理由により、物納申請手続き経験の豊富な、不動産の知識を持った税理士に相談することが重要です!
1.物納の手続きは難しく、かつ特殊な業務でしたが、平成18年度改正でさらに難度が上がり、短期決着型(10ヵ月以内に正確な申請が必要)となりました。どう難しくなったのかは後述します。
2.物納申請した財産(不動産等)は財務局の物件チェックが入るため、チェックに耐えうる物件なのかどうか等、不動産業者(土地家屋調査士を含む)に近い専門知識も必要です。
税金を納める方法は、金銭納付が原則です。
しかし、相続税を申告期限までに一括で用意できないときは、条件付で金銭分割払いする方法を選択することも可能です。これを「延納」といいます。
延納でも納付が困難な場合には、金銭納付に代え「物納」が認められることもあります。
物納で相続税を納付する場合には、財産(土地など)は時価ではなく相続税評価額により計算されます。
仮に時価1億円の土地があり、相続税評価額が5,000万円であったとしますと、物納での相続税の支払いは1億円ではなく5,000万円が納付されるということになります。
さらに、小規模宅地等の特例の適用を受けた土地などを物納すると、その特例が適用された後の価格(80%減額)になり、2,000万円が納付額と計算されてしまいます。
このような場合は、物納よりも第三者に売却して、一旦換金してから相続税を納付するほうがよい場合もあります。
売却できたとしても、譲渡所得税、不動産会社への仲介手数料等が別途かかってくることもありますので、売却の経費や税金を差し引いた残額で考える必要があります。同時に、土地などを最も高く売却する方法も検討することも大切です。
売却時価が最も高くなるかは、不動産業者(数社)の査定額等を参考に、税務コンサルタントに相談するのがよいでしょう。
物納の許可を得るためには要件を全て満たしていなければなりません。
その要件とは、
1.延納によっても金銭で納付することが不可能であること
2.物納の対象財産として認められる物であり、その財産が日本国内にあること
3.相続税の申告期限までに物納申請書を税務署に提出していること
物納ができる財産かどうか確認する
物納申請財産は、日本国内にある財産に限定され、ご自身の相続財産をどれでも好きなように選べば国が受け取ってくれるわけではなく、現在は物納の基準が厳格化されています。
また、申請順位も図のように定められています。
第1順位の財産から適用され、第2順位の財産は第1順位の適当な財産がない場合に適用されます。ただし、①不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等の適用の順は特に定めはなく納税者の選択になるようです。
上記に該当しないものは基本物納することはできません。加えて、上記に該当する場合も国が処分することができない物や困難な物は対象外となります。(管理処分不適格財産)
「既に担保の対象になっている不動産」「権利関係で揉めている不動産」「境界線が不明瞭な土地」などは管理処分不適格財産扱いされてしまい、物納の対象から外されてしまいますので、注意が必要です。
物納の申請手続きは10ヵ月以内に正しい申請が必要です。
物納を申請する際にはたくさんの書類が必要となります。
そのことからも物納とは急に思い立って取り組むと期日に間に合わないことが多く、しっかりと準備が必要となります。
平成18年の改正前は相続税の申告では「とりあえず物納」でした。
「とりあえず物納」とは、相続税申告書と一緒に物納申請書も出しておき、許可(=国が財産を受け取る)が出るまでの期間は、原則として利子税(利息)はかからなかったので、必要書類(土地の測量図、賃貸借契約書等)を後でしっかり揃えれば良かったんです。
ですが、改正後は原則として、物納申請書を提出するまで(提出期限は相続税申告書提出と同じです)に、必要書類を全て提出するということになりました。
書類を全て提出後物納が認められるまでは、相続税をまだ払っていない状態ですから、利子税(利息)がかかるようになってしまいました。
したがって、「とりあえず物納」という考え方は無くなりました。
利子税は相続財産の中で不動産が占める割合などによって異なりますが、概ね年2~3%となります。
物納(土地・建物)は、不動産業者(土地家屋調査士を含む)に近い知識が必要です。
不動産を物納申請した際、財務局の担当官が現地調査に来て、色々と質問されます。その時土地家屋調査士の先生にも立ち会ってもらえればよいのですが、申請者の代理人である税理士自身も最低限の不動産知識が必要です。
例えば次のような知識です。
・接道する道路の種別
・インフラ(水道・下水道・ガス・電柱)に関する知識と状況
・地中埋設物(土壌汚染等)
・越境物(樹木・軒先等)の確認及び取扱い
・通行承諾書(表通りまでの私道所有者との確認書)
・測量図(座標軸を基にした図面、三斜求積図は不可)
・官民境界・民民境界の筆界確認書
・境界杭(境界標)の種類
・貸宅地の場合は、借地人ごとの分筆、賃貸借契約書
そして、物納には不動産売却と同程度の費用が必要なことも覚えておかなければなりません。
前述の測量図・筆界確認書を作成する費用として、測量士・土地家屋調査士に調査費用(30万~100万円)を支払う必要があります。
また、税理士に対しても、売買仲介手数料(3%)に近い報酬が生じます。
先に説明した「金銭納付を困難とする理由書」記載の物納許可限度額と物納申請財産評価額とは一致しないものです。
許可限度額を超える物納は通常できないので、分筆することになるのですが、切り離した土地が単独では利用できないときなどは超過物納を認められることがあります。
相続税は申告期限から5年間は納税者から相続税の申告が過大であったことを事由として相続税の還付を請求することができます。
例えば
①一部の未分割遺産の分割協議が3年以内に整い、小規模宅地等の特例が適用される場合
②不動産(土地等)の財産評価が過大であった場合
においては、相続税の還付を請求(これを「更正の請求」といいます。)をすることができます。物納を申請した相続人等の税金も金銭で還付されることがあります。結果的に上記で説明した「超過物納」ということになります。
物納のメリット・デメリット
上記で物納について解説してきましたが、ここで物納を行うメリットとデメリットを整理したいと思います。
このようなメリットやデメリットがありますが、実際にいくらの相続財産を保有しているのか。またその種類や状態によって物納を行う方が良いのか悪いのか分かれるところです。
そのため、早めに税理士(税務コンサルタント)ご相談いただくのが一番です。
相続税を専門とする税理士に依頼しなければ的確なアドバイスが受けられない場合がありますので、慎重に税理士を選びましょう。