amicitia×Essay
archives
週刊朝日【増刊】クオリタ 1998年10月25日号楽しまなくっちゃ!!イタリア的おいしい生活
豪華客船時代の船出を告げる「ふじ丸」ー。
1989年4月29日、飛行機なら4時間で行ける香港へ、波と光と海風の豊かな時間をかけて4日後に到着。その後、台北、基隆に寄港して東京へ帰る10泊11日の処女航海に旅立った。”浮かぶリゾートホテル”を楽しむ数の衣装と、優雅に過ごすための小道具を大きなトランクにつめて「ボン・ボワイヤージュ!」。船旅(クルーズ)はテープの虹を船腹にきらめかせて始まった。
キール・ロワイヤルを片手に......夕方5時、出航の時から続いていたざわめきが消えていった。パブリックスペースには人影がない。ドレスアップのために皆、それぞれの船室(キャビン)にこもってしまったのだ。今宵は船長(キャプテン)主催の「ウェルカム・カクテル・パーティー」。ロングドレスや訪問着に身を包んだ淑女と、タキシードやダークスーツの紳士が続々と登場する。真っ赤なタキシードのちびっ子紳士の姿も見える。まるで外国映画のワンシーンみたい.....私の気持ちもどんどん高揚していくのがわかる。エメラルドラウンジでは、神津船長と武谷機関長がにこやかな笑顔で、ひとりひとりを招き入れてくれた。カクテルを手に、船長を囲んでの談笑。ピアノの調べ。しだいに背伸びしていた気分が和らいでいった。航海中のすべてを託す船長の、おだやかでウィットに富んだ人柄が、この船の乗員(クルー)をはじめ、船室(キャビン)のすみずみまで行き届いているように思えた。
home