平成23年4月1日に民法766条等が改正されました。
その国会の審議において、江田法務大臣は、
「合意ができる前にあえて無理して子を移動させてそして自分の管理下に置けば、後は継続性の原則で守られるという、そういうことはやっぱりあってはいけない。」と明言しています。
平成29年3月8日の衆議院法務委員会で、金田法務大臣が当時の江田大臣答弁を踏襲すると答弁しています。
違法な連れ去りは、親権監護権決定の際に不利な判断要素とすべきなのです。
この点に関しては、
平成23年の民法766条等の改正の審議の際、継続性の原則を適用すべきではないという議員の指摘に対し、
当時の最高裁判所事務総局家庭局長は、
「法改正が行われた場合、新たに定められた法律の趣旨に乗っ取った法の解釈、適用あるいは実務の運用がなされるべきである。」との答弁しています。
これについて最高裁判所としても引き続き踏襲するということを、
やはり、平成29年3月8日の衆議院法務委員会で村田最高裁判所事務総局家庭局長が述べています。
これを踏まえ、実際の裁判所の運用においても、
連れ去り得(連れ去っても、継続性の原則を重視するあまり、親権者の指定に際し不利にならない)を招くことがない運用に是正される必要があります。
平成23年の国会審議に際して、いわゆるフレンドリー・ペアレント・ルール(寛容性の原則)を採用し、
他方の親と子どもとの交流に、より寛容な親に親権監護権を与えるのが望ましいとするのが、
民法766条改正の趣旨であることについても明言されています。
法務大臣は「監護について必要な事項の具体例として(面会交流を)条文の中に明示をする、このことによって、協議上の離婚をするに際して、当事者間でその取り決めをすることを促しているんだ、これが我々国会の意思なんだ、こういうことを家庭裁判所にもよくわかっていただいて、そうした家裁での運用、そして、その運用を通じて、一般に、協議離婚する場合にもやはりそこは取り決めが必要なんだ、そういう社会の常識を作っていこうと考えている」とも述べています。
かかる法務大臣の発言を踏まえ、
民法766条の改正趣旨を尊重するよう、最高裁判所事務総局家庭局から、
少なくとも三回にわたり、通知が全裁判所に対して出されている。
また、寺田逸郎最高裁判所長官も平成26年4月1日の就任時、
「裁判所にとって、新たに本日施行されたハーグ条約関連法にあるように、家庭内の出来事や国際的な広がりのある分野もが視野に入ってくることも普通に見られるようになっています。このような状況に対応し、司法の機能を充実、強化していくため、国内の実情はもとより国際社会の潮流も見据えて検討を深め、国民の期待と信頼に応え得るよう不断に努力を重ねていくことが求められている」との談話を発表しています。
平成27年6月18日の高等裁判所長官、地方裁判所長、家庭裁判所長会同における最高裁判所長官挨拶においても
「家族間の問題であっても、手続の透明性と権利義務の明確化を求める事件が増え・・・裁判官を始めとする家事事件を担当する職員は、このような家事事件をめぐる状況の変化を踏まえ、常に実情に即した問題意識を持ち、新しい発想と創意工夫を持って、実務の運営の改善に取り組んでいかなければなりません。」と述べており、民法766条の改正を踏まえた運用を求めています。
子どもの「連れ去り」については、
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(平成26年条約第2号。以下「ハーグ条約」という。)3条において
「共同または単独で有する監護の権利(CustodyRight)を侵害していること」と規定し、
同5条において「『監護の権利』には、子の監護に関する権利、特に子の居所を決定する権利を含む」とされている。
このように、ハーグ条約では、子の居所を決定する権利を侵害する行為は「子の連れ去り」に該当すると規定しており、
日本もハーグ条約に批准しています。
ハーグ条約は国際間の子どもの連れ去り問題における規範ですが、
国際間で子どもの連れ去りが問題とされ、条約で明記されているにもかかわらず、
国内では許されるとする理由は一切ないでしょう。
ハーグ条約とは、
子に有害な影響を与える子の連れ去りを抑止し、子の利益に資する面会交流の機会を確保することを目的とする条約です。
最高裁判所からの通知書にあるとおり、ハーグ条約批准に伴い、
民法766条の改正趣旨にも、改めて配慮しなければならないのは、裁判官のみならず、弁護士らも同様でしょう。
個人的な思想・信条に囚われて法を無視することは許されず、法律に沿った主張をしなければならないはずです。
いずれにせよ、父親(最近は、母親が被害者になることも少なくない)と子どもとを、ある日突然「連れ去り」引き離す行為は、正当化されえないのです。
児童の権利条約(平成6年条約第2号)9条1項は、
「締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。」と規定する。
また、7条1項は、「児童は…できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。」と規定し、
9条3項は「締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を 維持する権利を尊重する。」と規定している。
一方の親の同意なく子どもを連れ去る行為は、かかる児童の権利条約9条1項に明確に反しており、
また、子どもの連れ去り及びその後の引き離しは同条約7条1項、9条3項に違反するのです。
そして、平成28年6月3日に公布された児童福祉法等の一部を改正する法律(平成28年法律第63号)によって、
同法1条が改正され「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する。」と、
「児童の権利条約」に則って児童福祉法を運用するよう明記されたことも踏まえれば、
児童の権利条約に基づき法解釈をすることは「児童の福祉」「子どもの利益」に適うものである。