対馬の郷土料理に、「ろくべえ」がある。せんだんごを麺状にして茹でたものを、魚や鶏の出汁で食べる。夏になれば、「せんちまき」を作る。せんだんごを熱湯でこね、中に餡子を入れて山帰来の葉(サルトリイバラ)で包み、せいろで蒸したものだ。冬は、米粉と一緒に丸めて蒸し、臼でついた「せんもち」を米のお餅と同じように食べる。例えるならこんにゃくの様な柔らかさだが、噛めば噛むほど旨味が出てくる。素朴で懐かしい味だが、また食べたくなる。それが「せんだんご」の魅力だと思う。
せんだんごの作り方は人によって細かく異なり、それにより食感や味も違う。長年作るうちに自分好みの美味しさになるそうだ。また作り方は同じでも、毎年同じ味になる訳ではなく、奥が深い。
その奥深さは、長い工程の間に育まれる微生物たちの働きに所以するのかも知れない。山水にさらす時点で発酵が始まり、軒下で1カ月間、カビ類、酵母類、乳酸菌などあらゆる周囲の微生物が付着していく。
内山は他の地区と比べて2、3度気温が低い。長崎市内で、同じ手法で10月に加工すると、発酵が進み過ぎて失敗したそうだ。また、研究者により、この「千の手間」を短縮できないかと試みが為されたが、一つも省ける手間は無かったという。「省きたいと思う作業はないよ、どれも楽しいからね、だんだん変わっていくのが面白くて、しっかり見ながらやりよります。」とお母さんは言う。
寒風の厳しい気候や多種多様な植物に囲まれた環境と、多くの手間を苦労を惜しまない人の掌があって、この美味しい「せんだんご」は完成するのだ。