これはある男の身に起こった
世にも不思議なお話である、、、。







初めて東京の満員電車に遭遇したときの衝撃は今でも忘れない。

当時僕は大学生。

ゼミではるばる鳥取から東京に合宿に来た。



夏の暑い季節だった。

白いシャツや黒いスーツに
身を包んだ中年男性たちが、
体をぎゅうぎゅう密着させながら、
苦しそうなそうな顔で
押し合いへし合いしていた。

饐えた体臭が充満していた。

車内は空調が効いていたはずだが、
多くの人が額に汗をかき、
シャツの脇や背中に大きな染みをつくっていた。

正直立っているだけでも激しく消耗したが、
このサラリーマンたちは
これから会社で丸一日忙しく働いて、
また帰りにこんな電車に乗るのだから、
みんな超人だなと思った。

僕はやたらと体を押し付けてくる
目の前のおじさんの禿げかかった頭皮に
浮かぶ汗に触れないよう気を付けながら、
将来自分もこんな風に
黒いスーツに身を包んで、
毎日早起きして、
死んだ魚の目をしながら
会社に通う人生を送るのかもしれないと
漠然と思っていた。

将来小説家になりたかった僕にとって、
それはひどく憂鬱な未来だった。

約四十年、
僕が白髪になるまで連綿と続く
通勤と労働の日々。



僕はよく自由な人生を夢想した。

もし宝くじが当たったらどうしよう、
などと考えたり話したりするのが好きだった。

家が極貧で、
学費や借金を払うために
毎日深夜までアルバイトをしていたので、
ことさら自由に憧れていたのかもしれない。






つづく、、、。